『×』深く響く鈴の音を
俺は、走った。
罪悪感や責任感から逃げる為に。
逃げられる訳はないと知りながらも走ることしか、出来なかった。
そして何でもいい。優しい言葉をかけて欲しかった。事情を知らずとも、誰かに許して欲しかった。
家の扉を勢い良く開けて、目の前に居た会いたかった人に抱き付く。
「お、お兄さん?どうしました?」
「深鈴っ……!!俺、俺はっ」
「もう、お兄さんたら。大丈夫です。
わたしは何があっても、お兄さんの味方ですからね。愛する、わたしだけのお兄さん」
頭を撫でてくれる。
救われた気がして、そのまま当分抱き付いていた。すると深鈴が呟く。
「わたしが、一番になりたいです」
「え?」
「お兄さんの一番でいたい。皆さんと一緒なのには理解は出来ましたが、納得はいっていません。ですが、お兄さんの一番になりたいという気持ちは、ずっと変わりません」
「深鈴……」
瞳がどこか寂しそうで、俺は無意識に深鈴と唇を重ねていた。
瞬間驚いたような顔をして、だがすぐに激しく求めてくる。応じることは、出来なかったが少しの間。二人でキスをしていた。
「はぁ……今のは、返事ですよね」
「そう、だな。俺は、深鈴が好きだよ。
多分ずっと。守ろうと誓った時から、ずっと」
「こんな幸せがあっていいのでしょうか。今ならわたしはなんでも出来そうな気がします」
互いに手を伸ばして、ぎゅっと抱き締め合う。
今は、兄妹としてじゃなく。
恋人として、深鈴を心から思っていた。
「お兄さん、大好きです。
これからはわたしは奥さんですから。愛してください。止めどなく、永遠に」
「ああ。俺は、深鈴の側にいる。
奥さんがいっぱい居ても、心は深鈴を思っているよ」
「もう、お兄さん……たら」
婚約者が多く居ても、構わないと言ってくれた。
こんな優柔不断で甲斐性なしな俺を許して救ってくれた。
思えば昔から側にいて、いつでも一番だった。
これからも隣には深鈴がいる。
隠れた場所で互いを求めるくらいの幸せでも、それでもいい。
このまま、然るべき終わりまで。
俺という存在を全て、深く知り尽くした彼女となら。
深鈴となら、やっていける。
そう、感じていた。
ーーー『石動深鈴』end