はじめてのよあけ
ユカリ「ところで、20㎞を一晩でついたけど、どんな計算なの?」
ノウン「はい。よく、駅まで歩いて○分とか、不動産のチラシに載っているでしょう? あれは、分速80メートルで考えられているそうです。つまり、時速4.8㎞。まぁ、荷物とか警戒しながらとかなので、もう少し遅くなるでしょうが」
ユカリ「ふーん。でも、6歳のカーミラちゃんがいるんだったら、もう少し遅くならない?」
ノウン「はい。忘れていたそうです。作者いわく」
ユカリ「そう。いつもの通りね」
ノウン「いつも通りです」
転生者・・・。
ユカリと同じ世界の住人。
「転生者ということは、こちらの世界に両親がいたり、この世界で、いじめてくる男の子と、甘酸っぱい初恋をしてみたり?」
とりあえず聞いてみた。本当にとりあえず感がにじみ出る質問だ。
「後者の経験はない。でも、前者は、その通りね。最初は違和感がスゴかった。気持ち悪くなるぐらいに」
そりゃそうだろう。今の記憶のまま、突然赤ん坊になり、新しい両親兄弟ですよー。と紹介されたら、かなり混乱する。
「私にとっての産声は、体が動かない! 目が見えない! ここはどこ?! って叫んでいたわ。もちろん、泣き声になっていたけどね。あのままだっら発狂していたわね。確実に。幸いにも、赤ん坊だったから、すぐに眠くなり寝てしまったからよかったけど」
自分の体を自分の両手で抱き締めて、震えをこらえているみたいだ。
「その後、眠りから覚めて、やっと冷静になれた。体は動かないままでも、心は、自由だったから。その後からは、苦痛の日々だったわね・・・。いくら心が自由であっても、体が動かない。想像できる? 両手両足に力が入らない状態が続くのよ?」
むむ。確かに、それは怖い。一日でもされたら、かなり、精神がまいってしまうのがわかる。それが何年も・・・。ぞっとする。
「でも、発狂する前に、見つけることが出来た。この世界がゲームの世界であることを。生を受けた次の日だった。体には力が入らない。目もよく見えない。あーあ。せめて、ゲームの時みたいに、ステータス確認とかできたらいいなー。って強く思ったの」
「なるほど。その時に、偶然にもステータス確認や、他のことが出来るのをしったのですね」
私の言葉を続けた質問に、こくり、と小さな頭で肯定の意味を示す。
「意思の力で操作が可能だったわ。世界が広がった。すぐに眠くなるのが大変だったけど、それでも、操作を続けた。時間はたっぷりとあったから。そこで、ちょっと裏技というか、なんというか、そのたぐいのを見つけたの。その一つが・・・」
と言って、右の小さなかわいらしい手のひらを広げて、ぶつぶつと、何かを唱える。
「!」
テニスボールぐらいのの火の玉が、小さな手のひらの上に浮いている。熱そうだ。側にいる私の所にまで、熱が伝わってくる。これは、すごいんでは無かろうか。
魔法を見たのは始めただが、知識として知っている。たしか火の玉は中級クラスだったように記憶している。つまり、勉強を続け、センスがあり、たゆまない努力によって、30歳前後で使用できる魔法だ。それをこんな年端もいかない美幼女が!
ゆっくりと、右の手のひらを、頭上高くかかげる。火の玉の大きさはサッカーボールよりも大きくなった。これは・・・、ちょっと・・・。
さらに、大きさは変わらないが、何かが、火の玉に集まっていくのがわかる。密度が濃くなった、と表現するべきだろうか。
カーミラ嬢が、えいっ! と言わんばかりに、川の向こう岸に投げる。
瞬間。
目には閃光。耳には轟音。肌には熱風。空気がびりびりと震える。あわわわわ。
火の玉が、熱エネルギーと衝撃エネルギーに変換されたのだろうか。
向こう岸が大変なことになってる。半径3メートルぐらいのクレーター出来てます。側にあった雑草とかも、ちろちろと燃えてる。雑草っていう名前の雑草は無いんだ。訳のわからん言葉が頭に浮かんだ。驚愕しているだけです。混乱とも言うけど。
「私、実は、転生する前は、ゲームのプログラマーだったの」
突然何を言うんだ、この美幼女は。それと、この現象になにか、因果関係が・・・? そういえば、裏技を発見したと? もしや・・・。
「偶然だけど。デバックモードを発見したの。多分、生まれたの私だったからできたんだと思う。そうして、発見したスキル。私は、このスキルを『改竄』と名付けているわ。どいうことかというと、職業を自由に書き換えが出来るの。副産物として、優遇スキルもその職業に適合したのを設定できるわ」
「・・・」
チートか。
チートか。
チートか。
思わず3回も繰り返してしまった。それぐらい衝撃。
どれぐらい衝撃かというのを説明しましょう。
まず、職業は基本的に変更できない。成人するときに、一つ職業を決めたら、一生その職業で生きることになる。変更することも出来るが、莫大な時間とお金と、神様に関わるクエストを達成する必要がある。ここ何百年か達成した人がいないとか。
そんな一生に一回しかできない職業設定を何回でもできるのだ! チートだ!
