ため息混じりの冒険者(失格)
ノウン「ふと、何話か、書きためてから、投稿すればよかったんじゃないだろうか? と自分自身にツッコミを入れましたが、後のフェスティバルでした。と作者が嘆いていたのを、遠くから眺めていました」
ログアウトを実行した後の私には時間感覚がなくなる。というよりも止まる。
次に私が認識した時、ほんの数秒後だったのか、何時間も後だったのか。
私の内部に存在する時計(腹時計じゃないよ。ちゃんとした内部時計よ!)から、ログアウト後30分過ぎているのが解った。しかし、私が画面上に出現したのは、青空の下、石畳の上ではない。
足場が無く、周りに何も無い。頭の上にも何も見えない空間がある。下にも何もない空間がある。空中に浮いている感覚。周りは暗闇だ。いや、手足が見えるから真っ暗ではないのだろう。宇宙空間に放り出された様な感じ。上下感覚はあるのが救い。
・・・。
そんな事は些細な事柄である。私の意識はそんな事に気を取られてなどいなかった。
私は、画面上に現れた文章に恐れ慄いていた。
【このキャラクターを削除しますか?
→はい
いいえ】
うはー。そうですか。そうなんですか。
せめて削除前に、情報を集めるとかさ。
少しぐらい遊ぶとかさ。
街の中を歩き回るとか。
色々とあるのではないのでしょーか。
【一度このキャラクターを削除しますと、このキャラクターを操作する事が出来なくなります。よろしいですか?
→はい
いいえ】
一瞬、何かを考えるように止まっていたマウスのカーソルも、最期は、「はい」と、私の、死刑執行を、選択したのであった。
【No Nameを抹消中です。
残り 30 秒で抹消完了します。
キャンセルはこちら。】
抹消って。削除の間違いではなかろうか。まぁいいや。どうにでもなれー。
短い人生だった・・・。走馬燈が・・・。あれ? 石畳とレンガの家と青い空しか知らないや。やたらと短い走馬燈であった。
残り5秒のところで、突然マイクが接続された。
はずがしがり屋の日本人でも、文字入力しながらのゲームは大変。というわけで、難しい設定無く個人情報入力も無く、誰でもマイクを使えば、パーティーメンバーとチャットができる。便利になr・・・
「・・・バイバイ・・・」
説明の途中で、さよなら、と言われた。鼻声で。泣いていたのかな。
彼女は、ゲームのキャラクターでも泣いて別れを惜しんでくれるのか。ちょっとうれs・・・。
「・・・私の初恋・・・」
・・・。まぁ、初恋は実らないものですよ。ベイベー。
いやいやいや。そうじゃなくて。二次元コンプレックスさんでしたか。そうですか。綺麗なポリゴンですが、画面の中だから、二次元でいいんだよね。あ、いや、その定義だと、Hなビデオも二次元になるのk・・・。
【No Nameを抹消しました。次の冒険をお待ちしております。】
混乱している間に、時間が来たようだ。
ゆっくり、ゆっくり、まぶたが重くなる。ゆっくりと。ゆっくりと。
同時に、私の短い人生もゆっくりと幕が降りたのであった・・・。
あ-あ、終わった。
と、思った瞬間。
「え? うわっ!?」
突然放り出された。そんな感覚。
乱暴に。例えるならば、突然、ひょいっと抱えられて、そのまま、ぽいっとプールに投げ込まれたような。
違うのは、水の中ではなく、石畳の上だということ。いままで、浮遊していたものだから、かなりの衝撃を受ける。いきなり、精神だけを、入れ物の中に投げ込まれたみたいだ。正確に。乱暴に。力一杯。
「うひゃぁ!」
今まで、目を閉じて・・・、そう、まるでゆっくりと眠るような状態であったのに、突然ですよ。気が動転。大地も動転。まさに驚天動地(用法が違う)。
「うぅ。気持ち悪い・・・」
激しい立ちくらみにも似た症状に、腰は砕け、視界はおぼろげだ。まともに立っていられない。
「うぅ」
