(4)
それはあまりに突然で、あまりにも巨大で凶悪な災害だった。
突如襲った大きな地震が与えた衝撃と恐怖は、多くの人から色々なものを奪い去り、各地に悲しみを降らせた。
その時私は相変わらず地元にいたが、さゆりは有給休暇を利用して都会の友達に会いに行っていた。そのタイミングで起きた悲劇だった。
私の職場にもその地揺れは訪れ、周りと結構今揺れたな、などと言い合っていた。そして震源はどこだろうかとテレビを点けた時、流れてきたニュース速報から、只事ではない事態になっている事を皆が知った。
一気に血の気が引いていくのを感じた。ニュースが知らせたその場所はちょうど彼女が訪れているはずの場所だった。すぐに私はさゆりの携帯を鳴らした。
繋がらない。
何度も何度もかけてみたが繋がらなかった。
焦りが加速していく。脈打つ血流が全身を強張らせていく。
次に私はみゆきさんに電話をかけた。
「あ、修一君!? さゆりは!?」
みゆきさんのその第一声から、状況はやはり良くない事が窺い知れた。
「ダメです! 繋がらないんです!」
「そんな……こっちも繋がらないのよ!」
私の尋常ではない慌てぶりを見て事情を察した上司は、今日はもう帰ってもいいからとの言葉を受け、私はひとまず家に戻った。
全く心は落ち着かなった。
何度コール音を聞いたか分からない。しつこすぎるほどに携帯を鳴らしているはずなのに、さゆりの声を聞くまでに届かない。
みゆきさんからの着信があったのは、次の日の朝だった。
その時のみゆきさんの悲痛な声と言葉は、出来ればもう思い出したくなかったが、思い出したくないという強烈な印象は、大事な記憶と誤認した脳がいつまでも残るようにと丁重に頭の中に記憶を保存してしまった。
さゆりは、もうどこにもいなかった。
最後に交わした言葉は、電話口でのいってらっしゃいだった。
何に何を恨めばいいのか、どこに悲しさや怒りを投げつければいいのかも分からない。
さゆり。
もう本当に会えないのか。