第5話 パイからの手紙
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前回までのあらすじ
私、ピタゴラス。この物語の主人公。
3月14日、早朝。憧れのルブラン君の靴箱の中に、ラブレターを入れようと思ったら・・・すでに誰かのラブレターが入っていた。
それを盗み取った私は、こっそり中を読む。手紙の内容から、これを書いた人物(犯人)は数学倶楽部の部員で間違いない。
同じ数学倶楽部のデカルトちゃんとラッセルちゃんは犯人でないと確信した私は・・・この2人と共に、真犯人を探し出そうとする。
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第5話 パイからの手紙
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「やっぱり・・・ まず、コレからよね」
ラブレターを裏返す私。
【from Π】
「これ、フロム何? 何かの記号?」
私の質問に、2人は即答してくれた。
「はい! デカちゃん、わかります~!
これは~ 円周率のパイです~」
「そうそう。おっぱいの【Π(パイ)】ね」
とりあえず部長は無視したいが・・・
「パイ? パイって、【π】じゃなかったっけ?」
私は自分の手のひらで、それを書いてみせる。
「それ小文字よ。大文字で【Π】って書くの。
ピタ子、ホントに無理数とか苦手よね~」
現代組の部長の知識は、犯人捜索に欠かせないが・・・
「仕方ないでしょ! 【古代組】では無理数、教わらないんだから!」
私は円周率等の無理数が嫌いだ。小数表示した時、永遠に循環しないっていう、あのまとまりのなさが許せないのよね。
「そういえばピタ子。無理数の質問しにきた、教団の弟子・・・
半殺しにしたってホント? すっごい噂になってたよ?」
「その話~ デカちゃんのクラスでも~ 話題なってました~」
「・・・ ・・・」
「いくら自分が無理数わからないからってさ。
弟子を半殺しにするってのは、僕はどうかと・・・」
「あ、あれは私じゃない! 私のとりまきが勝手に・・・
【禁忌に触れし者、制裁あれ】とか言ってさ・・・
その子を校庭裏の川に投げ込んだのよ。
私は一切、関与してないから!」
ここで【ピタゴラス教団】について説明しておこう。いわゆる私のファンクラブで、何故か私は【教祖様】と呼ばれている。そしてファン連中は自らを【弟子】と称し、ぶっちゃけカルト的に盲信というか、妄信するコアな連中が多い。
デカルトちゃんのファンクラブは、彼女をアイドルのように扱うんだけど・・・ 【ピタゴラス教団】は全然様相が違う。一歩間違えれば、犯罪者になりそうな子が多い。教団の間では、【万物は数なり】【ピタゴラスの定理】【豆禁】が3大キャッチコピーになっているらしい(私は関知していない)。
弟子になって日の浅い子は・・・ 熱心なのはいいけど、私が嫌いな無理数に関する質問をする時がある。そんな時、これまた熱心な別の弟子が・・・
質問した弟子を校庭裏の川に投げ込む。それが慣例となっている。
先にも言ったが、私は豆が大嫌い。死ぬほど嫌い。死ねばいいのに。
そんな私に、新人弟子が【納豆】を差し入れた事があった。
「僕が聞いた話じゃ、納豆差し入れた子・・・
半殺しどころか、全殺しにされたとか?」
「・・・ ・・・」
「噂じゃ、教祖様自ら手を下したとか?」
「・・・ ・・・」
ノーコメント。
「豆、体にもよくて美味しいです~
デカちゃん、豆、大好きです~」
「僕もお豆、大好き~」
部長が言うと、エロにしか聞こえない。
【from Π】
「話を戻しましょう。じゃぁ、これは・・・
パイからの手紙?」
「ん~・・・ 僕には、インターセクションにも見えるね」
「インターセクション?」
「そ。2つの集合の共通部分。交わりって事。
一昨日教えたじゃん。
ホントは【U】をひっくり返した感じなんだけど・・・」
う~ん。【U】を逆さまにして【Π】か。まぁ、見えなくはない。ここ最近、部長が講義してくれている【集合論】。一昨日は【共通部分】と【和集合】の話も出た。
例えば、
A={2,3,5,7}
B={1,3,5,7,9}
という2つの集合があった場合、どちらの集合にも属する要素の集合を、AとBの【共通部分】といい、AΠBで表す。
AΠB={3,5,7}
ってわけ。ちなみにどちらかに属している要素を集めた集合は【和集合】といい、AUBで表す。
AUB={1,2,3,5,7,9}
というわけだ。部長曰く、集合論で【共通部分】【和集合】は基本中の基本との事。
「インターセクションか・・・
ルブラン君と、交わりたいって意味じゃね?」
部長のエロトークはおいといて・・・
「顧問に聞いてみようかな?」
顧問なら部員のことをよくわかるはず。このラブレター見せたら、一発で手紙の主を特定しくれるに違いない。我ながらいいアイディア。早速、職員室にと思ったら・・・
「デカちゃん、思うんですけど~
顧問に頼るのは~ 多分ダメです~」
デカルトちゃんが、その意見にダメだしする。
「顧問のパスカルちゃんは~
学校終わったら~ すぐ、パチンコ屋行くです~」
パチンコ?
