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はじめまして? / はじめまして!

晴鳥深春はるとりみはる

性別:女

年齢:25歳

職業:会社員(営業職)

身長:158cm

好きなもの:リリ、鍋、カメラ

肩にかかるほどの黒髪。体型は色々控えめなスレンダー体型。


L_3829-6568

ボディ:女性型

身長:165cm

好きなもの:植物(特に百合の花)

腰までのびる明るいはちみつ色の髪。体型は出るとこ出てる。

 およそ一年前、夏が終わりを迎えて少し涼しくなってきた頃のこと。

 私とリリがはじめて出会った日のことはよく思い出す。


 その日はピンポーンというドアチャイムの音で目が覚めた。


「こんな朝早くから誰...」


 時計を確認する。

 枕元の目覚まし時計の液晶にはAM10:00の文字。

 ……夏休みの小学生でも外出が許されるような時間帯だった。


 ピンポーンと二度目のチャイム。


「は、はーい。今出まーす!」


 寝室から玄関へ向かう。

 いつもより長く寝ていたからだろうか、少し足元がふらつき、頭もコンクリートが詰められてるんじゃないかというくらい重い。

 途中なんどもなにかを蹴飛ばしてしまうし、うちって玄関までこんなに遠かったっけと思ってしまった。


 と、そこにピンポーンと三度目のチャイム。


「はいはい、どちら様ですかっと」


 オバサンみたいな言い方だったなと後悔しながらも、玄関をあける。


「あ、やっとでてきましたね。こんにちは、私は独立行政法人FRANKE(フランケ)から来ました、AND-roid L_3829-6568です!」


 目の前に現れたのは綺麗な女性だった。

 身長は私より少し高め。

 髪は腰の辺りまで届くふわふわとした髪質で、アカシアのはちみつのような色。

 長いまつげに優しそうなブラウンの瞳。

 ピンク色の唇。

 初対面の私に微笑みかけるその姿は「ほんわか」という言葉がぴったりだ。


「……えーと、あの、聞いてますか?」

「え?あ、いやまったく聞いてませんでした……。あー、どなたですか?」


 思わず見とれていて話をまったく聞いていなかった。


「ですから、私は独立行政法人FRANKE(フランケ)から来ました、AND-roid L_3829-6568です。分かりますか?」

「AND-roid?それってあの、家事をしてくれるっていうやつ?」


 たしか「AND-roid」は一人暮らしをする若者の家事をサポートするために開発されたアンドロイドの名称だったはずだ。

 テレビや雑誌で紹介されるのを何度も見たことがある。


「はい、そうです。厳密には家事だけじゃなく、家の防犯やあなたの健康管理までできますけど」

「で、あなたがそのAND-roidなわけ?」

「そうですよ?さっきからそう言ってるじゃないですか。……あれ、もしかして私部屋間違えましたか?晴鳥深春さんのお家はここじゃない!?」


 慌てる姿が小動物っぽくて可愛いな……。思わず抱き締めたくなるような挙動だ。

 本当に人工物(アンドロイド)


「晴鳥深春はたしかに私ですけど」

「え、あぁ、ですよね!よかった……」

「うん、よかったよかった。で、何の用?」


 つまるところそこなのだ。

 私には、そのAND-roidとやらが訪ねてくる理由がない。


「えぇっ、そんな……冗談ですよね?ちゃんと申し込みされましたよね?ネットで。振り込みもちゃんと終わってますよ? 

「すみません、記憶にないというかなんというか。……えーと。と、とりあえず中入ります?」

「……お邪魔します」


 さすがにいつまでも玄関で騒ぐわけにはいかないし、とりあえず中に入れることにした。

 が、これが失敗だった。

 寝起きでは気がつかなかったが、部屋の中は酷いありさまだったのだ。

 散乱するビールやカクテルの空き缶。

 空きっぱなしになっているつまみ類。

 脱ぎ散らかされたスーツ。

 現場は、昨晩酔っぱらいがいたことを示していた。


「……てか、どう考えてもこの惨状を生み出したの私じゃん」

「あ、あの。これは?」

「えーと、ちょっと昨日は飲みすぎちゃったかなぁ……みたいな?」

「……30分、時間をください」

「え?」

「私がなんとかします」


 そういって彼女は、この部屋を「なんとかする」ために動き出した。


 ……

 …………

 ………………


 30分後、私の部屋は見事に片付けられていた。

 いやぁ、なんとかなるもんだ。

 ゴミは分別されて袋にいれられ、食べ残されたおつまみはラップをかけられたうえで冷蔵庫へ。食器は表れ、スーツは洗濯機に入れられ、部屋は隅から隅まで掃除機をかけられた。