さらに、優遇スキルも手に入れられる。本来、スキルを手に入れるには苦労する。お金をはらって本を購入した礼、誰かに師事したり。あるいはクエストをこなすことによって手に入れたり。それらの過程をすっとばして、手に入れることが出来るのが、優遇スキルである。手に入れてしまえば、あとば、しめたもの。無くなることは無い。
そんな優遇スキルもある程度自由に! チートだ!
だから、こんなに小さくても、あんな魔法のすきるや、それ以外にも、いろんなスキル持っていたのか・・・。すげぇ。というか、ずりぃ。
あ、それで、美幼女という職業によって手に入れたスキルが例の「おねーちゃん、おにーちゃん」という魔法の言葉か。あれには、心を溶かす何かがある。精神に働きかけるのも納得の一品だ。
「いえ。精神魔法は使えないわよ?」
「心を読まないで頂きたい」
「体は幼いから、MPが少ないの。精神魔法のように消費が激しいのは無理。あれは、パッシブスキルね。常時発動しているわ」
にこっ(はぁと)
げふっ。ハートをわしづかみ。親ばかになる気持ちがよくわかる。恋愛対象にはなりえないが、保護欲がわき上がる。自分が美少女と認識している美少女ほどたちの悪い存在はいない。と言うが、美幼女にもあてはまるのだろうなぁ。
「今しか出来ない旬の職業ですものね。前の世界では出来なかったから、いま、思う存分やってるわ!」
この人もユカリと同じで、前向きだなぁ。陰か陽だったら、陽だろう。幼女なだけに。
「そうなんだ。いろいろと苦労したんだね・・・。カーミラちゃんも・・・」
「そうらしいですよ。いやー。人は見かけによらないって、本当ですね・・・って、ユカリじゃないですか? 起きたんですか?」
「うん。なんか、すごい衝撃があったんで」
そうですね。うかつでした。
なにはともあれ、カーミラ嬢も、ユカリに聞かれるのをいやがっているわけでもなさそうなので、本人に確認を取って、簡単なあらましを伝えた。
「かくかくしかじか。という訳ですよ」
「わかるかーい!」
ちっ。めんどいな。
「つまり、転生者です。以上」
「なるほど。苦労したんだね・・・」
ぎゅっと、カーミラちゃんを胸に抱く。いや、理解が早くて助かりますが。ツッコミ待ちだったのに。なんか悲しい。
「ユカリ。おそらく、カーミラ嬢は、我々よりも年上のはずですよ。そんなに抱いていたら、悪いですよ」
「いえ。やはり、というか、当たり前、ということなんだけどね。精神は肉体に引っ張られやすい。ということよ」
「うーん。哲学的すぎますが。つまり、体が幼いから、精神も引っ張られ気味? ということでしょうか?」
「そいうことね。だから、子供扱いされるのは嫌だけど、心配して、こんなふうに、暖かく抱いてくれるのは、嫌じゃ無い。むしろ、好き」
はにかみながら、ユカリの腕に手をかけて、気持ちよさそうにしている。
きゅん。としちゃいますね。
「だから、最初はね、こっちの両親が嫌いだった。私には、本当の両親がいるんだっ! ってね。でも、ずーっと、私に愛情を注いでくれるの。バカみたいに。それで、あぁ、これも悪くないな・・・。って思い始めた、その矢先に・・・ね。もう、助ける事は出来なくても、あのまま、というのは、忍びなくて。せめてお墓にはいってもらいたい。それで冒険者を雇って村を解放しようと思ったの。途中で、一緒に逃げた近所のおにいちゃんが死んでしまったのが・・・。こんな事なら、治療魔法も覚えておくんだったなぁ・・・」
沈黙の闇が落ちる。せせらぎと、たき火のはぜる音と、虫の声が聞こえる。
こんな雰囲気の中で声を出せるのが、ユカリというキャラだ。
「よしっ! じゃぁ、カーミラちゃん、一緒に寝よ? 明日のお昼には村に着くだろうし。疲れていたら、何も出来ないもんね。さ、寝よ?」
「ふふ。それじゃぁ、お言葉に甘えて・・・。よろしくね。おねーちゃん・・・」
仲がいいなぁ。二人の子供を持った気分だ。
やましい気持ちなんて、お、起きませんよ? あ、ちょっと動揺して噛んだ。
朝になりました。えー。現在の時間、午前7時半ちょっと過ぎ。
突然ですが、「ナイトランド」の世界には、魔法が存在する。
