第6話 ソーカルちゃんと理事長
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前回までのあらすじ
私、ピタゴラス。この物語の主人公。
3月14日、早朝。憧れのルブラン君の靴箱の中に、ラブレターを入れようと思ったら・・・すでに誰かのラブレターが入っていた。
それを盗み取った私は、こっそり中を読む。手紙の内容から、これを書いた人物(犯人)は数学倶楽部の部員で間違いない。
同じ数学倶楽部のデカルトちゃんとラッセルちゃんは犯人でないと確信した私は・・・この2人と共に、真犯人を探し出そうとする。
デカルトちゃんの提案で、ポール公園に行こうとするのだが・・・?
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第6話 ソーカルちゃんと理事長
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バタン!!
「あ・・・」
部室を出た私は、出会い頭に誰かとぶつかり・・・
ドスン
その場で倒れてしまった。
「いてて・・・」
お尻をさすりながら前を見ると、ぶつかった相手も尻餅をついている。
「2分の1mv2乗が、帰納的に分子間力によって引き裂かれ・・・」
「 ? 」
その子の洋服には、色々な数式や化学記号がプリントされていた。
「ご、ごめんなさい・・・」
前を見ず部室を出た私。明らかにこちらの不注意だったから、素直に謝るが・・・
「ユークリッド空間なら、カノンコードで調和がとれるけど・・・
もし、遠近法によるミスディレクションの世界なら?」
その子は、ニヤニヤしながら私に語りかける。
「は?」
首をかしげる私。
「オールトの雲の中で見たわ。
垂直落下式・・・ クローズドインターバルによるタイムトラベルを・・・」
「ちょ、ちょ・・・ あなた、大丈夫?」
絶対、この子・・・
「エントロピーが増大するとね・・・
ジュール熱によるガンマ線の波長が絶対零度になるまで・・・」
打ち所が悪かったんだ。
「おろ? ソーカルちゃん」
私に続いて、部室を出てきた部長。その子に、手を差し出した。
この子、ソーカルちゃんって言うんだ。
「・・・ ・・・」
彼女は部長の手を握り、ゆっくりと立ち上がる。
「1/f揺らぎってあるでしょ?
ベジタリアンの世界じゃ、ヴァンデグラフにG難度なの」
立ち上がると、ニヤニヤの視線を部長に向け、さらに語り始めた。
「ロンゴロンゴ文字で、コックリさんやるとさ・・・
4コマ滑りのディアミドフから、逆転してヒーリー並の組合せよね」
「はいはい。わかった、わかった・・・」
部長は、その子の背中を押し・・・
「相対性理論も、アウトオブプレイスアーティファクツも・・・
フラクタル音階で、現在完了なの」
「ほら。【物理倶楽部】は、隣だから・・・」
隣の部屋へ押し込む。
「私!! あなたのドッペルゲンガーを見たわ!!」
押し込まれたその子は、私を指さしてそう言った。直後・・・
「じゃ、また明日ね。ソーカルちゃん」
バタン!
部長が物理倶楽部の扉を閉める。
「ふ~・・・」
やれやれという表情を浮かべる部長。幸いにも、その子が再び私達の前に現れることはなかった。
「ソーカル・・・ ちゃん?」
「うん。僕と同じクラス。【現代組】のね」
「デカちゃん、聞いた事あります~」
部長の後ろからひょっこり現れたデカルトちゃん。
「ソーカルちゃんは~ 早口言葉で専門用語を言って~
校内意見発表会で~ 最優秀賞とったんです~
でも、授賞式の時~ 【全部嘘ぴょーん】って~
笑い飛ばしたって、聞きました~」
「お? デカ子、よく知ってるね~。
【ソーカル事件】って、ヤツだね」
「ソーカル・・・ 事件?」
「まぁ、クラスでもかなり変な子だからさ。
あまり気にしない方がいいよ。さ、公園行こ」
どうやら【現代組】ってクラスは・・・
「うん・・・」
部長を始め、変人の集まりらしい。
「数学倶楽部のメンバーで~
お外へ行くのは~ 初めてです~
デカちゃん、ドキドキです~」
「お? 初体験でドキドキしてる? どれどれ・・・
ちょっとブラジャーハズして、お胸を・・・」
「きゃ~♪」
また始まった・・・。
「これ!」
不意に男性の透き通るようなテノール声が、私達にかけられた。
「あ・・・」
物理倶楽部の前にたたずむ、スーツ姿のダンディなおじさん。少し白髪が目立つ巻き毛で、身長は推定185cmと大柄。ネクタイ姿をビシッときめた、我が聖フィロソフィー学園・・・
「サンジェルマン理事長・・・」
「・・・ ・・・」
私達3人を睨み付けている。いや・・・ 私を睨み付けてる?
「廊下で騒がないように。部室に入るか、静かに廊下を歩きなさい」
目つきは鋭いけど、優しい口調で注意する。
「すいません・・・」
頭を下げた私。後ろの2人も、一応頭を下げている。
「仲がいいのは良いことだが、場所はわきまえないとな。
君達は、今朝早くも・・・ 校舎の屋上で、はしゃいでいたね?」
「え?」
「はわ?」
「え~?」
私達は同時に、疑問の声をあげた。
「僕たち、朝は一緒じゃないですよ?」
「そうです~ デカちゃんは今日、遅刻しました~!」
いや・・・ だからそれ、胸をはって言える事か? しかも理事長の前で?
「私達は今日、放課後の倶楽部で、初めて顔を合わせました」
「・・・ ・・・」
理事長の眉がつりあがる。
「そうか。失礼。人違いだったようだ。
まぁ、とにかく。廊下では騒がしくしないように」
「は、はい! 失礼します!」
私は横にいた2人の袖を引っ張り、その場から立ち去った。
「僕たち、誰と勘違いされたんだろうね~?」
「デカちゃんも気になります~」
「・・・ ・・・」
チラッと後ろを見ると・・・ 理事長が、こちらをジッと睨み続けていた。
「理事長・・・」
ロリコン?
「わ。理事長、ずっと、ピタ子見てる。
ひょっとして、ピタ子に興味あるんじゃない?」
部長が私の背中をポンと叩く。
「可能性アリです~
だからあんな作り話を言って~ 気を引いたんです~」
「まさか・・・」
再び後ろを振り返ると、彼が物理倶楽部に入っていく姿が見えた。
「・・・ ・・・」
確か理事長・・・ 化学の先生だったはずだけど? 何故、物理倶楽部へ?
サンジェルマン理事長の事をちょっと気にしながらも・・・
私達3人は、学校を出ようと1階へ降りていった。
(第7話へ続く)
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次回予告
外に出ようと、1階の廊下を歩く私達。タレスちゃんやヘラクレイトスちゃん達が、万物の根源についてディスカッションしている所へ遭遇する。
次回 「 第7話 万物の根源 」
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