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 元々同郷だった私とさゆりの出会い自体は小学校にまで遡る。

 長く下ろした髪とぱっつんと切り揃った前髪が特徴的な女の子だった。

 どちらかと言えばおとなしめで、自分から積極的に話す子ではなかった。だからと言って暗いわけではなく、こちらが話しかければ普通に話し返してくれた。

 しかし、私の中で小学校の頃のさゆりの記憶はそれぐらいしかなかった。2つ年上のみゆきさんも同じ小学校に通っていたが、その頃はお姉さんがいるという事と、顔をちらっと何度か見たことがある程度のものだった。

 

 人生という点で深く関わる事になったのは社会に出てからの話になる。

 久々に開かれた同窓会の席での事だった。

 思い返せば恥ずかしく情けない話なのだが、私のその日の酒の勢いは、普段のそれの倍以上だった。

 もともとそんなに飲むわけでもないので、アルコール耐性が決して強いわけでもなかったが、気付けばとにかくアルコールを処理している自分がいた。いわゆる自棄酒のようなものだった。


 その頃、私には付き合っていた女性がいた。歳は私より3つ程上の先輩社員だった。

 最初は仕事の先輩として尊敬出来る存在だったものが、近い距離感もあったからか、いつの間にやら異性としての想いに変わっていった。まだ若かった私はその想いそのままに思い切って告白した。

 結果はイエスだった。私は思わずガッツポーズを決めた。そこからしばらくは楽しい時間が過ぎていった。だがそれもそう長くはなかった。

 急に私は別れを告げられた。何故かと問いただしてもあなたとはもうやっていけないの一点張りでどうにもならなかった。

 納得のいかない一方的な別れ。しかもその次の日から彼女は職場に現れなかった。驚いて上司に尋ねると、今日から有給消化でもう彼女は出社しない事を告げられた。

 何から何まで意味不明だった。それについては周りの同僚社員も同様で、急に何故といった様子だった。連絡もつかなくなった。家にも行ってみたが出てはくれなかった。同僚には、もう忘れろと言われた。

 彼女が退職して2ヶ月が過ぎた頃、更に追い打ちのような事実を知る事になった。

 彼女が結婚したらしいと。同僚の女性社員からのその言葉はあまりにも衝撃的だった。詳細はそれ以上分からなかったし、それ以上その社員は何も言わなかったが、あまりにも期間が早すぎる。おそらくは二股をかけられていたのだろう。

 いつの時点からかは分からない。だがとにかく私は相当な可能性で騙され弄ばれていたのだ。そのショックが冷めやらない内に開かれた同窓会。私はその嘆きを隣の席に座った女性にまき散らしていた。

 そしてその女性こそがさゆりだった。


 迷惑な話だったろうと思う。久々の級友達と色々と話したい事もあったろうに、こんなろくでもないよっぱらいの愚痴に付き合わされたのだから。

 だがさゆりは一切嫌な顔を見せなかった。私の話を真剣に聞いてくれた。

それだけではなく、飲み過ぎた私の介抱までしてくれた。

 後日、あまりにも迷惑をかけすぎて申し訳なくなったので、交換したさゆりの連絡先に、お詫びに何かごちそうでもさせて欲しいと連絡した。

 最初さゆりからは、そんな気は遣わなくてもいいと遠慮されたが、私が素直にお礼をしたいだけなんだと伝えた所、そう言ってくれるのであればと最終的に了承を得た。

 当日、和食料理屋で私は改めてきちんとさゆりと向き合い、謝罪をした。さゆりは気にしないでと言ってくれたし、それどころか大丈夫なのと気を遣ってくれさえした。

 私は彼女に感謝した。そしてその日はさゆりとの時間を素直に楽しんだ。

 結果としてそれがきっかけとなり、親交を深めていった私達は、自然に交際へと発展する事となった。


 長い髪と切り揃った前髪と会話の受け身な所は小学校の頃と同じように思えたが、話していて分かったのは彼女がとても聞き上手な人であるという事だった。きっとあの日べろべろになりながらも色々と話しきれたのは彼女のそういった面が私にそうさせたのかもしれない。

 長く時を過ごしていく中で、お互いの空気が合うという事はとても大事な事だ。少なくともその空気感の良さについて、私は早くからそれを感じ取っていた。だから当然の流れとして、その先に結婚がある事を見越していたし、早くからさゆりの家にも挨拶に行った。

 みゆきさんもあゆみさんも暖かく出迎えてくれた。みゆきさんとは出身校が同じだった事もあり、同じ話で盛り上がる事が出来たし、あゆみさんも私が早くに親を亡くしている所に情を感じた事もあってか、お母さんだと思ってくれていいからと養子に引き取られた子供を安心させるかのようなセリフを言いながら豪快に笑った。

 私はそれをありがたく思った。そしてさゆりとの時間ももちろん、さゆりの家族とも多くの時間を過ごすようになり、私は本当にここがもう一つの家族であり、家であると感じるようになった。

 暖かく、幸せな時間だった。

 唐突に訪れた、大きな災厄に切り裂かれるまでは。


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