「そういえば僕、日曜日にパスカルちゃん見たよ。
赤鉛筆耳にかけて、競馬新聞を凝視してた」
競馬?
「その新聞の裏側にさ、裸の女の人も載ってて興奮したわ~
ラッセル~ ラッセル~♪」
「デカちゃんの担任ですけど~・・・」
そう。数学倶楽部顧問のパスカルちゃんは、【近代組】の担任でもある。
「放課後~ 担任、見かけた事無いです~」
「でも授業だけは上手よね、あの先生。
僕、確率論の授業受けた時さ・・・
わかりやすくて、けっこう感動したわ」
「はわわ? デカちゃん、しょっちゅう怒られるです~
【お前、空しいよな】とか~
【お前の哲学、浅いんだよ】って~・・・」
「【古代組】の授業では、なんか変な事言ってたな~
【結婚=殺人】の方程式について、成り立つ条件がどうこうって・・・」
「あー! それ、言ってた! 僕も聞いた!」
井戸端会議になりかけたが、話を総合すると・・・
どうやらは数学倶楽部の顧問・パスカルちゃんはギャンブル好きらしく、授業が終わるとすぐにパチンコ屋か競馬場に出向くらしい。
「じゃぁ、パスカルちゃんに頼る作戦は・・・ 無しね」
「無しです~!」
「ナッセル!」
ナッセル? こうして顧問経由の犯人捜索は、全会一致で否決された。
「どうやって手紙の主を見つければ・・・
他に何か手がかりないかしら?」
部長が手を挙げた。
「手紙の主として考えられるのは・・・
数学倶楽部の部員でしょ? 人数は有限なんだからさ~
しらみつぶしに、部員全員あたればいいんじゃない?
【あなた、ラブレター落としませんでした?】ってさ」
自信満々で言いあげたものの・・・
「でもほとんどの部員、学校終わったら散らばるのよね~」
部室に顔出すのは、私達3人ぐらい。他の部員は、基本幽霊。たまに顔見せても、すぐどっか行っちゃう。
「う~ん、確かに。僕達は、毎日この部室に来るけど・・・
帰宅部員を始め、他の部員がどこにいるかは、把握できないな~
かといって、休み時間に各クラス回るのも・・・」
「【古代組】【中世組】【近代組】【現代組】【東洋組】の5クラス。
部員は、全てのクラスに散らばってるし。
1つ1つ回るのも、けっこうめんどくさいわよ?」
「デカちゃん、めんどくさいの嫌いです~」
「あ、僕もめんどくさいのダメ。はい、ナッセル!」
ナッセル?
「はいです~!」
今度はデカルトちゃんが手を挙げる。
「はい、どうぞ」
あまり期待せずに、彼女に発言権を与えた。
「5時過ぎに~ ポール公園、行けばいいと思うです~」
「あ・・・」
「あ・・・」
部長とハモった私。何故、気づかなかったんだろう?
時計を見ると午後4時過ぎ。学校から公園までは、10分もあれば行ける距離だ。
「デカルトちゃん、あなたの言う通りだわ。
手紙の主は・・・
ポール公園、トイレ近くのベンチに座っているはず・・・」
「デカ子! 冴えてるじゃん!
ご褒美に・・・ ラッセル、ラッセル~♪」
「きゃ~!!」
また始まった。巻き込まれたくない私は2人を残し、部室を出ようとする。
プチン♪
「 !? 」
瞬間、ブラホックがハズれる感覚を背中に味わった。
「ふふふ。スポーツブラなんて嘘ね。僕にはお見通しさ!」
酔っぱらって気分が高揚すると、周りにキスしたくなるオヤジがいると聞くが・・・
「【ブラを脱ごうとしない子のブラを、強引にはぎ取る女の子】
この命題のパラドックスに・・・ いざ、挑まん!」
部長は気分が高まると、人様のブラをハズしたくなるらしい。ただのエロセクハラオヤジってわけだ。
「ラッセル♪ ラッセル~♪」
「ちょ・・・ 」
この変態のせいで・・・ 無駄な時間を過ごしたのは言うまでもない。
(第6話へ続く)
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次回予告
部室を出た私。思いがけず何者かとぶつかった。
目の前にいたのは・・・部長と同じ【現代組】のソーカルちゃん。
不思議な服装の彼女は、突然意味不明な事を言ってきた。
次回 「 第6話 ソーカルちゃんと理事長 」
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