第20話 時空を超えて
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前回までのあらすじ
私、ピタゴラス。この物語の主人公。
3月14日、早朝。憧れのルブラン君の靴箱の中に、誰かが書いたラブレターを発見。
それを盗み見た私は、これを書いた人物(犯人)は数学倶楽部の部員と確信した。同じ数学倶楽部のデカルトちゃんとラッセルちゃんと共に、犯人を探し出そうとする。
でも私がラブレターを盗んだせいで・・・
ルブラン君は交通事故に遭って死んでしまった。
気になっていたあのラブレター。何とびっくり! 書いたのは私である事を部長が証明した。身に覚えないのに、なんで!?
そして私達は・・・ 理事長室で、ある球体の前に立つ。
何とそれは・・・
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第20話 時空を超えて
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私とデカルトちゃんは・・・
その球体がタイムマシンという事を、受け入れる事がなかなか出来ない。
ただ、タイムマシンの存在を認めてしまえば・・・
これまでの不可解な事は、説明がつくような気がする。
「つまりこのタイムマシンで、過去に戻り・・・
交通事故に遭うはずのルブラン君を・・・ 助けろと?」
まだ半信半疑の私。いつからか理事長に対し、敬語を忘れている。
「その通りだ」
理事長は言いきった。
「はわわ~ デカちゃん、思うんですけど~」
タイムマシンを受け入れられないもう1人・・・ デカルトちゃんが声をかけてくる。
「ルブラン君のお父さんが~ 理事長なら~
理事長自身が~ 我が子を助けに行くべきでは~
ないでしょうか~?」
冷静に考えれば、もっともな意見。だが彼は首を横に振る。
「出来る事ならそうしたい。だが私は・・・
2日前、君達を見た。ルブランが車にひかれる日の朝・・・
君達3人が、学校の屋上で楽しそうに話しているのを・・」
そういえば理事長・・・ 一昨日部室の前で会った時、そんな事言ってた。
「しかしその日の午後、君達に会った時・・・
朝に3人でいた事実はないという」
実際、その日の朝は、みんなバラバラに登校している。
「確かに・・・」
「デカちゃんは~ お昼過ぎに登校しました~」
「朝、いるはずのない君達を見て・・・ 放課後にはそれが届いた」
理事長の視線の先には、あの球体がある。
「そして、その日の夕方・・・
私は変装したピタゴラス君から、手紙を預かった」
えっと・・・
「【from θ】の手紙だ。間違いなく、君だったよ。
下手な変装だったからな・・・」
【from θ】の手紙を・・・ 私が理事長に?
「あの時、私はこう思った。きっと君達3人は・・・
我が子を救うため、未来から来たのだと・・・」
「なるほど・・・」
部長だけが頷いている。私とデカルトちゃんは、今なお理事長の話を飲み込めない。飲み込めないけど・・・
「えっと・・・ 2日前、未来から来たであろう、私達を見たから・・・
今からコレに乗って、過去へ戻れと・・・
おっしゃってるんですね?」
この乗り物がタイムマシンという前提で、私は聞いてみた。
「・・・ ・・・」
理事長は無言で頷く。
「で、でも・・・」
「あのさ~」
私の言葉を、部長が遮る。
「ピタ子、言ってたじゃん」
「え?」
「ほら、ラブレターの件で・・・」
【私が盗まなければ・・・
ルブラン君は公園に行っていた。交通事故にも遭わなかった!】
「ってさ」
た、確かにそうは言ったけど・・・
「チャンスじゃない? 自分の過ちを正す。
そして愛しのルブラン君を、この世に戻す・・・ ね?」
「う、う~ん・・・ それは、そうなんだけど・・・」
私の視線は【タイムマシン】とやらを捉える。
「まずは乗ってみようよ。
デカ子もピタ子も、タイムマシンに懐疑的なんでしょ?」
「う・・・」
タイムマシンと信じている理事長の前で、【うん】とは言いづらい。
「もちろんです~ デカちゃんは~
コレが、タイムマシンである事を~
疑っているです~」
こんな時、天然キャラってうらやましいと思う。空気を気にせず、思ってる事を口にしても許されるのだから。
「まぁ、表情見てりゃわかるって。
だからまず、コレに乗ってみてさ・・・
過去へ行けなければ、僕らにできる事は無い。
その時点で、この話は終わりって事でいいじゃん」
「・・・ ・・・」
部長の言う事、一理ある。
「デカちゃん、難しい事嫌いです~ その意見に、賛成です~
まずは、この乗り物に~ 乗ってみるです~」
「そ、そうね。過去に行くなんて、考えられないけど・・・
まずは乗ってみて・・・
ダメならそこまで・・・ よね?」
「じゃ、ピタ子からどうぞ」
え? わ、私?
