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ピタゴラスちゃんのジレンマ  作者: 伊吹 由
第3章 真実は未来のために
39/41

第38話  女神のような笑顔

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前回までのあらすじ


私、ピタゴラス。この物語の主人公。


3月14日、早朝。憧れのルブラン君の靴箱の中に、誰かが書いたラブレターを発見。私がそれを盗んだせいで、ルブラン君は交通事故に遭って死んでしまう。


理事長室に呼ばれた私は、衝撃の事実を2つ知る。1つ、ルブラン君がサンジェルマン理事長の子供だった事。1つ、目の前にタイムマシンがあるって事!


数学倶楽部に所属する私、部長、デカルトちゃんの3名は・・・ ルブラン君が死んだ日にタイムスリップ。


3人で力を合わせ、ルブラン君を交通事故から救ったにも関わらず・・・ 彼は心臓のやまいで亡くなってしまった。


落胆して現在に戻ってきた私達。ところが死んだはずのルブラン君が、生きていた!?


いや・・・ 生きていたのは、ルブラン君と双子のソフィちゃんだった!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   第38話  女神のような笑顔


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「確かにね~

 LHCで、光より速いニュートリノが観測されたのは知ってたけど~


 まさか、親友のアインシュタインちゃんの相対性理論が覆されるとはね~」


タイムマシンの前で、部長達がおしゃべりしている。


「天動説が地動説に変わった時と同じぐらい・・・ いや、それ以上・・・

 大きな波が押し寄せるだろう。


 科学だけじゃない。数学、物理、哲学、宗教・・・

 まさに全てにおいて」


理事長もおしゃべりに加わっている。


「デカちゃん的には~ 光より速い物質があるのが~

 なんでタイムマシンに繋がるのか~


 全然わかんないです~」


「それはね、デカ子・・・」


タイムマシントークをする3人から・・・ 少し離れた理事長のデスクに、私は座っていた。


【from α】と【from γ】 の手紙を書いている。最後の仕事のためにね。


手紙の表には、2通とも【ピタゴラスに告ぐ】と書いた。


【from α】の中には【3人で理事長室へ】と書かれた便せんを、【from γ】の中には【1729】と書かれた便せんを入れる。この手紙は、過去にも存在した。文字が消えたりする事はないはずだ。


「よし・・・ 出来た・・・」


手紙をリュックに入れ、3人の元へ向かう私。


前回は3人でのタイムトラベルだったけど、今度は理事長も含め4人でタイムマシンに乗り込んだ。


そして・・・ 


過去へタイムスリップする。今回はルブラン君が死んだ2日前ではなく、その翌日。つまり現在からしたら1日前だ。


「昨日の私は、3時過ぎにここを出て・・・

 会議で3時半頃戻ってくる。だから・・・」


理事長のアドバイスに従い、私達は1日前の午後3時14分へタイムスリップした。


1日前の理事長室の奥へ・・・ タイムマシンでやってきた私達。


「・・・ いないわね・・・」


過去の理事長が中にいない事を確認し、全員外に出る。


「・・・ 本当に・・・ 1日前なのか?」


タイムトラベル初体験の理事長を・・・


「そうですよ、理事長。ほら、扉のカギが閉まってます。

 つまり1日前の理事長は・・・」


部長とデカルトちゃんに預け・・・


まず私は、【from γ】を過去の理事長のデスクへ置く。この時の理事長は、すでに事情を知っているから・・・ 普通は意味不明と思う【ピタゴラスに告ぐ】も、通じるハズだ。


