第二章 五話 召喚魔法と妹
「まったくもう…。
『完全回復+2』。 対象、イッコ。 せーの、ぽん」
チナは、憮然としながら目の前の竜に回復の魔法をかけていた。
イッコ。
それは…チナたちが産卵を助けた時に、最初に孵ったドラゴンの名前であった。
孵った順番に、一子、二子、三子。
名前を考えているときに、チナが適当に言った名前が採用されたのだ。
日本語を知らないシャルロットが、妙に感動したためである。
『韻を踏んだ素晴らしい名前ですわ!!』と。
なんでも…子供の名付け親には、親友を指名するのがこの世界の風習らしい。
なお…やたら感激するシャルロットのお陰で、サンコは、○○○ンと言う名前にならなくて済んだ。
ちなみに…三頭ともメスだと知ったとき、チナは複雑そうな顔を見せたのだった。
で、そのイッコ。
威嚇でもするように口を開けていたが、完全にビビりまくりながら、チナを見ていた。
チナの一挙手一投足にいちいち反応し、びくびくしていた…なんか、猫のケンカごっこを見ているようだった。もちろん、イッコが弱い方。
その鳴き声は、いまだに鳥の雛のようだった。
泣きそうな声で、ぴいぴい鳴いていた。
「イッコ、なんでこんなところに来たの?」
「………」
「ああ、もう。 こうすんの! あんた、人間の言葉がわかるんでしょ?」
そう言うとチナは…魔法で宙に文字を書いて見せた。
『こうやるのよ』
山の民方式だ。 ちゃんと、鏡文字になっている。
いつの間にか、習得していたらしい。
しばらく無言のままだったが…やがてイッコも宙に文字を書いた。
『飛んでた。 ティナ、見つけた。 降りた。 ティナ、いなかった。 おやつ、おいてあった』
なんとドラゴンは、生後六か月にしてすでに人間の言葉を理解していた。
簡単な命令ならちゃんと理解できたし…何より今は、ジェーンが文字を教えている。
どうも魔法による筆談のやり方は、この世界では割とメジャーなやり方らしい。
知らなかったのは…異世界から来たためだけではなく、鉄拳やなでなでを含めたスキンシップでしか、ドラゴンと接していなかったチナだけだったようだ。
成長が早いのは、生後しばらく母である古龍の肉を口にしていたから…その特効かもしれない。
…生々しい話であるが。
ちなみに…チナとジェーンの影響か、簡単な回復魔法まで覚えていた。
…何とも末恐ろしい存在になりつつあるドラゴンたちである。
先ほどの言は片言ではあったが…察するに、飛行訓練中にティナを見つけ、じゃれに行こうとして…アル牧場に着地したということらしい。
まあ、ドラゴンからすれば、牧場のヤギなどいいおやつに見えたことだろう。
「人間のものに手を出しちゃだめって、ずっと言ってるでしょ!」
『知ってる。 ティナ、こわい。 ティナ、人間。 人間、こわい』
「なにその三段論法。 くぬやろ」
かぱっ。
ティナが拳を構えると、再びワニみたいな口が、頭部を後方に引きながら大きく開けられる。
ビビリ過ぎともいえるが…これはまあ、チナがしつけ担当であるからやむを得ないともいえるだろう。
三人で共同で育てており、チナがしつけ担当、ジェーンが言葉や文字の教育担当、シャルロットは甘やかす担当だ。
シャルロットだけずるい気はするが…まあ、食事や身の回りの世話をしているので、それくらいはいいか、とチナは割り切っていた。
『人間は食べない。 うるさかったから、ちょっと睨んだ。
人間、悲鳴あげた。 怖いの、いっぱい出てきた』
「ああ、幻獣の事ね。
あたしもちょこっと見てたけど…まあ、相手が悪かったね。
なにせ…」
言いながら無意識に振り返るチナ。
『( ゜д゜)』
『( ゜д゜)』
