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ピタゴラスちゃんのジレンマ  作者: 伊吹 由
第1章 犯人を追え!
21/41

第20話  時空を超えて

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前回までのあらすじ


私、ピタゴラス。この物語の主人公。


3月14日、早朝。憧れのルブラン君の靴箱の中に、誰かが書いたラブレターを発見。


それを盗み見た私は、これを書いた人物(犯人)は数学倶楽部の部員と確信した。同じ数学倶楽部のデカルトちゃんとラッセルちゃんと共に、犯人を探し出そうとする。


でも私がラブレターを盗んだせいで・・・


ルブラン君は交通事故に遭って死んでしまった。


気になっていたあのラブレター。何とびっくり! 書いたのは私である事を部長が証明した。身に覚えないのに、なんで!?


そして私達は・・・ 理事長室で、ある球体の前に立つ。


何とそれは・・・ 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   第20話  時空を超えて


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

私とデカルトちゃんは・・・


その球体がタイムマシンという事を、受け入れる事がなかなか出来ない。


ただ、タイムマシンの存在を認めてしまえば・・・


これまでの不可解な事は、説明がつくような気がする。


「つまりこのタイムマシンで、過去に戻り・・・

 交通事故に遭うはずのルブラン君を・・・ 助けろと?」


まだ半信半疑の私。いつからか理事長に対し、敬語を忘れている。


「その通りだ」


理事長は言いきった。


「はわわ~ デカちゃん、思うんですけど~」


タイムマシンを受け入れられないもう1人・・・ デカルトちゃんが声をかけてくる。


「ルブラン君のお父さんが~ 理事長なら~

 理事長自身が~ 我が子を助けに行くべきでは~


 ないでしょうか~?」


冷静に考えれば、もっともな意見。だが彼は首を横に振る。


「出来る事ならそうしたい。だが私は・・・

 2日前、君達を見た。ルブランが車にひかれる日の朝・・・


 君達3人が、学校の屋上で楽しそうに話しているのを・・」


そういえば理事長・・・ 一昨日おととい部室の前で会った時、そんな事言ってた。


「しかしその日の午後、君達に会った時・・・

 朝に3人でいた事実はないという」


実際、その日の朝は、みんなバラバラに登校している。


「確かに・・・」


「デカちゃんは~ お昼過ぎに登校しました~」


「朝、いるはずのない君達を見て・・・ 放課後にはそれが届いた」


理事長の視線の先には、あの球体がある。


「そして、その日の夕方・・・

 私は変装したピタゴラス君から、手紙を預かった」


えっと・・・


「【from θ】の手紙だ。間違いなく、君だったよ。

 下手な変装だったからな・・・」


【from θ】の手紙を・・・ 私が理事長に?


「あの時、私はこう思った。きっと君達3人は・・・

 我が子を救うため、未来から来たのだと・・・」


「なるほど・・・」


部長だけが頷いている。私とデカルトちゃんは、今なお理事長の話を飲み込めない。飲み込めないけど・・・


「えっと・・・ 2日前、未来から来たであろう、私達を見たから・・・

 今からコレに乗って、過去へ戻れと・・・


 おっしゃってるんですね?」


この乗り物がタイムマシンという前提で、私は聞いてみた。


「・・・ ・・・」


理事長は無言で頷く。


「で、でも・・・」


「あのさ~」


私の言葉を、部長がさえぎる。


「ピタ子、言ってたじゃん」


「え?」


「ほら、ラブレターの件で・・・」


【私が盗まなければ・・・

 ルブラン君は公園に行っていた。交通事故にも遭わなかった!】


「ってさ」


た、確かにそうは言ったけど・・・


「チャンスじゃない? 自分の過ちを正す。

 そして愛しのルブラン君を、この世に戻す・・・ ね?」


「う、う~ん・・・ それは、そうなんだけど・・・」


私の視線は【タイムマシン】とやらを捉える。


「まずは乗ってみようよ。

 デカ子もピタ子も、タイムマシンに懐疑的なんでしょ?」


「う・・・」


タイムマシンと信じている理事長の前で、【うん】とは言いづらい。


「もちろんです~ デカちゃんは~

 コレが、タイムマシンである事を~


 疑っているです~」


こんな時、天然キャラってうらやましいと思う。空気を気にせず、思ってる事を口にしても許されるのだから。


「まぁ、表情見てりゃわかるって。

 だからまず、コレに乗ってみてさ・・・ 


 過去へ行けなければ、僕らにできる事は無い。

 その時点で、この話は終わりって事でいいじゃん」


「・・・ ・・・」


部長の言う事、一理ある。


「デカちゃん、難しい事嫌いです~ その意見に、賛成です~

 まずは、この乗り物に~ 乗ってみるです~」


「そ、そうね。過去に行くなんて、考えられないけど・・・

 まずは乗ってみて・・・


 ダメならそこまで・・・ よね?」


「じゃ、ピタ子からどうぞ」


え? わ、私?