 驚くのは、その行動に一切の無駄がなかったことだ。私だったら一つの作業を終えるごとに一呼吸ついてしまうが、彼女にはそれがなかった。さすがアンドロイド。


「さて、本題に戻りましょうか。えーと、どうです?AND-roid()を申請したのは思い出していただけましたか?」

「あぁ、それなんだけどね」


 私はさっきの間に寝室で見つけたノートパソコンを見せた。

 画面には「申請完了しました」という文字が浮かんでいる。

 どうも私は昨晩、会社でのストレス発散のために家でやけ酒をして、そのあと「えぇい、どでかく金使ってやるぜー!」みたいなテンションになってたらしい。


「あ、ちゃと申請なさってるみたいですね!よかった……」

「うん、そうみたいだね。……ちなみにさ、これって返品とか返金ってできるものなの?」

「返品、ですか……?できるにはできますし、返金ももちろんされますが。……それって、もしかして私いらない流れですか……?」


 アンドロイドとはいえ、整った顔立ちの女性に涙目になられると罪悪感がとんでもない。

 親とはぐれた迷子を見捨ててるような気分になる。



「ねぇ、もしこのままあなたを家におくとして、今後追加でお金を払うことってある?」

「あ、えーと……私は電気で動くのでその分の電気代がかかります。あとは、定期メンテナンスで県庁所在地までいかないといけなくなるので、その旅費を。私になにか不具合が発生した場合の修理費くらいですね」

「と、いうことは。年間何十万が飛んでいくってことはないのかな」

「はい、故障が起こらない限りは利用者(マスター)様の生活に大きな影響はでないはずです。また、料理などを任せていただければ、従来より食費を押さえることも可能だと思います!」


 欲しいオモチャを親にねだる子どもみたいな必死さでプレゼンをされた。

 少し聞く限りでは私にデメリットが発生するようにも思えない。

 さっきの30分間の掃除を見る限り、家事はしっかりしてくれそうだし、可愛いし、それに料理をやってくれるのはありがたい。

 ただ、その料理が私の口に合えば、だが。

 お試しくらいはやったって構わないだろう。


「ねえ、料理できるんだよね?」

「はい、家庭料理なら一通り。なにか作りますか?利用者(マスター)様」

「まだなにも食べてないから、なにかお願いできるかな?冷蔵庫の中のもの好きに使っていいし」

「はい!お任せを、利用者(マスター)様」


 そう言って彼女は台所の冷蔵庫に向かっていった。

 その後ろ姿を見ながら、私はもうひとつ彼女にお願いをする。


「……あのさ、その口調ってどうにかならないかな?できればもうちょっと柔らかい感じというか、あんまり固くない感じのがいいかなーって思うんだけど」

「柔らかい感じ……。私は独立行政法人FRANKE(フランケ)から来た、AND-roid L_3829-6568だよ!よろしくね。……こんな感じかな?」

「あ、いいじゃん。そーゆー感じの柔らかさでいいや。あー、後はあなたの呼び名を決めないとな……。名乗らないってことは無いんでしょ?名前」

「うん、まだないよ?名前は本契約したあとにハルハルに決めて欲しいな!」

「あ、なるほど。じゃあ考えとくか……って、ハルハル?」


 彼女が改めて台所に向かうのを目で追いながら、私は彼女の名前を考える。

「試すだけなら」なんて言いながらも、本契約する気満々なのは自分でも分かってる。

 正直なところ、会社で辛い思いをしてから帰って、家でも一人でご飯を食べるという生活には少々参ってきたところだったし、今回の話にはそれなりにワクワクも感じている。


 その後少しして彼女が持ってきたのは、ごく普通の白米と、ごく普通の野菜炒めと、ごく普通のお味噌汁だった。

 だが、見た目は普通でも味はとても美味しかった。まさか「あなたのお味噌汁なら毎日飲みたい!」なんてベタな台詞が自分の口から出るとは。


 結局そのまま本契約とやらを結び、彼女に型番の“L”からの連想で「リリ」という名前をつけるまで30分とかからなかった。

 私自身戸惑ったり悩んだりしたつもりだったが、なし崩し的にスルスルとことを終えてしまったようだ。

 それからその日は1日中、お互いのことを話し合ったりして過ごし、夜になる頃にはリリはこの家の家族になってしまっていた。


 この日のことは、一生忘れないと思う。

 私とリリの日常の大切な一ページ目のお話でした。

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