第一話
窓の外はもう段々と寒くなり、高校に入ってから二回目の冬が来たことを伝えていた。
「何してんだよ、愁。外になんかあんのか?」
「何もねーよ」
窓の外を眺めていた俺に話しかけたのはイケメンだった。
いや、見かけに騙されてはいけない。奴は変態なのだ。
どのぐらいキモイかって?
それはもうゴキブリ並みに。
「お前、俺のこと変態でゴキブリ以下で、マゾでシスコンって紹介しただろ!」
「そこまで言ってねぇよ!」
さらっと人の心を読むなよ。
「んで、何しに来たんだよ。お前クラス違うだろ?」
そう、この変態でイケメンという素晴らしいほど残念な奴、雨河一基は俺の幼馴染であり悪友なのである。
「これは俺が極秘に調べあげた情報なんだがな、実は………」
一基が話しはじめた時だった。
突然、ドアが開き担任の飽田こまち26歳独身(♀)が、入ってくるのが見える。
中学生(どちらかというと小学生)に見える小柄な女性だ。
彼女は、入ってくるなり一基を見つけると………
「早く土に還りなさい、雨河君!」
さも、それが当り前の様に一基に注意(?)した。
「げ、こまちゃん先生!いつもより早くないすか?というか、土に還れって酷くない?」
それに対して、幼稚園児の様な元気な声で言い返す。
「私を子供扱いする奴は土に還るべきなの!」
「子供みたいな先生に罵倒されるなんて!………やっべ、興奮してきた~!」
「……ホント、顔だけイケメンの変態なんて世界のゴミだわ!」
このくだりは毎日のように繰り返されているのだ。
いつものお約束となっている挨拶(?)が終わると一基は自教室にかえっていった。
担任は疲れたようで、イスに座り込んでしまっていた。
「う~、変態のせいでやる気がなくなっちゃったよ。先生、職員室かえる~」
「「「かえらないで下さい!」」」
「え~。だって~」
子供の様な担任の発言に対し、クラスの殆んどが声を揃える。
「けち~」
明らかに拗ねている担任に対し、今度は一人の女子生徒が机を叩き立ち上がった。
「いい加減にしてください!」
「はぅ!」
よほど、びっくりしたのだろう。
担任は、これまた小さな瞳に大粒の涙を浮かべていた。
そして……教室から逃げだした。
「……西木さん、泣かすのはやり過ぎだな」
「ぇ、いや、そんなつもりは!
凛とした顔立ちと包容感のある豊な胸が特徴の美少女。
それがこの、西木理緒である。
可愛いと言うより、美しいと言ったほうが当てはまる繊細な顔立ちや性格から、多くの男が撃墜されたという噂は一基から。
信じるか信じないかは、あなた次第。
「せ、先生!待ってください!」
その西木は、慌てた様子で担任を追いかけていった。
「……今日も一日、怠かったな~」
「あの、伊織君。今、いいかな?」
「西木さん……」
放課後、家に帰ろうとした俺を呼び止めたのは西木だった。
「……いいよ、暇だし」
暫し思考。
暇だとわかると、俺はそう返事した。
「ありがとう。帰りながら話そう」
「……これを見てくれ」
「……私のパンツを見てくれって、恥女だったんだな」
「んな!そ、そんなことしていない!」
顔を真っ赤にしながら、否定する西木。
その手には、携帯電話が握られていた。
「なになに……ディアブロハーツ?」
ディスプレイに表示されていたのは、ディアブロハーツという携帯電話でするゲームのログイン画面だった。
「へぇ~。西木さん、こうゆうのするんだ……」
なんか、意外だ。
「ち、違う。友達に昨日、勧められたんだが……君はやってないんだな?」
「あ、ああ」
「なら、いいんだ」
心配するような顔が、一瞬で安堵に変わる。
「なんか、あんのか?このゲーム?」
「い、いや、そんなことはないんだが。男の子というのはこういうものをやると、聞いたから……」
まるで、俺にやって欲しくないような言い方。
「その、私の家はこっちだから。今日は変なことを訊いて悪かった」
「……別に気にしてないから」
「そうか、ありがとう。では明日、学校で」
「じゃあな」
ご機嫌な様子で帰っていく西木の姿が見えなくなってから、俺は歩きだした。
『もしもし、愁か?』
「俺のケータイなんだから、俺しかないだろ」
夜、一基から携帯電話に連絡があった。
用件は、たわいもない暇潰し。
そこから、なぜか宇宙人の話になっていた。
『……というわけで宇宙人はいるんだよ!』
「わかったから、耳元で騒ぐなよ」
『だからな……』
ふと、西木の言っていたディアブロハーツについて尋ねてみることにした。
「……なぁ、ディアブロハーツって知っているか?」
『ああ、知ってるぜ。俺、やってるし』
「あれって、なんかあんのか?」
『なんかって?』
「……危ないとか?」
『あるわけないだろ、ただのケータイのゲームだぜ』
「だよな……」
ならなぜ、西木はあんなにも心配そうな顔をしていたんだろうか?
『やるんなら、招待のメール送ろうか?無料だし』
「……そうだな。暇だし、やる」
やってみることで何か、分るかもしれない。
そして…………知らず知らずのうちに、魔王への一歩を踏み出していた。