「ルブラン君のラブレター・・・ 盗んだの、ピタ子でしょ?」


「う・・・」


で、でもさ・・・ あのラブレター、私が書いたんでしょ? って事は、自分で自分のラブレターを盗ったって事になるのよね?


それがルブラン君の死に繋がったって・・・ 何か変じゃない?


「えっと・・・」


考えれば考えるほど、わからなくなる。


「わ、わかったわよ・・・」


ゴチャゴチャ考えたくない! もし過去に行くことが出来れば、全ての謎が明らかになるのかもしれないって事で・・・


「行けばいいんでしょ!」


まずは行動してみよう。思考はその後。


「ほら、リュックも忘れずに」


部長がリュックを手渡した。


「・・・ ・・・」


それを背負った私は、理事長と視線を合わせる。


「これを持って行くといい」


理事長が1本の鍵を渡してくれた。


「本校のマスターキーだ。校内なら、どの部屋も開ける事が出来る」


「・・・ ・・・」


鍵を受け取った私は、球体の横に開いた円から中に入る。


「っと・・・」


直立だと頭がぶつかっちゃうけど・・・ ちょっとかがむ程度で、立ったまま中に入る事が出来た。


「わ・・・」


外からは銀色の表面だったけど、中から見ると・・・


「外が見える・・・」


何て言うか、全面ガラス張りみたいな感じ。


「お!? マジックミラー号みたい! いいね~

 興奮するね~ らっせる らっせる~!」


セクハラオヤジが2番目に乗り込む。


「はわわ~ 中からは、外が丸見えです~ 不思議です~」


そして3人目はデカルトちゃん。直径1.5mぐらいの球の内部・・・ 狭いけど、3人ぐらいなら入れる。無理すれば、あと2人ぐらいは入れそうだ。


「どれどれ・・・」


球体の中にある物といえば・・・ 中央にある小さなディスプレイと、その下にあるキー群。


【□★▲■●】【□3】【16】【15:31:11】


ディスプレイの1番上には、今年の西暦と月日、そして現在の時間が表示されている。秒単位まで正確に時を刻んでいた。


キーの横や球体上部には、いくつかパネルのようなボタンのような物がある。


【7】【8】【9】

【4】【5】【6】

【1】【2】【3】

【0】【←】【→】

【+】【-】【×】

【/】【※】【Enter】


キーは、球の外にあったのと同じヤツだ。興味津々の部長が、まっさきにパネルに触れる。


「なるほどね。シンプルでいいわ・・・」


【□□□□□】【□□】【□□】【□□:□□:□□】


小さなディスプレイの中央には、こんな表示がある。


「・・・ ・・・」


それらを見つめる部長。


「こういうのはね、説明書なんかなくても操作出来るってのが基本なのよ・・・」


「根拠は?」


「ない。けど、難しい機械ほど、それがあるべき姿。

 数学だってさ・・・


 難しい記号に見えて、実は一番シンプルな記号を使ってるもんね。

 デカ子、入り口閉めて」


「は、はい~・・・」


デカルトちゃんは、開いた入り口を閉めようとするが・・・


「スイッチがないです~」


「・・・ ・・・」


私は天井にある小さなボタンを見つけたので


「こ、これかな?」


押してみた。すると音も立てずに、入り口の円が閉じた。


「はわわ~ Pちゃん、正解です~」


なるほど。直感に従えば・・・ それが正しいのか。


「あ、理事長・・・」


中からは外が見える。理事長が慌てた様子だ。あっちからは中の様子が見えないから・・・ きっと入り口が閉まって、心配しているんだろう。


「さて。今日は3月16日だから、2日前だと・・・」


パネルを操作した部長は


【□★▲■●】【□3】【14】【□□:□□:□□】


今年の西暦と、月日を入力する。


「時間、どうする?」


部長は自信満々だが・・・ そんな入力でいいのだろうか? まぁ、2日前に行けるなんて、未だに半信半疑だけど。


仮に行けたとして


「・・・ ・・・」


ルブラン君を助けるには・・・


「何をすれば正解なんだろう?」


「僕もわからない。その場の状況で判断するしかないね、今のトコは。

