はじめてのひとだすけ。
ぽけー。
ユカリ「何をしているの? そんなぼけーっとして」
ノウン「いえ。設定変更をしている最中です。これで、音声認識ではなく、精神感応で、確認できます」
ユカリ「ぼけーっとするのは頂けないわ」
ノウン「わかりました」
きりっ。
ユカリ「(まぁ、これはこれでいいか)」
物語は始まった。
【受難とは、困難や災難といった「厄介事」の総称である。
つまり、パーティーを待ち受けているのは、クエストの予感か、クエストのそのものか、クエストの事後処理。この3パターンなのである。
※冒険者の神専用クエストです。】
「なんと楽しそうな、クエスト説明! とっても楽しみね!」
私はその返事に、ため息で答える。
「なーに?、そのため息? 何か不満でもあるの?」
「いえいえ。不満もなにも、そんなに困難災難こられても対処できないんではなかろうかと、思う所存」
最後の一文「冒険者の神専用クエスト」がとっても気になる。
冒険というと、やはり、謎解きを含む探検とか。戦闘を含も探検とかでしょうか。
「そもそも、私、戦闘用スキルもありませんし、探索用スキルもありません。ちゅーか、それに見合った能力値でありませんしね!」
実は、クエストを(無理矢理)受けてから、必死にステータス確認以外の事を試しているのだ。
お陰様で、設定変更を見つけ出した。ついに声に出さなくても、自分自身について色々と確認が出来るようになったのは大きい。理由は恥ずかしくない。こっそりできる。
一番助かったのはスキルの確認。
「ナイトランド」のスキルは5つのカテゴリーから成っている。
戦闘系、魔術師系、製造系、対人(商人)系、それと、ユニークスキル系の5つ。
自慢ではないが、私のスキルは、先程入手したユニークスキル「神への抵抗」だけだ。さらに、どうやら、僧侶には、優遇スキルがなさそうだ。お先真っ暗とはこういうときに使うのだろう。
「スキルほとんど持っていないんですよ。どうしようも無いでしょう? 仮にあったとしても、筋力1とか魔力1ですから、役には立たないでしょうけど。もしかしたら、赤ちゃんに、手を捻られてしまいかねません」
まあ、赤子の手を捻ろうなんて外道は地獄に落ちたらいいと思う。
「あ、どうやって、自分のステータス見るの? ノウンからも、あたしのステータス見れる?」
「ら、が抜けてますよ。えーと。他人のステータス確認はっと。どうやるのかな?」
「ロックオンかなんか、するんじゃない?」
「なるほど。やってみます」
じー。
「ちょ、ちょっと、どこ見てんのよ!」
「え?」
他のキャラをロックオンすると、どういうわけか、視線が相手の首元ちょと下付近を見てしまう。慎ましい胸を見てもトキメキません。だが、ちょっと、世間体的に怖いので、後で設定変更しておこう。
「えーと。どれどれ。ユカリのステータスは・・・」
名前:ユカリ
レベル:1
種族:神
体 力:1
筋 力:1
知 力:1
魔 力:1
器用度:1
敏捷度:1
カリスマ:42
自分のことばっかり言ってごめんなさい。私と同類がもう一人いたよ! 種族:神様 だけどね! 大丈夫か、この神様?