両手を彷徨わせる。左側に壁がある。レンガの感触だ。背中を預け、ズルズルと、地面に座り込む。
「はぁはぁ。ぜぇぜぇ。ようやく・・・、落ち着いた・・・」
立ちくらみに似た症状は、感覚情報の不一致からくるものであろう。感覚を一致させていけばいいので、数分ほど安静にしていたら、感覚を取り戻した。少し落ち着いた。
大通りではなく、横に一本入った道らしい。それほど道ゆく人も多くはない。
さほど気にされる事が無かったのは幸いだ。チラチラと横目で見て行く人がいるぐらいだ。私の体調を思って・・・というわけではなさそう。どちらかと言うと・・・、珍しいものを見るような・・・。
「黒髪だからかな?」
彼女の趣味により、黒髪黒目。肌の色は黄色人種・・・よりは少しだけ白いぐらいかな。
対して、周りの人達はというと。西洋人さんばっかりだ。金髪はもちろん、銀やら、青やら、赤やら、なんでもありっぽいです。ただし、黒は見ない。
お? 耳の大きな尖った人もいらっしゃるな。エルフという種族か。あの耳さえなければ、美形だとおもうんだけどなぁ。耳大きすぎだとおもいます。
お? あの背丈が私の半分ぐらいで、筋肉は何倍もありそうな、ごっついのが、ドワーフ族かな。重心低いなぁ。安定感ばつぐんだ。柔道では勝てそうもない。むろん喧嘩もだ。
ほけー。
思わず現実逃避してしまいますね。
「さて、空は果てしなく青く、地面は石畳。背中にはレンガ。場所は大通りから一本はずれた横道。うむ。まごうことなく、さっきのスタート地点ですな」
理由はよくわからないけど、前回ログアウト地点から開始できた様だ。私の存在は削除(抹消)されたにもかかわらず。さらに、自分の意思で動かせる体を手に入れたようだ。一歩前進。やったね。
No Nameは からだを てにいれた!
「まずは! 現状把握っ!
所持金はポケットにある銀貨1枚っ!
持ち物もそれ以外(服以外)無しっ!
宿も無い!
知り合いもいない!
目的も無い!
うーん、 困ったなぁ・・・。やべぇなぁ。だめだめ人間だ。」
誰か私に生きる目的を下さい・・・。
健康な体があるだけ儲け物か。と、無理矢理納得させる。実際一時間前には、この体もなかったのだしね・・・。
「何はともあれ、生きるためには収入を得ないといけない。恒産なき者は恒心なし、ってね」
よっこりゃしょっー。
日本にしか存在しない、日本語でしか表現できない言葉を使い、気合いを入れながら立ち上がる。そして、都市中心部へと向かうことにした。足取りは軽い。だって物見遊山的な気持ちで一杯だもの。
もし、私が、この時にこの町では無い、隣町へと移動していたら、人生は変わっていたのだろうか・・・。
宗教都市。冒険者の都。ヴェレギン。都市中心地には二つの建物が並んで建っている。
一つは「復活の聖堂(再生の女神教団の総本山)」。登録(入信ではない)しておけば、死亡しても聖堂から復活可能(この世界にデスペナルティは存在しない。だって、死ぬときは、死ぬほど痛い経験をしているのだし)。
そして、もう一つが、全世界の待ちという町に存在する冒険者ギルドの総本部の建物である。ここ、ないしここ以外の支部で登録しないで、クエストや、町の人たちからの依頼を受理&達成してしまうと、強面の方々から注意勧告(肉体的指導も含むかもしれない)を頂ける。怖いので、しっかり登録しておきましょう。
その二つの建物を中心に、東西南北にメインストリートが通っており、さらに蜘蛛の巣のように、サブストリートが形成されている。半径4キロ、人口3万人超のナイトランド有数の大都市である。
そんなこんなで、中心部に到着。
おぉ。かっこいい。見上げると、そこには、復活の聖堂。復活の女神様が奉られているいる聖堂でもあり、復活の女神教団の総本山でもある。山でも無いのに総本山とはこれ如何に。一人でも仙人と言うがごとしか。違うか。