その光景を、デルタとネアンが口を開けて見ていた。
「あ、えぇと…あのね、ちょっといいかな…?」
前置きしてから、チナが二人に話しかける。
「よかったらさぁ、さっきの幻獣たちにも、回復魔法をかけようと思うんだけど…」
『( ´д)(´д`)(д` )』
『(。・ω・) (・ω・。)』
「あはは…そうだよねえ…そうなるよねえ……」
成立しているのかいないのか、よくわからないやり取りだった。
こちらは、一方的な加害者側なのだ。
平和な牧場に、幼いとはいえドラゴンが舞い降りて、家畜を食い殺したのだ。
そして…チナはその、飼い主の一人だった。
どの口が言う、ということらしかった。
イッコをぶん殴ってひれ伏せさせたその後……ペナルティを消化して目覚めたチナは、ひれ伏しながら真っ先にアル夫婦の前に、大金貨を一本差し出していた。
日本円にして、一千万円。 迷惑料としては破格の金額であろう。
実際、夫婦は受け取った瞬間、そうとうテンパった様子で家の中に走っていった。
帰ってくるのが妙に遅いのは…もしかしたら、床下に穴でも掘って隠しているのかもしれない。
アレキサンダーが言っていた、蓄財していない、と言うのはどうやら本当のようであった。
…実質の被害はヤギ一頭。
他のヤギもストレスでしばらく乳の出が悪くなるかもしれないが、夫婦にすれば大幅な黒字と言えた。
舞い上がるのも道理であろう。
で、残ったチナとデルタたちと、イッコ。
しばらく前に、大好きとか、おねえちゃんとか呼ばれていたのが嘘のように、気まずい雰囲気。
内心、チナは相当落胆していた。
『………』
『………』
無言のまま、姉妹はふいに宙に線を描きだした。
今回のは巨大なキャンパスではなく…五〇センチ四方のキャンパス。
そこに…ユニコーンの時とは違った、シンプルな絵を描く。
図形を組み合わせたような、幼稚ともいえる動物の絵。
しかし、それでもマンモス、ユニコーン、サーベルタイガーと言うことがわかる、特徴をとらえた絵だった。
それは単純に見えるが、妙に躍動感のある絵だった。
初めて見る絵だが…チナはなんとなく、その画風に見覚えがあった。
それは…社会の授業で見た副読本。
どこぞの洞窟に古代人が書いた、壁画の絵にそっくりだった。
そして…二人がサインを書くと、それぞれの幻獣が絵から飛び出してきていた。
幻獣ユニコーンと…マンモスとサーベルタイガーの幻獣。
ユニコーンは置いとくとして…よりにもよって、マンモスとサーベルタイガーの幻獣とは。
地球では一〇万年前に絶滅したサーベルタイガーと、一万年前に絶滅したマンモス。
それを幻獣として使役するデルタ姉妹。
そして…おそらくは無口属性ではなく、本当にしゃべれないと思しき姉妹。
先ほど、命の危機に及んでも言葉を発しなかったのは、そうとしか考えられなかった。
ここに及んで、チナは…確証はないが、なんとなく確信していた。
多分…この姉妹は、人類ではない。
正しく言えば…ホモサピエンスではない。
おそらく山の民とは…三〇万年前から二万年前の間に生存した、ネアンデルタール人の末裔なのだ。
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チナは、昔見た自然科学の番組を思い出していた。
ネアンデルタール人は、我々人類であるホモサピエンスより、二〇〇ccも脳の容量が多かったと言われている。
それが人類より頭が良い根拠にはならないが、どちらにしても、彼らは地球から姿を消してしまった。
その理由として考えられるのが、『言葉』を持たなかった事が原因と主張する者が多数いる。