それも、一部の特権階級や、才能ある人限定では無い。誰しもが、手に入れることが出来るものだ。
何が言いたいかというと。夜、魔法の力で明るく出来るので、夜遅い人もいる。だから、太陽が昇ったら起きるのが常識! という訳では無い。
要は、二人が、まだ起きていなくても、朝寝坊。と言わないであげて欲しい。
「・・・」
「・・・」
「うーん。よく寝たー。おはようノウン」
「おはようございます。ノウンさん」
「おはよう。朝寝坊さんたち」
あ、私が言ってしまった。
二人が起きたのは結局9時過ぎでしたとさ。
簡単に朝ご飯を食べて(干し肉をだしにして、塩で味付けをしたスープと、固いパン)、村に出発。あと、8㎞ちょっと。二時間ぐらいで到着予定だけど、小さな子も居るので、3時間ほどで到着することが出来た。といっても、村に直接行くと危険なので一㎞先ぐらい先の林で様子を見ることにする。
村は典型的な農村形態である。村を囲うように、簡単ではあるが、魔物からの侵略を防ぐための壁が張り巡らされており、壁の外にも畑が広がっている。
しかし農作業をしている人たちの姿は見えない。
作戦タイム in 林。
「ファンタジーのゾンビって、全然怖くないけどなんで?」
「おそらく、その感染率かとおもいます。あと、人工密度の関係もあるかと」
この世界には神が居る。さらには、神の治療よりも優れた治療術士が存在する。感染しても、死んでいなかったら治療できる。低レベルの治療術士であっても。ぶっちゃけ、死んでも、10分以内なら、蘇生も可能だ。10分以上だと脳死問題が浮上。生き返っても、後遺症が残る恐れがある。そのため、ダンジョンに潜るときには、簡易保存術(対人間用)のアイテムが欠かせない。
人口密度が低いのも、ゾンビ蔓延を防ぐ要因だろう。なにせ隣町まで遠いのだ。余裕で野宿コースだし。それに、途中、魔物や野生の動物に襲われるだろう(ゾンビが)。
「そっかー。私たちでも何とかなるかな?」
「囲まれなければ。囲まれそうになったら、走って距離を保てば大丈夫かと。あの村ぐらいの人口であれば、我々でも対処は可能でしょう。それに、今日中か、遅くても明日には、冒険者が来るのでしょう? 安全に行くのであれば、今日はもう少し離れて野宿をして、明日、冒険者と合流して攻略。これが一番かと」
そう提案する。ユカリは賛成してくれた。カーミラ嬢が困った顔をしている。そりゃ、一日でも早く解放したいのであろう。
「うーん。カーミラ嬢。ここは、もう一晩我慢を。そうしたら、安全に、ご両親や村を開放できます。もうしばらくの辛抱を」
「いえ。それはいいんですが。もう少し多く、早めに、生け贄がほしいの」
おっと、やばい。これは、やばい空気がかもしだされてきたぞー。
「え? カーミラちゃん。どういうこと?」
「ユカリ。つまりは、やばいということです。受難の日々クエストも同時にこなしているんでした。忘れていました。あっはっは」
「理解が早くて助かるわ。無駄に抵抗して欲しくないもの。一緒に夜を明かした仲ですもの。おとなしく生け贄になってくれるよね?」
人をだますとき、ばれそうになったら、全部をあかすのではなく、最後の所だけを隠して、残りを打ち明ける。そうすれば、疑問点を逸らして、核心に至る前に納得してしまう。
やられた。カーミラ嬢の方が、一枚も二枚も上だった。もう少し、ステータス確認しておくんだった。
ざざっと、クワやら鎌やらを持った村人が、林の影から現れた。
目の色が赤い。焦点が合ってない。操られているな。やっかいだ。
「さ、村へ案内するわ。さ、行きましょう? おねーちゃん? おにーちゃん?」
憂いを含んだ、見る者を虜にする、微笑だった。
カミラ「大どんでん返し、とはこのことなの!」
ユカリ「カミラってだれ?」
ノウン「カーミラ嬢です。3文字にしたかったので縮めました」
カミラ「どう? 私の演技? なかなかものでしょ?」
ノウン「はい。きゅんきゅん、しまくってしまいました」
ユカリ「あれは可愛かったわよね。うんうん。よかったよかった」
カミラ「べ、別に、おにーちゃんたちを、楽しませようとしたんじゃないんだからねっ!」
ノウン「そういうところは、あざといですね」