それはさておき、このカリスマってなんだろう。私の信仰心みたいなものなのだろうか。わからないことがいっぱいなだな。こんなんでは案内など出来ないだろうが、どこまでもついて行くしか無い。僕なのだし。
スキルも見てみるけど、私と同じで、全くスキルが無い。
困ったけど、現状把握が出来ので、よしとするか。ステータス画面を閉じる。
ピコン。
【ユニークスキル:神の覗き見 を入手しました。
スキル説明:他のPC、NPC(モンスター含む)を問わず、ステータス確認ができるようになる。】
・・・。
嫌なスキル名だなぁ・・・。入手条件は、おそらく、神様へのステータスチェックだろう。でも、これはありがたい。情報は大事だ。
「どうだった? あたしの能力! こっちに来てから、体の調子が良くてねー。空気はおいしいし!」
むむ。正直に言うべきか。変にごまかしても意味ないか。正直に言おう。
「はい。神様というのは、本当でした。よかったですね」
「そこじゃなーい! あたしの能力値を、きいているのー!」
「ユカリさーん。よかったですねー。私と同じ。ALL1ですよー。よかったですねー。赤ちゃんと同じですよー?」
「え? ホント? やった! 成長のしがいがあるってもんよ! 最初からチートとかだったら、どーしようかと思ってたのよ。レベルアップの楽しさが味わえないもんね! よかった!」
orz
私の心の醜さが露呈された瞬間だ。
あぁ、神よ。貴女は天真爛漫だ。まぶしすぎて、目がつぶれそうだよ。光が強いと、闇はより暗くなる・・・。闇は私か。光の神を支える闇の僧侶。それ、いいなぁ。中学2年生が罹りそうな病気っぽくて。
ピコン。
【ユニークスキル:闇の親和性 を入手しました。
スキル説明:闇の精霊と仲が良くなります。
スキル説明補足:スキルでは無くアビリティです。
スキル説明補足:このスキルにはレベルはありません。】
また、一歩、悪役にむかってるなぁ。
ん? こんな感じで、ユニークスキル手に入るのか・・・? ユニークスキルというのは本来、種族固有のスキル欄のはずだが。ドワーフの「熱耐性」みたいな。ちょっと、試してみよう。
「ところでユカリ。突然ですが、光って、どう思います? 好きですか?」
「光は・・・というか、明るいのが好きね。夜よりも昼間の方が好きだし。月よりも、太陽の方が好きっ!」
くっ。私は夜の方が好きだし、月の方が好きだ・・・。
「あ、なんか、”光の親和性”っていうスキルをゲットしましたっ!」
こんなんでいいのか? まぁ、無いよりはマシか・・・。
これから行動について話し合いました。
宿を決める→寝る→地下大遺跡の低層で地道にレベルアップ。
という方向で決まりました。というわけで、何はともあれ宿を探そう。
冒険者ギルドの二階が宿なのだが、ギルドに行くと、宴会に巻き込まれること必至なので、遠慮する方向で(ちなみに余談だが、通の人たちは、ギルドで一晩泊まるときには、受付の人に「二階に行く」とか「二階よろしく」とか言うらしい)。
宿代を浮かすために、復活の女神様と義姉妹の契りを結んだ(?)ユカリがいるので、復活の聖堂でも・・・と提案したが、「おいしい夕飯を食べたい!」の一声で、やっぱり宿に。
広場は、復活の女神様の教会と冒険者ギルドがある。ギルドの宿は安い。けど、サービスがいまいち。なので、広場にはいくつかの宿があるので、探すのは苦労しなくてすむ。
お、あそこの宿屋さんなんかいいのでは無かろうか。冒険者ギルドからも目視出来る範囲でありながら、高級すぎるわけでも無く、だからといって、汚らしくも無い、ちょうどいい感じの宿屋だ。だが、なんか、嫌な予感。他の宿屋に換えたい。と、思った矢先。
「むむ。泣いている、いたいけな少女を発見。助けねばっ!」
あぁ、やっぱり。
困難が向こうからやって来るのではなく、恐らく、こっちから困難に向かっていくんだろうなぁ。困難に立ち向かう。こう書くとかっこいいけど。実際には怖いよね。
「ちょっと、どうしたんですか? 小さな女の子相手に何をしているんですか!。みっともないと思わないんですか!」
現場は、今から一晩の宿をお願いしようとしてお店の、食材とかを搬入する裏口だ。
そのそばで、十代にもなっていないであろう、素朴な感じの女の子が地面にぺたんと座り込んで、なにか革袋をのようなモノをぎゅっと抱いている。その顔は、声は出していないものの、ポロポロと涙が頬をつたっている。
そばには、ワインを入れていたであろう木のケース。無残にも何本か割れて、あたりにはワイン独特のにおいが立ちこめている。
そのワインを運んでいたのか、一人の青年が、女の子前で、おろおろとしている。
「え? いや。このお店にワインを納入しようとしたときに、そこの角から、突然この女の子が飛び出てきて。なんとか、この子にはぶつけるのを避けられたんだが。その拍子で、ケースを落としてしまってね。全部割れているわけでもないし。こっちの不注意ってのもあるし。こんな小さな子でもあるし。銀貨1枚でちゃらに・・・。と、言ったら、突然、泣き出してね。困っているところ」
ご両親はそばに居ないの? とか、おうちはどこ? とか、優しく聞いているのだが、いっこうに泣き止まない。青年も、いらいらが募っていくのがわかる。
”ノウン。この人の銀貨1枚というのは妥当なの?”
