懲りました?と、ヤンデレ
足元が、冷たい。
目を開けるとさっきのリムジンの中だった。
周囲の異変よりも、自分が固定されていると気付いて力を入れるがビクともしない。結束バンドか……人の力じゃあ切れるわけがない。
『目覚めましたのね』
「お、い俺に何をしてる」
『お姉様を悲しませた罰です』
冷たい感覚が、足首まで来ていた。辺りを見渡して、気付く。これ、沈んでる?
『察しがいいのね。そうよ、リムジンと一緒に沈んでもらうわ』
「なん、だと!?」
溺死!?しかも、こんな高級車と一緒に……!!
俺一人を殺すのにどれだけかけてるんだよ!!
それよりも、脱出しないと。溺死って苦しいんだよね、なんかで見たよ!!
『無駄ですわ。大人しく反省なさって』
「なんで、ここまで!!」
『お姉様を泣かせたからです。
同じく苦しんで、涙に濡れて償って」
女の子の涙って怖いなぁ!!いくら力を入れようと、切れる気配はない。
流石に一番苦しい死に方をこんな序盤で出来るかっ!!こんな事もあろうかとポケットに便利ツールを仕込んであるのさ!!あれに、ナイフが……ってあれ?
『ああ。あの無粋な器具は貰いました』
「かぁー!!用意周到なこって!!」
『良也さん!!』
ここでリムジンに響く声の主がうららに変わる。
心配する声に少しだけ、落ち着くがそれどころじゃあないし。状況は微塵も改善しない。
『わたくし、もう大丈夫ですから。きららやめてあげて!!』
『なんでお姉様。こいつはお姉様を泣かせたんですわよ』
『わたくしが見てしまっただけです!!その、彼女さんとの、逢瀬を……ひっぐ……うぇーん』
『沈め』
「俺が何したぁ!?」
もう、胸まで来てる!!どうする俺ここまできたらもう助からないよな。
俺は目をつぶって静かに水に浸かるのを待った。死ぬならそれでいいさ。次に活かそう。
苦しみも味わっておけば慣れるだろうし。
頭まで浸かって、少しして。
息が、切れた。
口から吐き出される二酸化炭素と引き換えに大量の水が口の中を、身体の中を支配する。
呼吸など出来るはずもないのに身体が勝手に口を開くしかなくて。体力も、もう少ししかない。
やべえ。もう死ぬ……「まぁこんなもんか」
いきなり開いた扉から水が全て出て、戻った酸素で意識を失わずに済んだ。
「げ、はっ!!ぐぇぇ」
「うええ。ばっちい」
身体の中の水が逆流して全てを吐き出してから周りを見ると、状況が違ったのだと理解した。
水に沈んでいてのではなく、プールにクレーンで浮かばせられながら水を車内に入れていた。これで、車ごと沈まされたと錯覚するのか。
「良也さんっ」
「は、はぁ……う、らら?」
「大丈夫ですか!!もうちょっとでデュクシするところでした!!」
「もしかしなくても溺死な……がっは……」
「懲りましたわね?」
その一言を聞いて、安堵か気絶してしまう。
俺はなんとか死にかけでこのイベントをやり過ごすことが出来たのだった。




