第7話 万物の根源(アルケー)
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前回までのあらすじ
私、ピタゴラス。この物語の主人公。
3月14日、早朝。憧れのルブラン君の靴箱の中に、ラブレターを入れようと思ったら・・・すでに誰かのラブレターが入っていた。
それを盗み取った私は、こっそり中を読む。手紙の内容から、これを書いた人物(犯人)は数学倶楽部の部員で間違いない。
同じ数学倶楽部のデカルトちゃんとラッセルちゃんは犯人でないと確信した私は・・・この2人と共に、真犯人を探し出そうとする。
デカルトちゃんの提案で、ポール公園に行こうとするのだが・・・?
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第7話 万物の根源
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一介の化学教師だったサンジェルマン先生は、ある日偉大な化学の実験に成功した。くわしくは知らないけど、人はそれを【錬金術】と言うんだって。そのおかげでサンジェルマン先生は、超のつくお金持ちになったらしい。
そして経営の危機だった聖フィロソフィー学園を立て直すため、理事長に就任したのが数年前。実はこの聖フィロソフィー学園・・・ サンジェルマン先生が理事長になる前は、女子高だったのだ。
噂では理事長に就任した彼が、周りの反対を押し切って強引に男女共学にしたとか?
ちょうど私が入学する時、共学になったのよね。私的には、ルブラン君と運命の出会いをしたのだから(遠くから見つめるだけで、喋った事ないんだけどね)、サンジェルマン理事長様々って感じ。
そんな聖フィロソフィー学園・・・ 通称【テツ学】。哲学を中心に教育カリキュラムが組まれ、世界各国から【哲学者の卵】となる生徒を募っている。ちなみに学園内での公用語は、日本語と英語。私、英語が苦手なんだけどね。
・・・ ・・・。
放課後の廊下を歩くと、色々な生徒と遭遇する。今、私達は玄関に向かうため、1階の【古代組】の前を通っているが・・・
「万物の根源は、水ですわ」
「いやいや、火だっぺよ!!」
「原子だっちゃ!」
そこでは毎日、万物の根源について、白熱したディスカッションが行われている。
「水はどんな形にもなれるのよ。それに生命の起源は水にあり。
もっとも万物の根源にふさわしいのは、水ですわ」
まるでネグリジェのようなスケスケの服装で、胸が大きいタレスちゃん。
「それなら火だって、形を変えられるっぺよ!」
魔法使いのような出で立ちのヘラクレイトスちゃん。
「いやいや。原子の結合次第では、どんな形にもなれるっちゃ・・・」
巫女のように可愛らしい姿のデモクリトスちゃん。ディスカッション中の3人の輪の中に
「デカちゃん的には~ 全て疑わしいです~!
つまりあなた達は~・・・」
デカルトちゃんが乱入した。
「あら、デカルトちゃん。今度は、私と勝負するつもり?」
タレスちゃんがけんか腰に言葉を投げつける。
「はわ?」
首をかしげるデカルトちゃん。その横にいた部長と、タレスちゃんの目が合った。
「!?」
瞬間、タレスちゃんは両手で胸を抑える。あれ? ブラジャーつけてないよね?
「部長・・・ タレスちゃんのブラ、取った?」
「あのさ、ピタ子。僕が見境無く、人のブラを取ったりするように見える?」
見える。
「う~ん。そう言えば、タレスちゃん・・・
普段からノーブラだった・・・ ような気もする」
同じ【古代組】だから、毎日顔は合わせてはいるのよね。明らかに警戒心むき出しのタレスちゃんは、部長に声をかける。
「あんた・・・ もう、十分でしょ? さっさと行きなさいよ・・・」
彼女は部長が苦手みたい。過去、何かあったのだろうか?
「部長・・・ タレスちゃんを襲ったでしょ?」
「まさか。僕がそんな事をするように・・・」
見える!
「まぁ、あの豊満なおっぱいなら・・・
確かに揉んでみたいけどさ。僕にだって理性があるよ」
人のブラはずしまくった前科数犯のエロオヤジに、理性なんてあるのか? まぁ、これもおっぱいコンプレックスかしら?
