ささやかなヤンデレ
うららさんねぇ。いつもはお嬢様と呼んでいた筈だが……そこらへんを探っていかないと、伊澄は攻略出来ないか。
それにもう一人。伊澄とは普通に話せるまでにはなれるかもしれないイベントはあったけれど、あのどこぞのスタンド使いみたいな無茶をするお嬢様とはまともに口も利けないし。
うららに頼んでもう少し絡ませてもらうか。
しかも、誰にも見られないように特にひーたん、弓月、深鈴だ。
殺しかねないしね。自分が死ぬのは構わない。あと、残機はまだ90以上あるし。
だがヒロインが死ぬのはいただけない。胸が苦しくなるから。
「ただいまぁ」
「お兄さん、お帰りなさい。映画でも行ったんですか?」
「え、なんでわかるの」
「今朝の占いで、外に出て映画を見ることが吉とありましたので。弓月さんに待ち伏せされてご一緒に向かったのかと」
ここまで勘が鋭いと最早居たのかと疑うが……リビングのパソコンには書き上げただろう台本のデータが見えて、しっかり仕事してたと理解する。
お、選択肢……。
『俺もバイトするよ』『俺を一生養ってくれ』『おもむろに服を脱がす』ねぇ。
おもむろに服脱ぎ過ぎだろ……って脱がすの!?あぁ俺が深鈴を脱がすのね!?ミスリードだぁ!!ってかやらねえから。
普通に考えたら、バイトだよね。うん、うん。
俺は当たり前のようにバイトする決意をした。
「俺もバイトするよ」
「駄目です」
「即答っ!?」
「お兄さんは何も出来ないナチュラル唐変木なんですから。社会に出ても周りにご迷惑をかけるだけです」
俺だって泣くよ?そんなに言うと……。
深鈴は悲しそうに微笑んで、俺の服を摘んだ。
「だから、行かないで」
その呟きは不思議と心に反響して、頷いてしまう。深鈴が見せた少しの弱さが、脳裏に焼き付いてしまう。
俺はそんな、悲しくさせるようなことを……。
「外に出たい理由でも?は、え?女ですか。女ですよね、女かぁ。名前は?おっぱいは大きいですか?大きい場合は容赦ないですけど」
「大丈夫だよ、深鈴!!おっぱいないこと気にしなくて、も……」
地雷を踏んだ音がした。
確かに、大きいとはお世辞にも言えない胸だけども。
「お兄さん」
「はい」
「えっち、です」
俺の真横を通過する包丁に身動きが取れなかった。え、今投げたのにまだ手には二本の包丁。
暗器使いなの!?何本隠し持ってるの!!
「おっぱいなんていらないもん。脂肪の塊だもん。お兄さんのえっちぃ!!!!」
「うおぉ!!?」
俺が居たところに何本も突き刺さる包丁を見て、走り出す。
「『妹奥義・鈴鳴ノ戒!!』」
「何それカッコいぎゃああああ!!!!」
謎の技で血祭りに上げられた俺は、残機を一つ減らしたのだった。