 ピタ子。2日前、何時に登校した?」


「えっと・・・ 朝の6時45分ぐらい」


「はわわ~ デカちゃん、爆睡中の時間です~ そんな時間に登校なんて~」


【□★▲■●】【□3】【14】【□6:30:00】


そう入力した部長は


「多分コレで・・・」


【Enter】キーを押した。


「ちょ・・・ 心の準備が・・・」


【Are you OK? (Yes / Cancel) 】


ディスプレイにそう表示され、【Cancel】の方が暗転している。PCなんかでよく見る画面だ。


「そ、そうよね・・・ 確認画面出るのが普通よね。

 ねぇ、部長。少し深呼吸してから・・・」


私のセリフの途中で部長は・・・


【←】【Enter】と、押した。


「ちょ・・・」


「迷いは禁物!! 過去へGo!!!」


「・・・ ・・・」


「・・・ ・・・」


何も感じない。


「あれ? 慣性の法則的なもの、全くないわね?」


部長がポツリという横で・・・


「はわわ~ 失敗です~」


「何にも動いてない・・・ 」


この乗り物の中からは、外が丸見えだけど・・・ 外の様子も全く変わり映えしない。


いや・・・ 理事長が見えない。多分、ディスプレイに夢中になってる間、こちら側からは見えないデスクの方に向かったんだろう。


「失敗ね」


そう言った私は、天井のボタンを押した。音も立てずに入り口が開く。


「う~ん。おかしいな~。

 グラヴィトンだけは、ブレーンを飛び越えるから・・・


 絶対【G】が、かかるはずなんだけど・・・」


ソーカルちゃんみたいな事を言う部長を置き去りにして・・・ 私とデカルトちゃんは、球体の外に出た。


【やっぱりダメでした、理事長】 そう言おうと思ったのに・・・


「あれ? 理事長は?」


デスクの方にもいない。


「はわわ? どっか行っちゃいましたです~」


理事長室の出入り口に目をやると、ドアが閉まっている。いや・・・


「鍵、かかってる?」


それに、微妙に薄暗い。あれ?


「はわ? 何か変です~」


チュンチュン・・・


「そう言えば・・・ 電気がいてない・・・」


窓から差し込む強い日差しのおかげで、全然気づかなかったけど・・・ いつの間にか室内の電気が消えていた。


「スズメの声が~ 聞こえるです~」


何かがおかしい。私は窓際へ歩み寄ると、カーテンを開け・・・ 外を見る。


「太陽が・・・」


低い位置にある。まるで今は・・・


「朝?」


「な~んだ。ちゃんと2日前の朝に来てるじゃん~ 

 ラッセル ラッセル~♪」


いつの間にか後ろに立っていた部長が、嬉しそうに笑っていた。


「嘘・・・」


今が2日前の朝? 


「嘘よ・・・」


でも、どう見ても外は朝。


「ど、どうやって・・・ 2日前の朝だと証明するの?」


思わず数学者のセリフを言った私。


「そんなの簡単よ。ピタ子、携帯持ってるでしょ?」


「う、うん・・・」


背負っていたリュックから、携帯を取りだした。


「表示、見てみなよ」


「・・・ ・・・」


【3月14日(Wed) 06:31】


「な・・・」


思わず声をあげた。


「はわわ~! デカちゃんの携帯も~ 一昨日の表示になってます~

 午前6時31分です~」


「な・・・」


何てこと・・・?


「じゃ、じゃぁ・・・ 私達は今・・・

 過去の世界にいるって事!?」


「はわわ~」


「ラッセル ラッセル~♪」



            (第21話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


ルブラン君が死んだ日にタイムスリップした私達。


部長は相対性理論の創始者、アインシュタインちゃんと仲が良く・・・

タイムトラベルに関しても、色々議論しているという。


私達はそんな部長のアドバイスを聞いて、行動する事にした。


次回 「 第21話  バタフライエフェクト 」

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