一方、デカルトちゃんは
「いい? デカちゃん的には~」
3人を交互に指さし・・・
「絶対的な何かを探すには~
あなたたち、【萌え】が足りないです~!」
ドヤ顔で言ってのける。
「あなたの言う【萌え】だって、水じゃないの~!?」
「いやいや。火だっぺお!」
「だから、原子だっちゃ・・・」
彼女たちには通じない。
「我思う、ゆえに我萌え~! それだけが唯一の真実!!」
「あの・・・」
熱く語るデカルトちゃんに、背中から声をかける人物がいた。
「あの・・・ 絶対壊れない、イデアの世界について語らない?」
まためんどくさいのが現れた。時間が気になる私は、デカルトちゃんの腕を掴み、ディスカッションの輪から引きずり出す。
「あ、あの・・・ イデアについて・・・」
「プラトンちゃん、ごめんね~。
私達、ちょっと用事があるの」
ヒラヒラのスカートに、三角形のアクセサリーをつけたプラトンちゃん。
「ほら、デカルトちゃん。行くわよ!」
プラトンちゃんに背を向け
「イデア・・・」
「水・・・」
「火・・・」
「原子・・・」
背後に、古代組の白熱ディスカッションを聞きながら・・・
「はわわ~ 萌えです~」
後ろ髪引かれるデカルトちゃんの背中を押し、私達は靴箱へと向かった。
「僕的にはさ~」
さっきの場面を、遠目に見守っていた部長が口を開く。
「デモクリトリスちゃんは、なかなか・・・」
「デモクリトスちゃん!!」
油断すると、ベクトルが変態の方を向くエロオヤジ。
「そうそう。デモクリトスちゃんね。
万物の根源が原子って子。
なかなか確信ついてると思うな~」
「・・・ ・・・」
以前はよく・・・ 私も、アルケーディスカッションに参加していた。
【万物の根源は、数である!】
これが私の持論。だけど私のファンクラブ【ピタゴラス教団】の人以外、ほとんどこの意見に耳を貸さないのよね。
「数って何ですの?」
「見えないし! 書かないと見えないし!」
「そんなものが、万物の根源っちゃ?
ちゃんちゃらおかしいっちゃっちゃ!」
みな自分の主張こそが正しいと思ってる。まぁ、そういう私もそうなんだけど・・・。
「でもさ。ピタ子も、なかなかいいセンいってるよ」
部長は私の意見を褒めてくれる。教団以外の子では、唯一の人物だ。
「元素は番号がついてる。つまり数字と元素は、対応してるのよ。
数学的には1対1にね。
それに僕たちがいる場所だって、座標系で数値表現できる」
「は~い! 座標は~ デカちゃんの発明です~!」
「色んな座標系あるけどさ。デカ子の開発した直行座標・・・
1番直感的でわかりやすい!
数学の発展に貢献してるよ。デカ子は偉い!」
部長が言うには・・・ 例えば北緯何度、東経何度、高さ何mとかでこの地球上の【位置】は全て【数字】で表現できる。さらには、その位置にある物質も全て元素レベルで考える事ができ、それら元素も数字が対応しているという。
「あとは質量なんかも、全て数値表現できるしね。
この世に存在する物は、数字で表現可能。例え見えなくても・・・」
「見えなくても?」
「うん。例えばブラックホール。
光ものみこむわけだから、直接観測されたワケじゃない。
X線など電波の観測数値を元に、位置を特定しているんだ。
つまり数字だけが、見えないブラックホールの存在を主張しているのよ」
とにかく数字があれば、その物が存在している位置や材質、質量や大きさなど全て表現できる。例え私達の目で見えなくても。つまり全ての物の存在は、数字に還元できる・・・ というのが部長の言いたい事らしい。
「僕は、【全て】とは言ってないよ」
これ以上は【存在論】という哲学の深いところまで発展する事になるので・・・ その話はまたいつか。
「だからピタ子。万物の根源は数・・・
正解とは断言できないけど、いいと思うよ。マジで」
「はわわ~ デカちゃん的には~
数字の世界も~ 疑う余地はあるです~」
デカルトちゃんの哲学は全てを疑う事から始まる。
「待ってよ、デカルトちゃん。例えば座標系も疑えるって事?」
「もちろんです~」
「そんな事言ったら、デカ子。
君が開発したデカルト座標も、正しくないって事になるよ?」
「だからデカちゃん、言ってるじゃないですか~
萌えのデカちゃんだけが~ 唯一正しいんです~
そのデカちゃんが考えた座標系は~ 正しい・・・ はわ?
