ため息混じりの出会い
小説って、書くの、体力使いますね・・・。
無為に時を過ごす。とても贅沢な時間の使い方のひとつ。
ほけー。
はっ! いかんいかん。自分を見失っていた。このままではダメだ。ダメになる。自堕落な生活は大好きだが、先立つものがない。住むところもないし(聖職者だから自堕落に生きられない、と言う理由は彼にはなかった)。
とはいえ、頭を抱えたくなる状況だ。手に職がある訳でもない。手先が器用と言う訳でもない。はっきりいって体力もない。優れた魔力も、知識もない(役に立たない知識ならあるのだが)。
あれ? そう言えば、自分自身の能力はどうやって確認するんだろう。今まで気にしたことなかった。RPGならあって当たり前の機能だ。この世界に慣れていないのか、まだ要領が掴めない。向こうの常識に捕らわれてしまう。
目を閉じてみる。何もそれらしいものは浮かんでこないなぁ。何か特別な操作が必要なのだろうか。マウスとかコントローラみたいなマジックアイテムが必須とか。まさか。自分自身をその場で操作。・・・。格闘ゲームっぽい動きとかできるなら、それもありか。あ、手にコントローラ持ってるからダメか。
どうやら、まだ頭が混乱しているようだ。ついついダメな方向に思考が向かってしまう。
困ったときは、他の人を見てみよう。|When in Roma, do as Romans do.《郷に入れば郷に従え》だ。とりあえず、まわりにいる人たちを観察してみよう。
広場には食べ物の露店がズラリと並んでいる。とってもいい匂いが広場には立ちこめている。露天に群がるように、人がたくさん居る。芋を洗うほど、とは言わないが、かなりの人混みだ。祭りがあるのか、それとも、これが日常なのか、判断に困る。
冒険者ギルドの賑わいから鑑みて、もしかしたら祭りか、何かしらのイベントがあったのだろうか。または、これからあるのであろうか。
道行く人たち(異種族含む)を漫然と眺めるように観察する。1人をじっと見て、因縁を付けられるのを避けるためだ。
特に目立った行動をしている人はいない(当たり前だ)。立ち止まってあさっての方向を見ている人も、目を閉じている人もいない。何かを操作しているような人はいないようだ。残念。歩きながらでも操作出来るのであれば、そもそもわからないので、どうしようもないのだが。少なくとも、頭の上に文字が現れたり、顔の前付近に、画面が投影されている場面には遭遇していない。
ふと、他のことに気がついた。
この町メインストリートは、ゲームではPCの露天広場だったはず。数多のMMORPGではよく見る風景。人が集まる場所には多くの露天が開かれるものだ。
しかし、よくよく見てみると、露天は食べ物の販売が主で、その他は日曜雑貨ばかり。日本の縁日を拡大したようなものだ。
不自然だ。いや、普通の露天ならば至極当然なのだが、PCが露天を開くということは、収集したアイテムの販売が主になるはず。製造販売は少数であり、どちらかというと、この世界では、自己満足に近い部類だ。見た限り、武器とか防具類を取り扱った露天はない。ということは露天を開いているのは、恐らく、NPCだけだろう。
一つの推論。
もしかしたら、この世界は、PCが1人もいないのかもしれない。
もしかしたら、この世界は、私が生まれた世界ではないのかもしれない。
ま、だからと言って、お金が増えるわけでもなし、住む場所が手に入るわけでもなし。
行動指針変更無し。
その指針はと言えば、とりあえず、職を探す。返金された銀貨1枚あれば、しばらくは生きていけるであろう。その間に探そう。
私は僧侶。どこかの教会に属して、とも考えたが、直ぐに無理と判断。理由は、なんか、嫌だから。
この世界「ナイトランド」は多神教という設定になっている。先ほどの復活の女神様や、商売の神様、戦いの神様だっている。日本の八百万の神様並みにいらっしゃるのだ。
日本の神道のように主神がいて・・・うんぬん。ならいいのだが、一人一人が独立した神様なのだ。神様同士の付き合として、仲が良い神様や、仲が悪い神様もいる。言うなれば、一人の神様=一つの宗教。というわけだ。なので、仲の良い神様の教会に、雨風をしのぐ場所を提供して頂いたからといって、そこの神様の布教は出来ないというわけである。たとえるならば、仏教の僧侶が、キリスト教の教会で、キリスト教の布教をするようなものだ。
・・・。他の神様の布教。やれと言われれば出来るな・・・。
ん? あれ? そういえば、私の信仰する神様って、どんな神様なんだっ?!
あれ? あれれ? わからない。「思い出せない」ではなく、わからない。というか、知らない。
ががーん。僧侶でありながら、信仰する神様をしらないなんて・・・。
僧侶失格だっ!
・・・。
・・・。
ま、いいか。神様信仰して無くても生きていけるさ(日本人的発想)。大丈夫大丈夫。なんとかなるさ。あっはっはっは。はぁー。
単神教なら、なにも疑問に思うことなく、教会に属して、布教などをして、天寿を全うできただろうに・・・。
というか、私はどうやって、僧侶なったんだろう・・・。
「せめて、ステータス確認できたらなぁ」
と、言葉を言い終わる前に、私の目の前に、ステータス画面が現れた!
音声認識のようだ。びっくり!
