『×』澄んだ心をこれからも
家を出た俺の目の前に、心が身体を伸ばしながら現れた。何の準備運動なのかな、と聞く前に瞬時に距離を詰めた心の鋭い蹴りでその質問は出来ずに終わり、何とか躱す事に成功した俺に心は構えを崩さなかった。
「……早く、構えて」
「ちょっと待てって!!なんだよ、このいきなりのバトル展開っ!?」
「問答無用っ!!」
心の戦い方は色々な武術を取り入れているために読むのが難しい。多彩な手業の後に豪快な蹴りを混ぜ込まれるだけでテンポが崩れてっ!?
顎に良いのを喰らってよろける俺に、心は叫ぶ。
「どうしたの、良くん。そんなんじゃうららさんときららさんを守れないよ!?」
「いきなり、襲ってきて……なんだよ」
「君は、あの人達を守らなきゃいけないんだ。
せめてボクにくらい余裕で勝ってよね!!」
受けて捌いて躱すのが精一杯だ。
それに、殴り、蹴りを繰り出している心の方が、何だか苦しそうで。
俺は攻撃することが、出来ずにいた。
「っ!!」
生まれた一瞬の隙。
今、あそこになら攻撃が決まる。
だが、俺は拳を握る事が出来ずに思い切り心に投げ飛ばされて背中を打つ。
「なんで、躊躇ったの」
「あ?……はは、わざとか」
「やらなきゃ駄目だよ、良くん」
守る為には戦わなきゃってか。
それでも、俺は。天を仰ぎながら一つの答えに辿り着いた。
そうゆうこと、か。なら俺は、心を殴れない。
「なんでやらないの!!」
「好きな女の子を殴れるかっての!!」
「なっ!?そうやって撹乱するつもりかこの女たらし!!」
「違うわ!!」
立ち上がって、心に向き合う。
慌てて構えて繰り出した拳は俺の頬に当たり、視界がくらみながらも心を思い切り抱き締めた。
あれだけの身体能力があっても、女の子だな。細くて柔らかくて守ってあげたくなる。
「は、なせぇ……」
「離さない。俺は、心が好きだから」
「駄目、だよ。良くん……ボクは」
「あ?何がだよ。心の意見は、聞いてない。
俺は、我慢しないから。心が好きで、こうしてるんだよ」
「ぐぅっ!!狡いよ……ボクだって……」
抵抗していた腕を軽く俺に回して、頭を預けてくる。
「好きに、決まってんだろ……」
「それでいいじゃんか」
「簡単に、言うなぁ……これはある意味、反抗なんだよ?ボクが、その良くんの一番になるってのは」
「知るかっての。一番好きで、悪いのか?」
「……はぁ、もう」
さっきよりも強く抱き締められて、俺も返す。
心の心臓の鼓動が早くなっているのがわかった。
「一緒に、怒られてね」
「おう」
「一緒に、二人を守ってね」
「おう」
「良くん」
「うん、ずっと一緒にいような」
「……ボクより先に、言うなよ。もう……」
それからしばらく抱き合って、笑い合う。
出会った頃には、こんな笑顔は想像出来なかった。この素直な笑顔を俺は好きになった。
これからは心のままに、過ごせるように。
二人で並んで生きていこう。
ーーー『伊澄心』end
投稿が遅れました。
これで個人ルートは終わりとなります。
残りは『1』『2』『3』の話を更新して行きますのでよろしくお願いします。