第10話 理事長と手紙と私
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前回までのあらすじ
私、ピタゴラス。この物語の主人公。
3月14日、早朝。憧れのルブラン君の靴箱の中に、誰かが書いたラブレターを発見。
それを盗み見た私は、これを書いた人物(犯人)は数学倶楽部の部員と確信した。同じ数学倶楽部のデカルトちゃんとラッセルちゃんと共に、犯人を探し出そうとする。
デカルトちゃんの提案で、ポール公園に向かった私達。怪しい人物を追いかけたけど、逃げられてしまう。そしてその人物は、これ以上ルブラン君に関わらないでというメッセージを残していた。
私はメッセージを無視。ルブラン君の家に向かった。
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第10話 理事長と手紙と私
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ストーカーでも何でも、好きによぶがいい。私は惚れた相手に一直線。生年月日や血液型、住所だって調べ上げる。
「さすがピタゴラス教団の教祖様」
誰!?
「・・・ ・・・」
気のせいか。
住所はすでに調べていた私。でも、実際彼の家の前まで来たのは今日が初めて。
それにしても・・・
「すごいお屋敷・・・」
お金持ちの子と聞いてはいたけど・・・ 私の目の前には、3階建ての大きな洋館が建っている。数学的に言うと、50m×50m×15mの直方体がスッポリ入るといった感じかしら。
屋敷に入るためには、大きな正門を通らなければいけない。門には誰も立っていないけど、何かしらのセキュリティはあると思う。
目的はあのラブレターの主を見つける事だけど・・・
「ルブラン君・・・ 姿、見せないかな?」
いつしか私の視線は、犯人ではなく愛しの人を探していた。
・・・ ・・・。
7時ちょうど。ここに来て30分以上経つけど、特に変わった事はない。
と、思っていたら・・
「ピタゴラス君!」
電柱の影に隠れていた私に、透き通るようなテノール声がかけられた。
「ロ・・・ サンジェルマン理事長!?」
思わずロリコンと言おうとしたのは秘密。
「こんなところで・・・ 君は何を?」
視線は鋭いが、声は優しい。でも、通行人にも見えないように隠れていたのに・・・ なんで、私がここにいると?
「あ、えーっと・・・ その・・・」
理事長はチラリとお屋敷の方に視線を合わせた。そして再び私を見る。
「ルブランに、会いに来たのか?」
「え!? あ、いえ・・・」
いきなりど真ん中にストライクを投げ込まれた私は、しどろもどろに答える。
「・・・ ・・・」
理事長は無言で、スーツの胸ポケットに手を突っ込んだ。そして・・・
「ついさっき、ある女の子に会ってね。
これをピタゴラス君に渡してくれと・・・」
「え?」
私に手紙を差し出す。
【ピタゴラスに告ぐ】
「!?」
ゴクリと唾を飲み込んだ。
「ま、まさか・・・」
「・・・ ・・・」
理事長が私の表情を伺っているけど、気づかない。震える手で、私はその手紙を受け取った。
「だ、誰が!?」
封を切る前、思わず理事長に大声で聞いてしまう。
「大きな帽子を目深にかぶって、黒いコートを着けていた。
だが・・・
顔を隠すようにしていたから、誰なのかはわからない。
君の知り合いでは?」
公園で見たあの子だ!
「私が近くを通りかかったら、突然現れてね。
【これを、あの電柱の影にいるピタゴラスちゃんへ渡して下さい】
そう言って手紙を渡すと、すぐに走り去ったよ」
「・・・ ・・・」
起こりえない事が起きている。
部長とデカルトちゃんと別れた後・・・ 私は2人に黙って、ここに来た。ここに来る事は、誰にも行ってない。その私を先回りした!?
「ありえない・・・」
「手紙を・・・ 見ないのか?」
理事長が手紙を見るように促す。
「・・・ ・・・」
理事長に背を向けた私は、すぐに中に入っていた1枚の便せんを取り出した。
【今すぐ、市立病院へ行きなさい! ルブラン君、死んじゃうわよ!】
またしても1行。だけど・・・
「・・・ ・・・」
背中に理事長の視線が突き刺さる。
「な・・・ 何が・・・」
何が起こってるの!? 私の頭は混乱の極みだ。
もし・・・
もし、この手紙の内容が真実なら? 出所は未だに不明だが、この手紙の主は私の行動を知っている。そして今度は、ルブラン君が死ぬとまで言ってきた。
デタラメ? 私に報復するための嘘? それとも、まさか・・・
ホントにルブラン君は、死んじゃいそうなの?
心拍数が上がっていく私。
「り、理事長。さよなら! また明日、学校で!!」
とっても嫌な予感がした私は、大通りに出てタクシーを止めた。
「病院まで!!」
運転手にそう告げると、祈るように窓の外を見上げる。
「この手紙が、デタラメであることを証明しなければ・・・」
安心できない。
・・・ ・・・。
私があわててタクシーに乗り込む姿を・・・
「・・・ ・・・」
じっと見ていた理事長。
「有理数と直角三角形を愛する・・・ ピタゴラス君か・・・」
そう言いながら、彼は・・・
ルブラン君のお屋敷の中へ姿を消した。
(第11話へ続く)
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次回予告
あまりにも突然の出来事だった。
ルブラン君は・・・
交通事故に遭って・・・
次回 「 第11話 ルブラン君の死 」
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