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ピタゴラスちゃんのジレンマ  作者: 伊吹 由
第2章 時をかける少女達
31/41

第30話  冷たい両手

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前回までのあらすじ


私、ピタゴラス。この物語の主人公。


3月14日、早朝。憧れのルブラン君の靴箱の中に、誰かが書いたラブレターを発見。私がそれを盗んだせいで、ルブラン君は交通事故に遭って死んでしまう。


理事長室に呼ばれた私は、衝撃の事実を2つ知る。1つ、ルブラン君がサンジェルマン理事長の子供だった事。1つ、目の前にタイムマシンがあるって事!


数学倶楽部に所属する私、部長、デカルトちゃんの3名は・・・ ルブラン君が死んだ日にタイムスリップ。


3人で連携を組んで、過去のルブラン君を救うため・・・


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   第30話  冷たい両手


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ピーポー ピーポー ピーポー ・・・


救急車の音が鳴り響く。


「音だけでなくさ・・・ 光にもドップラー効果があるんだよ」


部長が笑顔で私に言ってきた。


「はわわ~ Pちゃん、無事でよかったです~」


「う、うん。何とか・・・ ね・・・」



あの時・・・ 


とっさにルブラン君に抱きついた私は、彼にしがみつき目を閉じていた。急に道路に飛び出た私とルブラン君、そして強盗の3人。慌てたタクシーの運転手は、急ハンドルをきり・・・ 強盗の右足だけをちょこっとひいたのだ。


「いでーーーーー!!!」


悲鳴をあげた強盗。もちろんその場で動けるはずもない。部長がすぐさま110番+救急車を呼び出した。とりあえず強盗は救急車に押し込まれ、警察はコンビニの店員に話を聞いているところだ。


「ルブラン君も~ 無事でよかったです~」


「あ・・・ うん・・・ あ、ありがとう・・・」


ルブラン君はガードレールに座って、まだ頭の整理がつかないといった感じ。それもそのはず。突然デカルトちゃんが現れ、一緒にコンビニに入ろうとしたら、強盗が包丁をもって出てきて、突き飛ばされた。


さらに道路に出て、タクシーにひかれそうになったんだから・・・ パニックになるのも当たり前よね。


「な、何か混乱しちゃって・・・ その・・・ 君達は?」


声変わり、まだなのかな? 女の子のような小さく細い声を出すルブラン君は、部長と私を交互に見た。


「あ、僕、ラッセルっていうんだ。【現代組】のね。

 あなたは、ルブラン君・・・ よね?」


「う、うん・・・」


「デカ子が、君にクラスメイトとして伝言あるからって・・・

 僕たちは付き添い。初めまして!」


部長のハキハキとした声に対し


「は、初めまして・・・」


ルブラン君の声はか細い。


「そうそう。こっちは、ピタゴラスちゃん。ピタ子は・・・ 初対面?」


部長がうまい事、私の事も紹介してくれた。自然な流れでナイスアシスト!


「あ。う、うん。でも、ピタゴラスちゃんは・・・

 名前は知ってるんだ。ほ、ほら・・・ 【ピタゴラスの定理】で有名だから。


 は、初めまして・・・」


わ! 私の事、名前は知っててくれたんだ! 嬉しい!!


「は、初めまして・・・」


緊張気味に挨拶する私。だって、ルブラン君との初会話よ!


「う、うん。よろしく・・・」


何となく、照れてる感じのルブラン君。


「・・・ ・・・」


部長が私に合図を出している。何?


「ちょっと・・・ 何か、脈ありみたいじゃん。チャンスよ! ピタ子!

 こういう時、男の子の手を握ってやんの。


 危険に直面したドキドキは、恋愛のドキドキだと錯覚するんだから。

 ほら!!」


「う、うん・・・」


部長にうながされた私は、両手でルブラン君の左手を握った。


「だ、だだ・・・ 大丈夫? ルル、ルブランくん・・・」


さらなる緊張で声が裏返る。彼と初会話を終えたばかりなのに、もう手を握っているなんて。しかも、すでに初ハグまで終わっている(道路に飛び出した時にね)。私の心は、あなたに収束中!


って、あれ?


