第四章 二.三話 『ティナ酪農園』と妹4
「あと、これ。
三日ほど前から、世界をもう一周してたんだけど。
このコたち、畜育に向かないかなぁ?」
しれっととんでもないことを言いながら座を離れたティナは、そのままイッコのもとに駆け寄る。
そして…そういえば今日、イッコがずっと首から下げていた筒状の革袋を手に取った。
それは以前防寒具代わりに使ったものを急きょ再縫製した物だった。
それが、三つ。
貴重品を扱うように、ティナはそっとイッコからその革袋を取り外す。
慎重な扱いを強要させられていたイッコは、その革袋をやっと取り外してもらって……安堵と解放のため息をついていた。
そしてチナは、ジェーンや村人たちの前に戻ると…優しい手つきで革袋の封を開ける。
そこにいたのは…見るからに、鳥のヒナだった。
見るからに鳥のヒナであるが…しっかりとした足取りで二足歩行していた。
ともすれば、空ではなく地上にすむ鳥であるという事になる。
地球には、いない生物だった。
地球から、いなくなった生物だった。
なぜならそれは…地球では、人類が滅亡させたからだ。
サイズで言えば…鶏のヒナよりひとまわり大きい程度。
それは……マダガスカル島沖モーリシャス島に生息していたが、大航海時代に絶滅した鳥類であった。
その名を……『ドードー鳥』といった。
地球に於いて、最も有名な絶滅種であった。
「あら、可愛らしいですね。
…見たこともない種の鳥ですね。 何と言う名前なんですか?」
「………。
…ニューフロンティアドードーよ。」
秘書子さんの問いかけに…ティナは視線を反らしながら答えた。
反らしながら…ウィンドウを起動する。
『採集知識(図鑑級)』によれば…その鳥は『ティナドードー』というらしい。
…どう考えても、取って付けた名前である。
世界初をいいことに…スキルが、勝手に名前を付けたらしい。
それに…ティナは小声で文句を言った。
「…何が、ティナどうどう、よ。
勝手にあたしの名前を付けないでよ」
少し焦ったように小声のまま言うチナ。
しかし…表示は『ティナドードー』のままだった。
「あたしが第一発見者でしょ? 命名権くらい、あるでしょうに」
ぷんすかしながら言うチナ。
と…表示が不意に、『ティナ怒りのドードー』に変わる。
「…この野郎」
と…チナの声色が若干固くなった瞬間、表示が震えながら消えていった。
そして…同じように震えながら出てきた表示が『New!ニューフロンティアドードーNew!』に変わっていた。
ウザったい、New!の明滅があざとかった。
「…よし」
満足そうに言うチナ。
「??????????」
そのチナを…秘書子さんとジェーンが不審そうに眺めていた。
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「そ…そんなことより。
三日で世界一周って…?」
ふと我に返り、震える口調で問うジェーンに…チナは平然と応じる。
「ああ、ちょっと『風の上位精霊』ってコと知り合いになってさ。
高高度を飛行してたら、話しかけられたの。
もっと早く飛行しないかって。
どうも前から目をつけられてたみたいで…あたし一人になるのを待ってたみたい。
そしたら…ジェット気流が、倍以上の速さになってさ。
もう、イッコも驚くくらい早くなっちゃって。
んで…調子に乗って、今度は南半球ルートで世界一周したんだぁ…世界地図も作りたかったしね。
ちょっとマダガスカル…じゃなかった。
ええと、日本市マダガスカル町………ん? あっちじゃなくってこっちの世界か。
えと、どう呼べば……まあもういいや。
モーリシャス島ってとこまで、取りに行ってきてたんだー」
もはやごまかすのも面倒臭くなったのか、しれっととんでもないことを披露する。
ふぃ↓ふぃ↑ふぃ↑、ふぃ↓ふぃ↑ふぃ↑、ふぃ↓ふぃ↑ふぃ↑。
唖然とチナの言葉を聞くしかない一同、その目の前でドードー鳥のヒナたちは、一ヶ所固まって眠そうに鳴いていた。
その数、三〇羽。
なお…信じられないかもしれないが…ドードー鳥はハトの仲間だそうである。
ゆえに、少々の寒冷地でも棲息は可能であるらしかった。
「絶滅…あ、ええと、げふんげふん。
んっと、噂によると、どこかの国では捕りすぎちゃって、数が減ったくらいらしいから。
きっと大きくなれば、すごくおいしいんだと思うよ。
動きも遅いから、飼育も簡単だと思うし」
その言葉に…先ほど、今まで食したこともないほどの甘味を味わった一同が、期待に歓声をあげる。
それに、チナは満足気な表情を見せていた。
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甘い。
甘すぎる。
砂糖の話の後だけに。(ドヤァ
ドードー鳥は、大航海時代の初期にアフリカ大陸の南東部に浮かぶマダガスカル島、その沖のマスカリン諸島にあるモーリシャス島にのみ生息していた…人類が絶滅させた種の中では、おそらく世界で一番有名な絶滅種である。
地上に巣を作るほど警戒心が薄く、また空を飛べない癖に足も遅い間抜けな鳥。
それがドードー鳥である。
成長すれば、七面鳥より巨大になるという。
大航海時代の船員の貴重な食料として、また入植者の食料として都合よく乱獲されたばかりでなく、人間が持ち込んだ外来種によって完全に駆逐されてしまったという……言い方は悪いが、絶滅種のテンプレみたいな鳥。 …勿論、全面的に人類に非があるのだが。
おそらくチナは…先の言葉通り、絶滅させるほどなんだから美味に違いない、と踏んで捕獲してきたのだろう。
だが…今日もチナのチート知識はきれいなマダラ模様だった。
間抜け鳥は…嫌な・不味い鳥という別名があると言うこと。
それを知るのは…数年後の話であった。
なお。
誰にも話していないが…チナは、このドードー鳥と同じ理由で、絶滅した巨大鳥モアを捕獲しにニュージーランドまで足を延ばしていた。
しかし…あまりに巨大すぎて生け捕り出来なかったという裏話があった。
恥ずかしすぎて、墓場に持っていくしかないと心に決めていたチナである。
今日もチナは…平常運転であった。
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