”おそらくは。アイテム鑑定のスキルを持っていませんが。多分、銀貨1枚はむしろ安いぐらいだと思います”
「わかった。ノウン。この人に銀貨1枚をはらってあげなさい」
「はい。かしこまりました」
腕を伸ばして救える人は救う。しない善よりする偽善。ということだろう。これに関しては、命令を抵抗することもしません。しませんが。
「銀貨1枚持っていません」
「え? 持ってないの?」
「つい先ほどまで、ちょうど銀貨1枚ありましたが、飲み物とクッキー代で、ほんのちょっと足りません。具体的には銅貨5枚ほど」
「あちゃー。くっ。あたしも、ギルドでの飲み会に・・・と、有り金おいてきたのよね・・・。今手元にあるのは、具体的に銅貨5枚ほど・・・」
銅貨5枚で宿屋に泊まろうとしていたのか。この神様は。まぁ、ちょうど、足りたか・・・。よかった。
ユカリから全財産を預かる。私が青年へ我々の全財産を渡す。
「え? なんで貴女たちが? 関係ないのでは?」
「困っている人が居たら、放っておけないでしょう?」
にっこり。
極上の笑みだ! こうかはばつぐんだ!
でも、青年の視線は、お金に注がれている。まぁ、そうか。数年後だったらよかったのにね。もっとがんばりましょう。
「そ、そうか。まぁ、俺としたら、どっちでもいいんで。いや、本音として、とっても助かった。お嬢ちゃんも、この人たちにお礼を言うんだぞ-。じゃぁな。今度は気をつけるんだぞ」
結構いい人だ。おそらく、家族に年の離れた妹が居るとみた。あぁ、今度NPCのステータス確認してみたらよかった。能力値以外にも、いろいろとわかるかも。
青年は颯爽と、宿屋の裏口から、ケースから割れていない瓶を持って入っていった。不足分は後日納入かも。
私たちも、その女の子に近づく。きょとんとして、こちらを見上げている。涙は止まっているようだ。
「さ、立ち上がって。地面に跪くのは、男で十分よ」
異議あり。いや、小さな女の子が、長時間地面にぺたんと座り込んでいるのは、いろいろと思うところはありますが。
ユカリが手を差し伸べて、女の子を立ち上がらせる。おしりに付いた、土をはたいて落としてあげている。
少し落ち着いたのか、ようやく、我々に意識を向けてくれるようになった。本当だったら、なにか、飲み物でも、と思ったのだが、お金が無い。お金が無いのは、首が無いのと同じだ。
「お、お姉ちゃんたちは、その・・・。神官さまなの?」
むむ。また、これは、哲学的な質問を。職業が僧侶であっても、神にお仕えしているから、神官になるのか? いや。僧侶と呼称しても間違いではないのだから。えーと。どう答える? うーん。
「ええ。そうよ。私たちは神官よ」
ふぅ。私の自問自答が悲しくなってくる。
「やっぱり! その服装だから、そうかとおもったの!」
ん? 私たちの服装は、村人A、村人Bぐらいだと思ったのだが・・・。たしかに、そう言われると、襟首とか、袖口とかいたるところにホーリーシンボルを形取った模様が描かれているな・・・。
「あ、あのね! 神官様! お願いがあるの!」
「なーに? 出来る範囲で力になるよ!」
ぎゅっと、女の子の手を握る女の子。ほほえましい。写真があったら、写真撮るのに。PrintScreenボタン使えるかな。
「あのね。あのね」
「なーに?」
「私たちの村を、ゾンビから助けて欲しいの!」
あいたー。こういう導入か。
ノウン「実は、この国ヴェレギンは奴隷を唯一認めている国です」
ユカリ「え? そんな国なの? 18禁じゃないけど、気を付けないと」
ノウン「とはいえ、借金返済が出来ない人だけですし、国外への移動も禁止ですし、奴隷保護法もしっかりしてます。どちらかというと、命令とか強制できる従業員みたいなもんですね」
ユカリ「ノウンみたいなもんね。なんか安心」
ノウン「私は不安になりました」