令嬢サマのヤンデレ
「へぇ。普通の家庭には馬とか孔雀もいませんの?」
「いてたまるかよ。自分の世話だけで精一杯だ。千堂院の家にはたくさん居るのか?」
「というか動物園がありますわ」
「規模が違いすぎて最早驚かない俺がいる」
千堂院は本当に楽しそうに笑ってくれる。俺のしょうもない冗談や心底驚いている俺を見て。
でも、まだ俺の中で千堂院が確実に安全だとはまだ思えないでいた。ギャルゲーでは良くあるよな、この子実はヒロインの一人ですよー!!とか。
「いるすぎさん」
「石動だ。日本語、つたない感じあるよな」
「すいません、わたくし帰国美女という奴なんですよ」
「美女は、間違ってないけどさ。帰国子女、な」
「え、わたくし……美女ですか」
「ま、あ。うん、綺麗だよ」
「照れます、よ。そんな嘘のない目で言われると。流石のわたくしでも」
周りからもてはやされて来たのだろうか。こんな普通に話すのも楽しいというくらいだ。周りは令嬢サマだから、と一線を引いているのだろうか。
それは、何だか悲しいと思う。
「これからも普通に話しかけてくれよ。俺で良かったら、千堂院の話し相手になるからさ」
「ほ、本当ですの?じゃあ、そのわたくしと石動さんはその、友人……」
「うん、友達だな」
「そうですかそうですかっ!!仕方ないですねぇ!!わたくしのような高貴な熟女と友達になれた事を誇りに思ってもよろしいのですよ!!」
「淑女な!?一気に変な感じになるから、淑女と熟女は似て非なるから!!」
話して笑って騒いでいるともう学校に着いていた。良かった、道正解だった。という不安を顔には出さないようにして。
「じゃあ、また後でな千堂院」
「あ、あの!?」
「ん?」
「友達は、名前で呼び合うものじゃありませんの!?」
……なんだか可愛く見えてきた。見た目じゃあなくて何だろう中身が、だ。
「そうだな、うらら」
「その……またですわ。良也さん」
手を振って去って行く背中を見送る。
あの子はヤンデレじゃあない気がするなぁ。環境に納得がいかないただの女の子だ。
「来い」
後ろに立たれたことに気付かなかった。
腕を締め上げられ、人目につかない茂みへと倒れこむ。跳ね飛ばそうと力を込める。が、自分の関節が外れそうなのでやめた。
俺の上に乗りながらゆっくりと関節に負担をかけてゆく。
「誰だっ……」
「貴様、お嬢様にどんな目的で近付いた」
「お嬢様、あぁ。うららか……」
「貴様軽々しく名前を呼ぶなよ」
音を立て、関節が外される。鈍い痛みが頭を殴り付けるように俺を襲う。
「ぐぁあぁ……!!なん、だってんだ。俺はただ困ってたから、近付いて」
「でまかせか。今度は折るぞ」
「本当だっての。だからお前誰だって」
腕にまた力が入る。あぁ、骨折は嫌だなぁ。微々たる回復で治るのはいつになるのだろうか。
「何をしてますの!!」
俺の背中に乗っていた人物が飛び退いた。
え、うらら?か。
俺に駆け寄るうららの姿を確かに、見た。つまりこの人物は関係者なんだな。
理解し、関節を無理矢理にはめる。
「がぁああ!!……ああ。痛え、うらら。こいつ、誰?」
「わたくしのボディガード。伊澄心ですわ」
命を狙われるというのはこうゆうことか。
苦笑いして伊澄とやらに視線を移す。




