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今年の暑さも過酷極まりない。
今年の夏は例年より暑くなるといった言葉を聞くのは今年で何度目だろうか。このままでは近々当たり前のように40℃を超える日々が訪れるのではないかと思うとぞっとする。
額から流れる汗はいくら拭えども次から次へと滲み出してくる。ニュース等では小まめな水分補給をと注意喚起を促しているが、いくら水分があっても足りない暑さだ。
世間的にはお盆の時期。私の勤める会社もそれに倣う形で休暇となっている。
大人の私達にとって短い夏休み。先祖への挨拶ももちろんだが、帰省で疲れた骨や体を休める人もいれば、長めの旅行に出掛ける人達もいる。
自分はといえば、出不精な所もあり、級友と酒を飲み交わす以外は今年もゆっくり穏やかに過ごすつもりだ。地元企業に就職しているので特に帰省の必要もない。
しかし、そんな私にも一つだけ毎年この時期に決まった予定がある。
私は目の前にある墓石に丁寧に冷や水をかけていく。今年も暑い。これで少しでも涼しくなってくれればと思いながらバケツに入れておいた水を杓子ですくい墓石の温度を下げる事に努める。
水受けにもたっぷりと水を注ぎこんだら、今度は持参した清掃用の布で墓石を拭いていく。
気付けば5年が過ぎていた。
改めて月日の流れの早さを感じるが、墓石は今も綺麗に保たれている。私も墓参りの度に綺麗にしているが、このような状態に保たれているのは家族のおかげだろう。
さゆり。
生きていれば、自分と同じように歳を重ねているはずだった。
私は今32歳になった。何事もなければ同じく32歳になったさゆりが横にいただろう。
「5年か。早いよな。ほんとに」
私は少し戸惑ってから、手を合わせ、その場から離れた。
「じゃあね」
振り返らず、私は霊園を後にした。