「ルブラン君のラブレター・・・ 盗んだの、ピタ子でしょ?」
「う・・・」
で、でもさ・・・ あのラブレター、私が書いたんでしょ? って事は、自分で自分のラブレターを盗ったって事になるのよね?
それがルブラン君の死に繋がったって・・・ 何か変じゃない?
「えっと・・・」
考えれば考えるほど、わからなくなる。
「わ、わかったわよ・・・」
ゴチャゴチャ考えたくない! もし過去に行くことが出来れば、全ての謎が明らかになるのかもしれないって事で・・・
「行けばいいんでしょ!」
まずは行動してみよう。思考はその後。
「ほら、リュックも忘れずに」
部長がリュックを手渡した。
「・・・ ・・・」
それを背負った私は、理事長と視線を合わせる。
「これを持って行くといい」
理事長が1本の鍵を渡してくれた。
「本校のマスターキーだ。校内なら、どの部屋も開ける事が出来る」
「・・・ ・・・」
鍵を受け取った私は、球体の横に開いた円から中に入る。
「っと・・・」
直立だと頭がぶつかっちゃうけど・・・ ちょっとかがむ程度で、立ったまま中に入る事が出来た。
「わ・・・」
外からは銀色の表面だったけど、中から見ると・・・
「外が見える・・・」
何て言うか、全面ガラス張りみたいな感じ。
「お!? マジックミラー号みたい! いいね~
興奮するね~ らっせる らっせる~!」
セクハラオヤジが2番目に乗り込む。
「はわわ~ 中からは、外が丸見えです~ 不思議です~」
そして3人目はデカルトちゃん。直径1.5mぐらいの球の内部・・・ 狭いけど、3人ぐらいなら入れる。無理すれば、あと2人ぐらいは入れそうだ。
「どれどれ・・・」
球体の中にある物といえば・・・ 中央にある小さなディスプレイと、その下にあるキー群。
【□★▲■●】【□3】【16】【15:31:11】
ディスプレイの1番上には、今年の西暦と月日、そして現在の時間が表示されている。秒単位まで正確に時を刻んでいた。
キーの横や球体上部には、いくつかパネルのようなボタンのような物がある。
【7】【8】【9】
【4】【5】【6】
【1】【2】【3】
【0】【←】【→】
【+】【-】【×】
【/】【※】【Enter】
キーは、球の外にあったのと同じヤツだ。興味津々の部長が、まっさきにパネルに触れる。
「なるほどね。シンプルでいいわ・・・」
【□□□□□】【□□】【□□】【□□:□□:□□】
小さなディスプレイの中央には、こんな表示がある。
「・・・ ・・・」
それらを見つめる部長。
「こういうのはね、説明書なんかなくても操作出来るってのが基本なのよ・・・」
「根拠は?」
「ない。けど、難しい機械ほど、それがあるべき姿。
数学だってさ・・・
難しい記号に見えて、実は一番シンプルな記号を使ってるもんね。
デカ子、入り口閉めて」
「は、はい~・・・」
デカルトちゃんは、開いた入り口を閉めようとするが・・・
「スイッチがないです~」
「・・・ ・・・」
私は天井にある小さなボタンを見つけたので
「こ、これかな?」
押してみた。すると音も立てずに、入り口の円が閉じた。
「はわわ~ Pちゃん、正解です~」
なるほど。直感に従えば・・・ それが正しいのか。
「あ、理事長・・・」
中からは外が見える。理事長が慌てた様子だ。あっちからは中の様子が見えないから・・・ きっと入り口が閉まって、心配しているんだろう。
「さて。今日は3月16日だから、2日前だと・・・」
パネルを操作した部長は
【□★▲■●】【□3】【14】【□□:□□:□□】
今年の西暦と、月日を入力する。
「時間、どうする?」
部長は自信満々だが・・・ そんな入力でいいのだろうか? まぁ、2日前に行けるなんて、未だに半信半疑だけど。
仮に行けたとして
「・・・ ・・・」
ルブラン君を助けるには・・・
「何をすれば正解なんだろう?」
「僕もわからない。その場の状況で判断するしかないね、今のトコは。