『言葉』を持たなかったために、知識や経験を後世に残せず、種として発展できなかったと言う説だ。
…そして、人類に駆逐されたか衰退するかして、ネアンデルタール人は滅んだ、と。
少し、ベロを拝借できるだろうか。
そのベロで、口の中の上あごをなぞってみてほしい…途中で、骨が無くなっているはずだ。
だが、ネアンデルタール人の場合、この骨がもっと奥まで続いている。
このために、言葉が話せるかどうかが決まった、と言われている。
つまり現生人類は、脳の容量を犠牲にしてでも作ったこのスペースのお陰で、声帯が発達し、言葉がしゃべれるようになり…文字を作ることができたのだ。
そして知識と経験は継承され、人類は今日の発展に至る。
それに…転生の女神メグルが言っていた言葉を思い出す。
確かに、異世界転生を現実のものとするならば、UMAやミッシングリングの説明がつくのだ。
ビッグフットなどのUMAが異世界から来たのかもしれないし、同じ理屈で、地球ではいなくなったネアンデルタール人がどこかの異世界にいてもおかしくない。
人類だって…二五万年前にアフリカの東部で派生したとされているが、それより前はどこかの異世界にいたのかもしれない。
生物の発生から人類に至るまでの進化の道のりは、だれも解明できていない。
哲学ではないが、人類がどこからきてどこへ行くのか、だれも正解を知る者はいないのだ。
「………………」
なんだか、とんでもないものを見てしまった気がする。
チナは思わず、無言になっていた。
ネアンデルタール人は、絶滅や人類との混血によって衰退したのではなく…異世界に転生していたのだということ。
もしチナが古人類学者であれば、踊りながら喜んでいたかもしれない。
しかし同時に幻滅したかもしれない。
なぜなら…ネアンデルタール人が言葉の代わりに文字を使い、人類と混じって文化的な生活をしているのだ。
そのうえ魔法まで使ってみせる…歴史のロマンもへったくれもない。
『ティナおねえちゃん、まほうは?』
『aksry (`△´)/gra!』
「え?
ああ、ごめんごめん。
ちょっと考え事してたわ……って!
今あたしのこと、なんていった!!??」
『『ティナおねえちゃん』』
がっ!!
ティナは両の拳を握りしめ、天に顔を向けていた。
ゆ、ゆるされた…身体をぶるぶる振るわせながら、滂沱するチナであった。
そして。
「ほら、イッコ。 あんたも来なさい」
ぴいいいいい。
おろおろするイッコの腕を掴んで、幻獣たちのもとへ引きずっていくチナ。
そのまま、幻獣たちに対面させる。
「回復は、あんたがしなさい。」
ぴいいいい!?
おどろいた様子のイッコに、チナに続ける。
「あんたがやったんでしょ。
ほれ。 早くしなさい。
足りなければ、あたしがやるから。
ほれほれ」
ぴいいいいい……。
「うだうだ言ってるんじゃありません!!
はやく! 仲良くしなさい」
……ぴいい……。
あきらめた様子で、イッコは幻獣たちの近くに赴く。
そして…ほどほどの距離まで近づいたところで、魔法をかけはじめる。
『『完全回復』。 対象…』
「『+1』にしなさい」
ぴいいいい!?
愕然とするイッコ。
だが…じろりとチナににらまれると、諦めて魔法を再開した。
『『完全回復+1』。 たいしょう、みんな。 こわいけど、ぽん』
すると…光の粒子が幻獣たちに舞い降りてゆく。
傷が癒えてゆくその最中…イッコはその場に倒れ込んでしまった。
レベル超過使用のペナルティだった。
「はい、ご苦労さん。 いいコだね、イッコ」
倒れるイッコの頭をキャッチし、優しく撫でるチナ。
その光景を、幻獣たちは無言で眺めていた。
「…これで許してくれるかな?