ルブラン君は右手で、自分の胸を抑えている。


「う、うん。ちょっと・・・ 胸が苦しいけど・・・」


お? 胸がドキドキしてる? いや・・・


「ルブラン君。顔色、悪い・・・」


息も切れてる。


「うん。僕、心臓が弱くて・・・ いつもの事だから・・・

 ちょっと休めば・・・」


「ル、ルブラン君?」


顔が青ざめていく。それに彼の左手、冷たい。


「ピタゴラスちゃん、優しいね・・・

 僕は・・・ 大丈夫だから・・・」


そう言うとルブラン君は、胸を抑えていた右手も私の両手に重ねてきた。


「あ・・・」


ルブラン君と両手を握り合ってる。それよりも両手の冷たさの方が気になる。


「はわわ~ ルブラン君、やっぱり気分悪そうです~」


「・・・ ・・・」


しばらく様子を見ていた部長。


「デカ子。あんた、ルブラン君連れて病院行って。

 ちょっとヤバそうだし・・・」


デカルトちゃんに指示を出す。


「はわ?」


「何かあってからじゃ遅いんで、念のためよ。

 僕はここで、警察の事情聴取を受ける。


 強盗がコンビニ入ってきた所から、車にひかれるまで・・・

 僕が1番よく見てたし。ピタ子は・・・」


今度は私に指示を出す。


「ちょっと、こっち・・・」


部長は私を、離れた所へ連れて行く。


「ピタ子は・・・ 過去ピタを病院に向かわせて。

 手を握る伏線ははったんだから・・・


 後は、過去ピタとルブラン君をくっつける。

 病院で恋が芽生えるなんて、ベタだけどさ」


ベタでも何でもいい! カップルになれるなら!


「う、うん・・・」


出来る事なら、今の私がルブラン君と・・・


「ピタ子、あんたは現代に帰るんだから。

 過去のルブラン君に手を出しちゃダメよ?」


「わ、わかってる・・・」


察したのか、部長が私に釘を刺す。


「少なくとも、【ルブラン君が車にひかれる】って過去は変えた。

 だったら次は・・・


 【ピタ子とルブラン君が恋人同士になる】よう、仕向けないとね」


「う、うん。そうね・・・」


こうして私は・・・


「じゃ、じゃぁ・・・ ルブラン君。お大事に・・・」


「あ、うん・・・」


後ろ髪ひかれながら、その場を後にした。



・・・ ・・・。


【ルブラン君が死んでしまう】という過去は変えた。それは私にとって、大きな心の変化をもたらしている。だって、過去を変える事が出来たのよ!


今の私なら、何だって出来る気がする。


「・・・ ・・・」


とはいえ・・・


あの電信柱の影にいるストーカーに対して、直接会うのはマズイわよね?


「う~む・・・」


何で私が、過去の私を病院に差し向ける仕事を?


部長は警察の事情聴取を受ける → 妥当

私がルブラン君を病院に連れて行く → 万が一、今の私と過去のルブラン君がくっついたら・・・


「・・・ ・・・」


むう。そうなりたい思いは強いけど、過去の人との遠距離恋愛はマズイかな? いや、異世界恋愛? 


どのみち私はこの世界にとどまれないし・・・ やっぱ、デカルトちゃんが病院へ付き添うのが正しいのか。


結論。過去の私を病院にさしむける仕事は、やっぱり私がやるべき。


「それにしても部長は・・・」


いつも的確な指示を出してくれる。部長がいなければ、ルブラン君を助けられなかったな・・・ 


本気でそう思う。


「・・・ さて・・・」


手にしていた大きなコートを、羽織り直した私。飛ばされたブカブカの帽子もかぶる。そして、過去の私から死角となる電信柱に身を隠した。


「・・・ ・・・」


過去の私は、熱心にルブラン君の家を見つめている。もはやストーカーを通り越して、何か1つの真理を究めようとしている崇高な人間に見えてきた。


「さすがピタゴラス教団の教祖様」


突然過去の私が振り返った。ヤバ! つい声を出してしまった。まぁ、過去の私に見えないよう、ポジション取りは完璧だけどね。


「・・・ ・・・」


【過去の私に直接会うことなく、病院へ向かわせる】


難しいミッションだけど、公園の時だって私はそれを成功させている。作戦は同じ。私はリュックから便せんと封筒を取り出した。


【ピタゴラスに告ぐ】


封筒の表にそう書いて


【from θ】


裏にはそう書く。そして便せんには・・・


【今すぐ、市立病院へ行きなさい! ルブラン君、死んじゃうわよ!】


と、書いた。車にはひかれてないし、死ぬ事はないけどね。過去の私が焦って病院へ行くさまを、ここで見ておこうっと。


「ふふふ」


ルブラン君を事故から救ったおかげで、思わず笑みがこぼれる。しかし遠くから焦る私を見つめるなんて、悪趣味かしら?


私ってS? あれ? でも、自分自身をイジメてるから、この場合M?