ピタ子。2日前、何時に登校した?」
「えっと・・・ 朝の6時45分ぐらい」
「はわわ~ デカちゃん、爆睡中の時間です~ そんな時間に登校なんて~」
【□★▲■●】【□3】【14】【□6:30:00】
そう入力した部長は
「多分コレで・・・」
【Enter】キーを押した。
「ちょ・・・ 心の準備が・・・」
【Are you OK? (Yes / Cancel) 】
ディスプレイにそう表示され、【Cancel】の方が暗転している。PCなんかでよく見る画面だ。
「そ、そうよね・・・ 確認画面出るのが普通よね。
ねぇ、部長。少し深呼吸してから・・・」
私のセリフの途中で部長は・・・
【←】【Enter】と、押した。
「ちょ・・・」
「迷いは禁物!! 過去へGo!!!」
「・・・ ・・・」
「・・・ ・・・」
何も感じない。
「あれ? 慣性の法則的なもの、全くないわね?」
部長がポツリという横で・・・
「はわわ~ 失敗です~」
「何にも動いてない・・・ 」
この乗り物の中からは、外が丸見えだけど・・・ 外の様子も全く変わり映えしない。
いや・・・ 理事長が見えない。多分、ディスプレイに夢中になってる間、こちら側からは見えないデスクの方に向かったんだろう。
「失敗ね」
そう言った私は、天井のボタンを押した。音も立てずに入り口が開く。
「う~ん。おかしいな~。
グラヴィトンだけは、ブレーンを飛び越えるから・・・
絶対【G】が、かかるはずなんだけど・・・」
ソーカルちゃんみたいな事を言う部長を置き去りにして・・・ 私とデカルトちゃんは、球体の外に出た。
【やっぱりダメでした、理事長】 そう言おうと思ったのに・・・
「あれ? 理事長は?」
デスクの方にもいない。
「はわわ? どっか行っちゃいましたです~」
理事長室の出入り口に目をやると、ドアが閉まっている。いや・・・
「鍵、かかってる?」
それに、微妙に薄暗い。あれ?
「はわ? 何か変です~」
チュンチュン・・・
「そう言えば・・・ 電気が点いてない・・・」
窓から差し込む強い日差しのおかげで、全然気づかなかったけど・・・ いつの間にか室内の電気が消えていた。
「スズメの声が~ 聞こえるです~」
何かがおかしい。私は窓際へ歩み寄ると、カーテンを開け・・・ 外を見る。
「太陽が・・・」
低い位置にある。まるで今は・・・
「朝?」
「な~んだ。ちゃんと2日前の朝に来てるじゃん~
ラッセル ラッセル~♪」
いつの間にか後ろに立っていた部長が、嬉しそうに笑っていた。
「嘘・・・」
今が2日前の朝?
「嘘よ・・・」
でも、どう見ても外は朝。
「ど、どうやって・・・ 2日前の朝だと証明するの?」
思わず数学者のセリフを言った私。
「そんなの簡単よ。ピタ子、携帯持ってるでしょ?」
「う、うん・・・」
背負っていたリュックから、携帯を取りだした。
「表示、見てみなよ」
「・・・ ・・・」
【3月14日(Wed) 06:31】
「な・・・」
思わず声をあげた。
「はわわ~! デカちゃんの携帯も~ 一昨日の表示になってます~
午前6時31分です~」
「な・・・」
何てこと・・・?
「じゃ、じゃぁ・・・ 私達は今・・・
過去の世界にいるって事!?」
「はわわ~」
「ラッセル ラッセル~♪」
(第21話へ続く)
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次回予告
ルブラン君が死んだ日にタイムスリップした私達。
部長は相対性理論の創始者、アインシュタインちゃんと仲が良く・・・
タイムトラベルに関しても、色々議論しているという。
私達はそんな部長のアドバイスを聞いて、行動する事にした。
次回 「 第21話 バタフライエフェクト 」
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