イッコはまだ小さくってさ。
何万年も生きてる方々に対して失礼だったと思うけど…」
『構わない。 強者に年齢は関係ない。
生存競争において、そんなものは全く無意味である』
『生存競争であれば、殺されようが食われようが文句はない。
それ以外の理由でなければ、受け入れることはできる』
マンモスとサーベルタイガーの幻獣たちは文字を書くのではなく…文章そのものを宙に発生させていた。 熟練すると、そういうことができるようだった。
その言葉にチナは…少し寂しそうな表情を見せる。
「そっか。 あんたたち、環境の変化とかで、絶滅しちゃったんだよね………」
『然り。
今では、同じように絶滅しかけた山の民とともにあるだけである。
今や、我らの事を知る者は、山の民しかおらぬ故』
『然り。
だが…すでに絶滅した我らの事を、山の民ではないそなたが、なぜ知っているのか?』
「ああ、えっと…あたしは、異世界から来たから」
『異世界?』
「うん。 日本…てわかる?」
『?』
『?』
「わかんないよね。
もちろん、あたしも生きてるサーベルタイガーやマンモスなんて見たこともなくて。
けど…あたしのいた国では土の中から出てきた何万前何億年前の骨とかを調べる人たちがいて。
過去にどういう生き物がいて、どういう生活をしてたかとか、少しだけわかってんのよ」
『ふむ…では、われらがどういう生き物なのか、知っているというのだな?』
「うん。 少しだけどね」
『では…我らを召喚することを認めよう』
てってってってー。
世界のどこかから聞こえた音とともに、チナとイッコは『召喚魔法』を手に入れた。
「ええええええええええええええ!?」
『我らの手助けが必要とあらば、我らを呼ぶが良い』
『回復の礼である。
その幼き竜と幼きそなたが…命の続く限り、力を貸そう』
「え? ひょっとして…ロリコンさんですか?」
『………?』
「…いえ、何でもありませーん…」
マジメ君か。
チナは突っ込もうとして、やめておいた。
『なに、ほんの一〇〇年ばかりのことである…気に負う必要はない。
二〇万年生きた我らには、瞬きほどの時間である』
そう言うと、幻獣たちは姿を消した。
ユニコーンは暫くその場にとどまり、熱い目でチナを見ていたが…空気を読んで一緒に退散した。
「召喚魔法て…あ、ほんとだ。 使用魔法のカテゴリが増えてる…」
視線でウィンドウを操作し、確認しながら言うチナ。
「えー…あたし…絵なんて描けないんだけど…」
そんなことを言うチナに、いつの間にか隣にいたデルタとネアンが、チナの服を引っ張りながら言う。
『大丈夫。
お絵かきしなくても、呼んであげたら来てくれるよ!』
「え?
じゃあ…絵を描く理由は…?」
その言葉に、デルタとネアンは一度顔を見合わせる。
『『山の民だから?』』
…察するに、壁画で名高いネアンデルタール人の末裔としての、アイデンティティーだと言いたいんだろう。
『召喚魔法、一緒だね!』
『おそろいだね!』
にぱー。
満面の笑みでいう二人に……チナは危うく、二人を抱きかかえてどこか人目のつかない所に行きそうになった。
だが…イッコの首を抱えていたため、痛ましい事態は避けられていた。
「あ、危なかった…危うく、ノータッチの原則を忘れるところだった…」
『来週から、学校行くね!』
『来週から、よろしくね!』
そう言ってチナに抱き付く二人。
先ほど大金貨を姉妹の両親に差し出した時に、チナはちゃっかり来週からの週三回の納品の確約を取り付けていたのだ。
「の、の、ノータッチ、ノータッチ…あ、でも、二人から来てるんだから…い、いや!
ノータッチ、ノータッチ…」
体を震わせながらぶつぶつとつぶやくチナ。 気持ち悪いよ。
と、その時。
どぉん! どぉん!
大きなものが落ちてくる音が、二回。
振り返ると…そこには小型のドラゴンが二頭。
ニコと、サンコ。 洞窟で生まれた、残りの二匹だった。
そして…その二頭の前に、女性が一人。
「イッコの悲鳴が聞こえましたわ!
イッコに何がありましたの!?