どうでもいい事を自問自答していると・・・


「きた・・・」


家のあるじ、そしてルブラン君の父親であるサンジェルマン理事長が、向こう側から歩いて来る。


「・・・ ・・・」


おそらくこの世界で、最後の仕事。私は理事長の元へ走っていき・・・


「サンジェルマン理事長!!」


帽子を深くかぶったまま、声をかける。


「これを、あの電柱の影にいる・・・」


過去の私がいる電柱を指さした。そして


「ピタゴラスちゃんへ渡して下さい!」


あの手紙を差し出す。


「君は?」


眉をひそめた理事長だが、手紙を受け取ってくれた。


「わ、私・・・ 急いでいるので、失礼します!!」


「ちょっと・・・ 君!!」


理事長と一度も目を合わさず手紙を渡した後、速攻でその場を走り去ろうとする。


「・・・ ・・・」


待てよ・・・


ピタリと足を止めた私。振り返って、今一度理事長に声をかける。


「手紙を渡した後、ルブラン君と連絡をとって下さい!

 さっき、気分悪くなって市立病院へ行ったので!!」


「君は・・・ ルブランを知っているのか!?」


「じゃ、私はこれで・・・」


今度こそ私はその場を走り去った。



・・・ ・・・。


「・・・ ・・・」


過去の私が、慌ててタクシーに乗る。それを遠目で、今の私が見ている。


彼女は市立病院と間違えて、都立病院へ言っちゃうのよね~。すでに過去は変えたんだけど、彼女にとっては全く同じ状況のハズだから。


「やっぱり・・・」


そのタクシーは、市立病院とは反対方向へ走り出した。


「ふふ。ドジな私・・・」


小さく笑いながら、私は駅へ向かう。



・・・ ・・・。


「部長!」


事情聴取を終えた部長と駅前で合流した。


「あ、ピタ子。さっきデカ子から電話あった。

 ルブラン君、点滴うってるけど別に何ともないって」


「よ、よかった・・・」


それを聞いて、笑顔になる私。


「・・・ ・・・」


「ん?」


部長が私の顔を覗き込んでいる。


「何?」


「いや・・・ ピタ子の笑顔。久しぶりに見たな~って」


「そ・・・」


そりゃそうよ。ついさっきまで、ルブラン君、マジ死ぬかもって・・・ 本気で思ってたんだから。


「で? これからどうするの? 

 タイムマシンに戻って、現在へ帰る?」


「・・・ ・・・」


しばらく迷った表情を浮かべる部長。


「念のため・・・ 病院へ。

 ルブラン君、もう1度確認してから帰ろうかな」


「え?」


そなの? てっきりもう、現在へ帰ると思ってた。私の彼氏がいるであろう現在にね。ふふふ。


「うん。ちょっとさ・・・ 僕的に気になる事あって。

 それだけ確認したら、戻るから」


まぁ、リミットまで時間はあるし。


「わ、わかった・・・」


部長は携帯を取りだし、デカルトちゃんにかける。


「あ、デカ子? 今からそっち行くからさ。そこで待ってて。

 うん、そう・・・ じゃぁ、後で・・・」


う~む・・・ 過去の私も病院に向かうのよね・・・


「部長やデカルトちゃんは大丈夫だろうけど・・・

 過去の私も病院に向かうのよ。私が行って、大丈夫?」


「過去ピタが病院に到着するのって・・・

 確か午後9時ぐらいだったわよね?」


「うん」


「まだ8時前だし、30分で病院には着く。

 過去ピタが来る9時前に撤収すれば、問題ないわよ。


 すでに1度、ルブラン君とは顔合わせてるんだし。

 もっかい、見舞ってやんなよ」


「うん!」


やった! また、ルブラン君に会える!


「もう1回、手を握ってもいい?」


と部長に聞いたら


「As You Like It!」(お気に召すまま!) 


英語で返された。


「 ? 」


私、英語苦手だってば・・・ まぁ、ルブラン君に会える事は確かよね。私達はタクシーに乗り込み


「市立病院まで!」


過去の私が都立病院へ向かってる隙に、ルブラン君へ会いに行く。


「ルブラン君に会えるの、楽しみ~♪」


この時の私達は・・・


まさかこの後、あんな事が起こるなんて想像すらしてなかった。



そう・・・


病院で、ルブラン君が・・・




            (第31話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


ルブラン君を見舞いに行った私達。


顔色の悪い、ルブラン君を元気づけようとするが・・・?


次回 「 第31話  静寂の時 」

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