罵倒とヤンデレ
……まさかの展開だあ。
俺の後ろには不機嫌そうに舌打ちをし続けるきらら。し続けないで、傷付くよ。
そして追い打ちに笑いながら虚ろに佇むひーたんが目の前に立っていた。この地獄絵図になったかと言うと時間は朝へと遡る。
今朝、深鈴と弓月と遠くでこっちを見るひーたんと登校している時だった。目の前で急ブレーキをしたリムジンからうららと伊澄が降りてきて、俺にゆっくりと頭を下げる。
「お願いがあります」
「嫌な予感しかしねぇ」
「お兄さんこの方達は一体誰ですか。愛するお兄さんに軽々しくお願いだのと、狩ってもいいですか」
「またこいつら……良也に何の用よ。せっかくのあたしとの時間を邪魔しやがって」
あぁー後ろからの視線がやばーいことに。
と、とりあえず話と場を整理しないと、俺が危ないことになるのは目に見えてるし。
「えっと深鈴こちらは友達の千堂院うららと伊澄心。弓月許したれ。多分早急な用なんだろうよ」
後ろに視線を向けると笑っていた。怖い。
……さあて、話を聞くとしようか。
「わたくし、命を狙われておりましてー」
「軽いな」
「ボクだけじゃあお嬢様方を守りきれないと判断しました。本当に、悔しいですけど」
「それで、なんでお兄さんの所に?」
「そうよ。あたしの良也だよ」
「お兄さんは妹のものです」
「いーや、あたしだ」
ひーたんの悪魔的オーラが肌を突く。鳥肌を感じながら、二人の争いは置いておくとしてもっと話を聞こうじゃあないか。
「良也殿にはきららお嬢様の警護をお願いしたく、参りました」
「え、うららじゃなく?」
「はい、きららお嬢様です」
「俺、嫌われてるぜ?」
「はい。知ってます、ゴキブリとキスをすることよりも貴方が嫌いだと」
「ちょ、その情報いらなぁい」
えらい嫌われてるな。それを聞いて殺気が伊澄に向けられる。いや伊澄に向けてどうするよ。
「きららは?」
「中にいらっしゃいます」
「きららー出てきてぇ」
「はい、お姉様」
あいも変わらず俺を物凄い蔑んだ目で見る。
それを感じたのか、深鈴と弓月はバックに手を入れて何かを出そうとしていた。ちらりと見えた包丁とメリケンサックをしまわせる。
「なんで、わたくしがこんな路肩の石、改。みたいな奴に守られなければ……」
姉妹揃って日本語ズレてるぞ、とはツッコミを入れられず黙っていると伊澄が俺を指差した。
「この方はバカ正直で利益より人を優先できる稀有な方です。なら、使えます」
「そうそう。良也さんは滅多にいない天然素材のおバカさんだから。わたくし達を裏切らないとはっきりわかります」
「あなた達。いつまでお兄さんの頭が単純明快なバカだというのを責めるのですか。愛するお兄さんの心を裂くというならあなた方を物理的に裂きますよ」
「そうだよ。あたしの良也は確かにバカだけどさ。映画行った時もハンバーガーをテイクオフしようかとか言ってたし。テイクアウトだよねそれ」
「テイクオフ?ハンバーガー乗ってどこ行こうとしてるんですかね良也さん」
いや、擁護してないからね!?バカにしてるからね!!テイクオフはちょっと間違えただけでしょうが!!
みんながワイワイ俺をバカにするのを聴きながら何故か体力は点滅していて、あぁ精神的ダメージもうけてるのね、と納得しながら耳を塞いだ。




