貫くヤンデレ
俺の説得が珍しく通じて今日一日限定で、きららの警護をすることを妹と幼なじみからの許可が下りた。
「じゃあお兄さん。気をつけて下さいね。
もし怪我をしたなら連絡を。千堂院の一族を狩った後にその犯人を刻みます」
「良也、これラッキーアイテム。使えば相手からラッキーカラー出るからね。気をつけてね」
弓月さん、これナイフですよね?ラッキーカラー出るって何!?あぁ、血かぁ!!何だかリアリティがあって凄く怖いんですけど!!
「では、良也さん。現在は朝の7時ですけど、まぁ夜適当に迎えに来ますね」
「お、おう」
リムジンが去って、深鈴と弓月も居なくなって。
ただひーたんはすぐそこに居た。
「りょーたんおはよう」
「お、はようひーたん」
「ねぇさっきの人。金髪のおっぱいとスーツの美人さん、だあれ?」
「金髪のおっぱい……ああ。友達のうらら。と伊澄だよ」
「ふうん。そっかぁ」
そして、さっきの場面に戻るのだが。
ひーたんは俺をバカにしたきららが許せないようで、殺そうとしているだろう殺気。
きららはきららで、命の危機を感じながらも「えぇこいつぅ?」が強くて危機どころじゃない。
「やっぱ、出るよね」
『きららを庇う』『ひーたんを止める』『一目散に逃げる』と出されたらとりあえずひーたん止めてみますか。流れ的に。
「ひーたん、聞いてくれ。友達からのお願いは断れないのだよ俺は」
「知ってるよ、そうゆう誠実なところ大好きだもん。だからこそ大好きなりょーたんをバカにしたそいつを、殺す」
「はん。男の趣味が知れるわ」
「ちょっときらら。ひーたんマジだから。やめといて」
カッター二本になってるから!!
きららは腕を組んで鼻で笑っている。自分に向けられたこの激しい気に気付いてないのかな!?
ひーたんの動きに気を付けながら、きららも気にする。これは、神経を使うぞ……!!
と溜め息を吐く俺の前に選択肢が現れる。
『きららあぶない!!』『ひーたん避けて!!』『二人を掴んでぶん投げる』の三つ。
どうするかなぁと考える俺の視界にカウントが見えた。それに気付いた頃にはもう一からゼロになろうとしていて、選ぶ間も無く時間は動き出す。
「お姉様のお願いじゃなければこんなや」
言葉が途切れる。
ひーたんに視線を移した一瞬の間。
その一瞬で、きららは死んでいた。
眉間に開いた穴を見て、すぐに死んでいると理解する。嘘だろ、スナイパー?そんな、ものがこんな住宅街の真ん中にいるのかよ!!
「え、こいつ、死んで」
「ひーたん!!」
目撃者を生かしておくとは思えない、と手を伸ばし抱き寄せたひーたんの横腹を凶弾が貫く。
肉が抉れて血が溢れ出す。手で抑えようにも、止まる気配はない。
「畜生っ!!ひーたん、大丈夫だから!!俺が「えへへ。りょーたんにぎゅってされちゃった」
力を無くしてゆく身体を抱き上げて、路地へと隠れる。射線からは外れただろう……けどひーたんが……。
「ひーたん!!」
「ああ。りょーたん、りょーたん。大好き。
あなたの腕の、なかで終われるんだ、ね」
「だ、いじょうぶだから!!すぐ、医者に」
「りょーたん」
俺を呼ぶその一言で、ひーたんの身体が異様に重くなる。完全に力を無くした理由は聞かずとも理解できた。
「また、死なせた。ごめん、ひーたん、ごめん、きらら」
路地から出て、きららの眉間を貫いた方向に目を凝らす。
何かが光った気がした。
そして目を開けると、二人は生きていた。
俺が死ぬことで二人が戻った。
……さて、頭を回せ。最悪の未来を変えるんだ。