何かあったら…ただではおきませんわよ!」
「………」
完全に白けた目で、チナは子育てモンスターと化したシャルロットを見返していた。
・
・
・
「こっこここの度は、うううちうちうちの子がたいったいっ大変なご迷惑をおかけいいいいたしましまして…おおおお詫びの言葉も見つかりませんわ。
本当に、本当に…」
登場から数分後。
上擦った声でへこへこと何度も頭を下げるシャルロットが、そこにいた。
その目の前には…アル夫婦。
いったい、床下に何メートルの穴を掘ったのか…ずいぶん遅い再登場であった。
ちなみに。
この半年で…一番変わったのは、シャルロットであった。
二次成長と言うか、二次性徴と言うか。
まず、身長。
初めて会った時はチナより背が低いくらいだった。
が…今は頭一つ半、シャルロットのほうが身長が高い。
ほぼ毎日の洞窟への通勤とそれに伴う戦闘により、ずいぶんと鍛えられたことも大きい。
それに…スタイルが、ずいぶん女性らしくなってきていた。
さすがにジェーンには及ばないが圧倒的にチナよりは大きい。
どこが、とは言わないが。
彼女は将来…自分の敵になるのかもしれない。
チナにそう言わしめるほどの、変化だった。
だがその急成長は、チナ自身のせいともいえる。
予算の改善もそうだが、孤児院の食糧事情を大幅に改善したのはチナだった。
栄養のバランスを考えた食事。 それを毎日、半年間。
そのおかげで…孤児たちの成長も、目を見張るものがあった。
痩せっぽちだった孤児たちが血色も良くなり、身体も大きくなっていた。
ジェーンいわく、病気にかかる子もいなくなったとのこと。
栄養のバランスを考えない食生活がどれだけ危険か、考えさせられる事例であった。
なお…今ではとても考えられないが、産業革命前の欧州では、男性の平均身長が一六五センチ程度だった時代もある。
バランスも含め、安定供給と言うことも、子供の成長には大切なのである。
「い、いやいや…まだ、小さいと言うことだからね。 仕方ないことだったんだよ」
「それに…補償には過ぎた金額をもらったことだし…」
ぴくん。
アル夫婦の言葉に、シャルロットの身体がぴくん、と揺れる。
「…………。
少し、失礼しますわ」
そういうとシャルロットは、チナのところに笑顔で歩み寄る。
「ティナさん…いったい、いくら包みましたの?」
「大金貨一本」
「だっ…大金貨…!?
いくらなんでも包み過ぎではありませんの!?」
「だって…しょうがないじゃーん。
それに…保障だけじゃないのよ。
いろいろ準備してもらわないといけないから」
「準備?」
「ああ、まだ言ってなかったっけ。
来週から、このアル牧場に、定期的な食料品の納品をお願いしたから」
「またそんな勝手に……って。
ここ、アル牧場でしたの?」
「…知らなかったの?」
「い、いえ…だって、来たことなんて一度もありませんでしたもの。
じゃあ…デルタとネアンがここに………?」
『『シャルロットおねえちゃん!』』
勢いよくシャルロットの体に飛び込んでいったのは、デルタとネアンであった。
全身でぶつかり、全力で抱きしめる二人。
それはもう、無条件の愛情表現であった。
半年以上経っての再会であった。 二人には、積もるものがあったのだろう。
ほほえましい光景であった。
それを眺めているうち、アル夫婦が話しかけてきた。
「しかし…ドラゴンの飼育とは、随分思い切ったことをするもんだね」
「まあね。
まあ、それなりのいきさつもあるんだけど。
この子たちも、孤児っちゃ孤児だから。
うちで預かるのは当然かなって」
「はぁ…そんなもんかね」
と…その時。
二人が、シャルロットに文字を書いて見せる。
チナには見えながったが、それは結構長い文章だった。
あー、またやってる。
シャルロットが長い文章で叩かれているのだろう。
そう思い、気の毒に思っていた矢先である。
「あー、はいはい。
ちゃんと覚えてますわよ。
あと九年経って、大人になったら私と結婚するんでしたわね。
え?
八年?
そんなに経ちました?
あ、一年前でしたわね。
……。
はいはい、覚えてますわ。
ちゃんと二人とも貰ってあげますわ……」
苦笑しながら言うシャルロット。
その頬に、姉妹から感激のキスが降り注ぐ。
笑いながらキスから逃げるシャルロット。
その光景に…チナは涙を流しながらつぶやいていた。
「うう…シャルロット…。
やっぱりあんたは将来…あたしの敵になるのかもしれない…」
……念のため、妙なフラグではないことを申し添えておく。
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