可愛いなぁヤンデレ
……きららのキックが案外効いてる。
足元にくらくら来ながら歩いていると、後ろからきららの声がした。
「良也、くん。はぁ、はぁ……」
「大丈夫か?」
「心配、には及びません、わ。げほっ」
本当かな?という視線に気付いたのかいつもの通りに扇子を開いて冷静を装う。……何しに追ってきたんだろうか。伊澄もいないし、一人で出歩くと危ないってのに。
「今日は、その」
「ん?」
「どうも、でした」
頭を下げた、だと?
あの高飛車で傲慢極まりなかったきららが!?
少し、しょんぼりとしてきららは俺を見つめる。
「ん。大丈夫だよ」
「え?で、でも命を狙われたんですのよ。もっとわたくしとお姉様、心に何かないんですの?」
「ん、えーと」
おぉ。選択肢さん、さっきは出ないでこの野郎。
ふぅ、まぁいいや。『見返りを寄越せ』『みんなが無事な事が一番幸せさ』『身体で払ってもらうかぐへへへ』かぁ。
選択肢の二つがゲスの極み少年なんですが。こうゆう流れだ。後々攻略しないといけない相手だし、好感度は掴んでおこう。
「みんなが無事な事が一番幸せさ」
「……くっさい台詞ですわ」
「はは。俺もそう思う」
「何ですか、それ」
気のせいだろうか。この前よりも視線が柔らかいような……最近まではてめぇお姉様に近付くなよ八つ裂きにすっぞ?みたいな、感じだったけど。
「心とお姉様の言った通りですわ。
あなたは、普通の男性とは違うようです」
「そんなに酷いのか他の男性」
「ええ。それはそれは。性欲と強欲の化身みたいなクソブ男ばっかり」
言われようが酷すぎる。性欲と強欲はいいにしてもブ男はやめてあげて。どうにもならない奴だから。
でも、話を聞いているとそりゃあ信じられなくもなると思ってくる。言い寄ってくる男達はみんな金目当てで、いいなぁ。とか思った人が悪人だったりしたらしい。
「壮絶ですなぁ」
「でしょう?だからこそ、わたくしとお姉様をイロハ……こほん。イロハオエで見ないあなたは……って何を笑ってますの!!」
「いや、ははっ言い直せてないからっ何だか可愛いなぁって」
「か、可愛い!?」
「え?うん。きららはうららとは変わった可愛さがあるよなぁ」
腕を組んで頷く俺の身体が宙に浮く。
いきなりの投げ技に受け身を取り損ねた俺の肺から空気が全て吐き出されて、投げ飛ばしたのがきららだと理解するのに少しかかった。
「な、にすんの!?」
「こっちのセリフですわ!!わたくしを、可愛いですって!?」
「言われ慣れてそーだが?」
「今までの有象無象は美しいとか芸術のようだとか、そういうもっと洒落た感じですわ!!
あなたのようなそんな、軽ーい感じでへらへら言われたことなどありませぬ!!」
武士になっちゃった。
顔を赤くして、まだ立ち上がれずにいる俺を踏んで去って行くきらら。
勿論背中を追うことは出来ずに、踏まれたところの痛みをしんしんと感じていた。