後はこの【from α】をソーカルちゃんに渡せばいいんだけど・・・


「ソーカルちゃん、物理倶楽部かしら?」


数学倶楽部の隣だから、結構危険な場所だ。


「この時間の私は、数学倶楽部にいるハズだから・・・」


部長達を相手に、自分を責め立てている頃。


「過去の自分と遭遇しない・・・」


これだけは注意しないとね。私は変装用のコートと帽子をかぶり、理事長室のドアノブに手をかける。


「・・・ 大丈夫。絶対うまくいく・・・」


過去の住人との接触も最小限にしないといけない。


「・・・ ・・・」


ドアノブに手をかけたまま考える。


交通事故で死んだはずのルブラン君・・・ つまりソフィちゃんは、タイムスリップのおかげで死ぬ事はなかった。


つまり過去を変えることが出来たワケだ。でも今から私が失敗したら・・・


現在に戻った時、またソフィちゃんが死んでる世界になってる可能性もあるのよね。


「ミスは許されない・・・」


考えれば考えるほど、緊張が増してくる。


「スー・・・ ハ-・・・」


深呼吸した私。だって今は、ちょうど学校が終わった時間。生徒だらけの学園内を行くんだから、緊張するのも当たり前。


しかも制限時間は約10分。1日前の理事長が戻ってくる前に・・・


「よ、よし・・・」


ヘタに緊張して動いたら、余計に怪しまれる。ここはナチュラルに・・・ 堂々と・・・


ガチャリ。


ロックを解除した私は・・・ 扉を開け、勢いよく廊下へ出・・・


「あ・・・」


出た瞬間、出会い頭に誰かとぶつかる。


あれれ? このシチュエーションって・・・?


その場で倒れてしまった私。


「いてて・・・」


お尻をさすりながら前を向くと、


「やっぱり・・・」


色々な数式や化学記号がプリントされている洋服が目に入ってきた。


「ソーカルちゃん!」


思わず声をあげた私。


「・・・ ・・・」


尻餅をついた彼女も、私と目線を合わせる。


何度か同じ状況があったけど、違うと言えば・・・ 目の前のソーカルちゃんとは、時空を超えて相対あいたいしてるって事。


「人は・・・ 紫外線を感じ取る器官がないけど、ナノトランジスタによる塗料電解質・・・」


き、きた!! 例の意味不明な早口言葉! 反射的に私は言い返した。


「い、今・・・ LHCで光より速いニュートリノが観測されたって!!」


「・・・ え?」


く、くいついた!? よ、よし!


とにかく彼女の口を止めないと、手紙を渡せない。過去の私は、彼女に押されっぱなしだったからね。


「えっと・・・ あ、アインシュタインちゃんの相対性理論が覆されるのよ!

 そ、それがどれだけ・・・ すごい事か、わかる!?」


私はよくわからない。相対性理論って何?


「な・・・」


あのマシンガントークのソーカルちゃんが呆然としている。


「天動説が地動説に変わった時ぐらい・・・

 哲学にも大きな波が押し寄せる・・・ のじゃないかしら!?」


部長達のおしゃべりを、あまり理解せずに言っている私。


「・・・ ・・・」


よ、よし。完全に黙った。今よ!


「コレ! 数学倶楽部にいるわた・・・」


おっと。【私】はマズイ!


「わた・・・ して! ピタゴラスちゃんに渡して!!」


そう言うと私は、理事長室へ入っ・・・


「待って!!」


え? ソーカルちゃんが声をかけてきた。


「な、何・・・?」


あまり関わりたくないんだけど。


「ど、どうやったら・・・ タイムマシンは作れるの?」


いや、もうあるんだけどさ。


「わ、わからない・・・」


ドアノブに手をかけたまま、お茶を濁す私。


「仮に出来たとして・・・ どうやって動かすの!? 材質は!?

 ヒッグス粒子!? 別の超高速素粒子?


 グラヴィトンは存在したの!?」


な、何言ってるの?


「さ、さぁ・・・ 数式で動くんじゃない?

 あと1つ解ければだけど・・・」


思わず言っちゃう私。


「だ・・・」


バタン!!