でもさっき~ 疑う余地があるって、言っちゃったです~?」
「ほら、パラドックスに陥った」
嬉しそうに部長が言い放つ。
そう・・・
私達は毎日、こんな話し合いをしている。
ある者は、物質とは何かについて研究し・・・
ある者は、生きる意義は何かと考える・・・
ある者は、正義とは何かを語り・・・
そしてある者は、知識とは何かを追求する・・・
何も知らないという事さえ、【知】だという人もいる。
「【ムチの血】ってヤツでしょ!
興奮するね~ ラッセル~ ラッセル~♪」
「違うです~ 【無知の知】です~!」
「・・・ ・・・」
「おろ? いつも真っ先にツッコミ入れるのはピタ子なのに・・・
放置プレイ?」
「いや・・・ 私も1つ、【知】を得たわ」
「はわわ~ どんな【知】です~?」
「【ベタなエロオヤジギャグは、殺意を芽生えさせる】」
「あ~! 僕もそれ、わかる!! すっごい、よくわかる!」
こいつはわかってない。
「・・・ ・・・」
部長の邪魔が入っちゃった。話を戻そう。
私達【人】はどこから来て、どこへ向かっているのか・・・
その存在意義とは何か?
何故、私達は感情があるのか? 愛とは何か? 生きるとは?
それらについて考える事は全て【哲学】の対象だ。
そして多くの哲学者は・・・ それら思考の先にある、大きなテーマにぶちあたる事になる。
【神の存在】だ。
【現代組】では【大統一理論】や【ビッグバン】、【インフレーション理論】や【超ひも理論】など、最新の科学や数学を学んでいるらしいが・・・
実のところ、それらの根本は不確実なのである。
結局行きつく先は、それら全ての源。おそらく【絶対的な何か】・・・ 多くの人はそれを【神】と表現する。そしてその存在を認めなければならないのか・・・ という議論になる。
【神】の定義とは何か? 【神】の存在をどう証明するのか? そもそもこの世の起源は【神】でしか語れないのか?
現代組の天才児と言われるニーチェちゃんは
【神は死んだ】
という言葉で、一躍時の人になった。これは【神は存在していたが、すでに死んだ】という意味ではない。彼女の言う【神】とは、絶対的な象徴。例えば【神】もそうだが、【真理】や【善】などもそれにあたる。それらはもはや無価値である・・・ という彼女の主張を表したのが、上の言葉だ。
しかし彼女とて・・・
神が存在しない事を証明したわけではない。
この先、万人が納得する【答】が見つかるのかどうか・・・ 今のとこ、誰にもわからない。
「・・・ ・・・」
今の私はそれよりも・・・
「ようやく学園の外に出た。
真実の探求に向け、僕達3人はポール公園に向かうのであった~
ラッセル、ラッセル~♪」
恋敵が誰なのか? それにしか興味がない。そして無価値かもしれない【愛】のため・・・
その子の前に立ちはだかってやる。
「公園、見えてきたです~」
「青空教室ってのも、アリだわ。
部長として週一ぐらい、公園で部活ってのも考えようかな」
「・・・ ・・・」
もうすぐ目的地に到着する私達。
・・・ ・・・。
ちょうどその頃。
理事長室では、私達の想像を超えた【物】が運ばれていた。
「じゃ、ここにサインお願いします」
「・・・ ・・・」
サンジェルマン理事長は、無言で宅配業者の差し出した用紙にサインする。
「では、失礼します」
業者が部屋を出ると・・・ 目の前にある、段ボールを見つめた。
1辺約1.5mの大きな立方体だ。
「これが・・・」
その段ボールを、右手でさすりながら
「これが・・・
【神】の贈り物か・・・」
理事長はそう呟いた。
(第8話へ続く)
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次回予告
公園内のトイレに隠れ、私達は犯人が現れるであろうベンチを監視していた。
そしてとうとうその子は現れた!
急いで私は犯人の正体を確認しようとするが・・・?
次回 「 第8話 謎のメッセージ 」
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