どれどれ、私のステータスは・・・。
名 前:
レベル:1
種 族:人間
体 力:1
筋 力:1
知 力:1
魔 力:1
器用度:1
敏捷度:1
信仰心:101
以上。
はぁ・・・。最低だ。赤子に手を捻られてしまうのではなかろうか。不安だ。
信仰心以外全部1というのが男前だ。自分で自分自身をほめてあげたいよ(逆説的表現)。
こ、これはこれで、冒険者になれなくてよかったんではなかろうか。こんな状態で、冒険に出ていたら、即あの世行きだ。体力1って、風邪で逝けるんではなかろうか。器用度1って、短剣装備できるのか? 自傷してしまいそうだ。
ある意味よかった。冒険者になれなくて・・・。
そもそも、まずはビール! のノリで、まずは冒険者! と言うのが、そもそも異世界脳だったんだ。命の危険を省みない勇気(蛮勇?)や、生き残る才能、あるいは、それらを凌駕する知的好奇心。これらがないと無理なのだ。
はっきり言って、私には無い! 断言できるぜ。
細々と生きていこう。田舎に行こう。畑を耕して、自然と共に生きてこう。それがいい。そうしよう。智者楽水、仁者楽山。海に行こう。山に行こう。そうやって生きていこう。
とか、なんとか、噴水のイスで考えていたら、冒険者ギルドの両開きの大きな扉が開いて、一人の女の子が外に出てきた。
その瞬間。
私の耳から、一切の音が消えた。
私の目から、女の子以外が消えた。
と、感じたのは一瞬であった。すぐに、喧噪がもどり、視界も元に戻った。
だが、私にとっては、劇的な変化だ。冒険者ギルドから出てきた女の子から、目を離すことが出来なくなってしまった。
年の頃は、十代前半ぐらいか。後半ではなかろう。身長は150㎝あるかないか。黒い髪を背中の半ばぐらいまでのばしている。この世界では珍しい事に、東洋系の顔立ち。整った鼻梁。二重まぶたと長いまつげが彩る黒い瞳とても神秘的で蠱惑的だ。将来が楽しみな美少女だ。胸に関しては黙秘します。
女の子をじっと見ていては、変質者だ。おそらく、向こうは、中学生ぐらいの年齢だ。危険だ。こっちは、30歳手前。危険だ。しかも、一目惚れだと? くぅ。危険だ。大事なことなので3回も書きました。
視線を逸らそうと思っても、つい、目が追ってしまう。く。私は思春期の子供か? 好きな子がいたら、つい目で追ってしまう、そんな子供だったのか? うーわー。
女の子がギルドから出てくると、きょろきょろと、辺りを見回す仕草をして、噴水に気がついたようだ。噴水に向かって一直線に、歩いてくる。脇目もふらず、一直線。少女まっしぐら。
そのまま進むと、私が座っているそばに来るなぁ・・・。とぼんやり見ていたら、噴水のそばまでづかづかと歩いてきて、あろうことか、私の座っているイスの前までやって来て、私の目の前に立ち止まったではありませんか!(混乱気味)。
そうして、鈴のようなよく通る声で、私に語りかけたきた。
「貴方が、私の案内役さんですか? よろしくお願いしますね」
きょとーん。
「申し訳ありません。よくわかりません。もう一度おっしゃって頂けますか?」
「え? 貴方が、私の案内役さんではないのですか? 私はてっきりそうかと。黒髪で、東洋系の顔立ち。この世界では、滅多にいないとのことでしたし。違うのでしたらごめんなさい」ぺこり。
(゜Д゜)ぽかーん。
「私が案内役ですか? はて? 申し訳ありません。身に覚えがありません。人違いかと思うのですが・・・」
私のチキンめ。せっかくのチャンスをふいにするつもりか。ここで、会話を終わらせてどうするよ! そこで、私は、1つ彼女の声を聞いてから、思っていたことを伝えることにした。
「あの、どこかで、お会いしませんでしたか? 貴方の声、どこかで聞いたことがあるのですが?」
「・・・。」
なに低レベルのナンパしているんだ。彼女もびっくりして、固まっているじゃないか。
「!!!」
突然、彼女の両手が私の顔を挟んできた!
そして、ぐっと、顔を近づけてきて、まじまじと私の顔をのぞき込んできた!
こ、これは、なんだ? 抵抗していいのか? セイビングスロー判定か? いや、もったいない。してはいけない気がする。でも、このままでは、顔が赤くなるのがばれるではないか。30手前の私が、こんな、小さな子に懸想しているなんt・・・。あれ? 彼女の顔も赤くなってきた。ばばっと、手を離して、私と距離を取る。
「あ、あんた、もしかしたら、No Name?」
「!!!」
な、なにぃ。私のステータスにも、何も書かれていなかったのにっ! それを知っているということは・・・。もしかして・・・。
「あの。失礼ですが、ちょっと、髪をポニーテイルにして頂いて・・・。はい。そうです。そして、さらに失礼ですが、後ろを向いてもらって・・・はい。ありが・・と・・・!」
彼女のレスポンスは早い。言ってるそばから実行に移してくれる。最後の方は、言いながらしてくれた。
しかし、この黒髪! このポニーテイル! このうなj・・・げふげふん。 まさか、私の製作者だって!?
「てか、なんで、私の後ろ姿でわかるのよ!」
「なんで、この世界に来てるんですか! びっくりですよ!」
お互いに、質問攻め。
私の受難が始まった。
ようやく、ヒロイン登場です。
永かった・・・。