何か言いかけたソーカルちゃんを無視して、扉が閉まった。扉を閉めたのは・・・


「ピタ子・・・ あの子と、まともに会話しちゃダメだって」


ガチャリ。


中からカギをかけている部長だ。


「そ・・・ ご、ごめん」


そうだ。過去の住人との接触は最小限にだった。


「さ・・・ まだやらなきゃいけない事、あるんでしょ?」


「う、うん」


「さっさと片付けて・・・ 未来へ行こ」


笑顔で言ってくれた部長。


「うん!」


うなずいた私は、タイムマシンへ向かった。


そう。いっけん、やり残した事はなさそうだけど・・・


私にはまだ、やるべき事がある。


・・・ ・・・。


10分後の理事長室。


「来たか・・・」


理事長はデスクのそれを受け取る。


【ピタゴラスに告ぐ】


「・・・ ・・・」


しばらくして、校内放送をアナウンスした。


「【古代組】のピタゴラス君。至急、理事長室へお越し下さい。

 繰り返します。【古代組】のピタゴラス君。至急、理事長室へ・・・」


アナウンス直後。


「失礼します」


ノック音と共に、スーツを着けたメガネ姿の女性が入ってきた。理事長の秘書だ。


「なんだ?」


「昨日と同じ製薬会社の方が、いらっしゃってます」


「・・・ ・・・」


チラリと腕時計を見る理事長。


「2~3分だけになるが・・・ 通してくれ」


「わかりました。では・・・」



・・・ ・・・。


今度は2度目となる、2日前にタイムスリップ。


初めて過去に来た時は、午前6時半到着だったけど・・・ 今回は午前6時。


「待って! タイムマシンを・・・」


部長の指示で、タイムマシンを理事長室の隣の部屋に隠した。


何故隣の部屋に隠したかって? そりゃ、6時半にここへ・・・ また別の私達が現れるからよ。


でも、ホントに部長がいなかったら・・・ 色んなミス、犯してただろうな~。


私達は薄暗い学園の外へ出て行った。



・・・ ・・・。


駅前で、私はある人物を待っていた。


「来た!」


登校中のラマヌジャンちゃんを捕まえる私。


「あら・・・ あなたは?」


綺麗な黒髪、神秘的な黒目。思わずうっとりしてしまう美貌の彼女。


「わ、私・・・ ピタゴラスって言うの。初めまして・・・」


ホントは4度目だけど。


「・・・ ・・・」


あからさまに不審な顔を浮かべるラマヌジャンちゃん。


「あ・・・ ナマギーリ女神の導きで・・・ ここへ来たの」


私がそう言うと、彼女の表情は一転。ニッコリ微笑んだ。


「初めまして。私、ラマヌジャン。ご用件は?」


「へ、変な話だけど・・・ その・・・」


何て言えばいいんだろう? 言葉に詰まる。


「大丈夫。ナマギーリ女神のお導きなんでしょ? 言ってみて」


「う、うん。今日と明日、あなたは別の私と会うの・・・

 へ、変でしょ?」


「・・・ 続けて」


「わ、私を助けて欲しいの! あなたの力が必要なの!

 とっても、とっても・・・ 必要なの!!」


涙目でうったえる私。


「あなたの助けがなければ・・・ 先に進めないの! お願い!!」


私は深々と頭を下げた。


「・・・ ・・・ わかった」


普通は【わからない】という所だが、さすがラマヌジャンちゃん!


「あなたを助ければいいのね。それがナマギーリ女神のお導きなら・・・

 そうさせて頂きます。具体的に、どうすればいいのかしら?」


「う、うん。今日の朝、9時半頃ね・・・

 学園の屋上に行って欲しい。


 そしたら別の私がいるから・・・

 あ、後はあなたに・・・ 任せる・・・」


「9時半に屋上ね。別のあなたに会って、その子を助ける・・・

 わかった。他にはまだ何かある?」


「う、ううん。とりあえず今は・・・」


「やれるだけの事はやってみる。それじゃ・・・」


笑顔を私に振りまいた彼女は、背を向けた。


「ま、待って!!」


「・・・ 何か思い出した?」


再びこちらを向いたラマヌジャンちゃん。


「う、うん。迷惑なのはわかるけど、あと1つだけお願いが・・・」


「どうぞ」


「哲学者として、もっと成長したいから・・・

 簡単には、先へ行かせないで・・・」


そう。今回の件で、私は自分がいかに未熟者かを痛感した。


部長のように的確な判断力もなければ、リーダーシップもない。部長の豊富な知識は、ホント尊敬に値する。


最初のタイムトラベルで、部長がいなかったら・・・ 絶対ルブラン君、すなわちソフィちゃんを助けられなかったと思う。


天然に見えるデカルトちゃんも、実は要所要所を締めている。手紙の主を真っ先に私だと言ったのは彼女。ソフィちゃんが学校休んでいた事を黙っていたのは、結果的に大正解。だって学校にいると思って、私達が動いてたら・・・ ソフィちゃんは自宅前で交通事故に遭っていたはず。


現在へ戻る時、デカルトちゃんが【x】を覚えていなかったと思うと・・・ ぞっとする。


今回のタイムトラベル。2人とも間違いなく、必要不可欠な存在だった。


自分はといえば・・・ 

確かにタイムマシンを動かしたけど、それはラマヌジャンのおかげだし。


過去に戻っても、部長の言う通り動いただけ。


私の【ルブラン君が好き】というレベルも、サンジェルマン理事長の前では恥ずかしいぐらい。親としての愛の深さを思い知らされたな~。


自分はもっと成長したい! 哲学者として・・・ 人として・・・


だから、簡単に答が与えられるのは嫌だ! あまのじゃくだけど・・・ それが私の本心。困難を乗り越えてこそ、成長がある!


「哲学者として、もっと成長したいから・・・

 簡単には、先へ行かせないで・・・」


「えぇ・・・ わかった」


再びステキな笑顔を見せた彼女は・・・


綺麗な黒髪をなびかせ、その場を立ち去って行った。


「・・・ ・・・」


彼女の後ろ姿を見て・・・ 私はあの言葉を思い出す。


「あなたは・・・

 【ナマギーリ女神】のおかげで、未来を歩む事になる・・・」


何もかも見透かしたようなセリフだ。



・・・ ・・・。


昼2時前。


私達は、学園内の駐車場。サンジェルマン理事長の車の中から・・・


屋上で繰り広げられている哲学バトルを見ていた。


「お、終わった。ちょっと行ってくる!!」


そう言って車を降りる私。


「ぼ、僕も! やらなければいけない事が!」


部長も車を降りた。


「はわ?」


デカルトちゃんと理事長を車に残し・・・


私は学園の外、校門辺りへ。部長は学園の中に入っていった。


「・・・ ・・・」


生徒のごった返す学園の中に入っていって・・・ 大丈夫かしら?

危険を冒してまで行くんだから・・・ よっぽど大事な何かがあるんだろう。


まぁ、部長だから・・・ 大丈夫か。


10分後。


学園を出てきたラマヌジャンちゃんを捕まえる。


「・・・ ・・・」


彼女は私を見つめると


「ホントに・・・ 別のあなたなのね」


表情を変えずに、そう言った。


「ありがと・・・」


私は頭を下げ、心から感謝の気持ちを伝える。


「あれで・・・ よかった?」


優しい笑顔のラマヌジャンちゃん。


「うん。完璧! ホントに・・・ ありがとう」


私はラマヌジャンちゃんの手を握り・・・


「ホントに、ごめんなんだけど・・・ もう1つお願いが」


「わかってる。私の力で、何かをいい方向へ変えられるなら・・・

 それもナマギーリ女神のお導き。


 最後まで付き合うわ。今度はなぁに?」


何て優しい子なんだろう!


「う、うん。病院に行った後でいいからさ・・・」


「ふふ。あれは嘘よ。またすぐ学校に戻るから」


「え? そ、そうなの!?」


じゃぁ、何で学校の外へ? まさか、私に会うため? そんな事・・・


先を読む力に優れているのか、リアルに未来が見えているのか・・・ 

彼女、本当に神の子なんじゃないかと思わされる。


「で? お次は?」


「う、うん・・・ 数学倶楽部にいる私達を・・・」


その後ラマヌジャンちゃんは、数学倶楽部で論理の話に加わる。順序は逆だけど、その時の彼女は【ナマギーリ女神の、おかげです】を私に見せてくれる。それが・・・ ラマヌジャンを倒すためのカギなのだ。


そして翌日には・・・


あの【x】を求めるための大ヒントを与えてくれる。


「・・・ ・・・」


彼女もまた・・・ ソフィちゃんを救うのに、絶対必要な人物だ。


「・・・ ・・・」


学園に戻る彼女を見る私。


「まさか・・・」


彼女の美しくなびく黒髪を見て、ある思いがよぎった。


「ひょっとして・・・」


ナマギーリ女神ってのは・・・



            (最終話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


ソフィちゃんを救うため、必要な事は全てやった。


そして私達は・・・ 未来へ向かう!!



次回 「 最終話  大団円!? 」

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