各主要都市には、ここの聖堂よりは小さいが聖堂が建てられ、登録すると復活が可能となる。
この世界では、人の命は、軽い。
重々しく言ってみた。
建物自体はロマネスク建築というのであろうか。私も詳しくないので言及しません。ザンクト・パンターレオン聖堂が一番近いかな・・・? そんな気がする。詳しくは、何かの方法で調べてみてね。
それはさておき。私も「聖職者」の端くれ。なにか、思うとところがあるかと思ったのだが・・・。なんか、私の神とは違う気がする。勿論、畏怖の念や、尊敬の念が無いわけではないが、なんか違う気がする。仕える気持ちが沸いてこない。スルーの方向で。
ささ、冒険者登録ですよ。本日の主任務。冒険者ギルド本部の大きな扉の前に立つ。
「(ごくり)」
雰囲気が・・・やばい。
建物自体は、レンガ造りのしっかりとしてがっちりとした二階建て。となりの復活の聖堂からみると、おまけか? とか思ってしまうぐらい。中からは、酒場のような喧噪が聞こえる。ギターかリュートの演奏も聞こえる。中は酒場なのだろう。そう見ると、普通の冒険者ギルドだ。
でも、それは、建物だけを見た感想だ。入り口からは、うかがい知ることはできないのであるが、建物の地下方面から、なにやら、やばげな雰囲気を感じる。
あぁ、そうか。この冒険者ギルドから、例の地下大遺跡へ降りられるのか。みんなよく平気だなぁ・・・。さすがは冒険者か。
「さ、気を取り直して、早速登録して、こんなところから離れよう。一秒でも居たくない」
わざわざ口に出して、意思決定を宣言。それだけ、しんどかった。
ぎぃ・・・。と大きな両開きの扉を開けて中に入る。
うわっと、音の洪水に巻き込まれる。すごい喧噪だ。飲めや歌えの大宴会。という感じか。まだ、昼を過ぎたぐらいなのに・・・。これが普通なのか? さすがは冒険者・・・。レベルが違うぜ・・・。
縫うように、カウンターらしきところへ向かう。そこには3人の人間が居た。二人が男性。一人が女性。男性二人はどうやら、酒場担当のようだ。一人が酒を樽から入れたり厨房へ注文を投げかけている。もう一人が、カウンターを手伝いながら酒や料理をカウンターから出て配っているようだ。二人とも年齢的に40代前半ぐらいか。よく似た顔立ち。もしかしたら兄弟かもしれない。冒険者相手には、これぐらいじゃないとダメだぜ? みたいな大男たちだ。腕っ節も強うそうDA!
もう一人の女性は20代前半。理知的な女性の雰囲気。綺麗な空色の髪を肩の少し上で綺麗にそろえている。清潔感ばっちし。酒場カウンターから少し離れてイスに座りながら、なにやら事務仕事をこなしているようだ。おそらく、こちらが、冒険者ギルドの担当さんであろう。それでも、一人でこなせるものなのだろうか。よっぽど有能か、あるいは、今日がお祭りで、酒場担当にかり出されているのだろうか。
「忙しいところ、申し訳ありません。冒険者登録をしたいのですが、こちらでよろしいですか?」
かなり、無難に問いかけてみる。そうすると、書類から顔をあげて、にこりと笑う。100%営業スマイルだ。
「冒険者登録ですね。では、こちらの水晶玉に、どちらの手でもかまいませんので、手のひらを乗せてください。・・・はい。少々お待ちください・・・。はい、もどされてもかまいませんよ」
この水晶玉で前科などの犯罪歴を調べる。仕組みは不明だ。そんなもんだ。一定以上の罪過があると、冒険者登録は不可能。お帰りはあちら。となるらしい。実際にそんな現場を見たことがない。
「ただいま検索しておりますので、先に冒険者登録料であります銀貨1枚をお納めください」
さようなら、全財産。また会う日まで。
「はい。確かに受け取りました。戸籍検索が完了するまで少々お待ちくださいませ」
銀貨1枚が銅貨300枚分・・・。銅貨1枚あれば一日分のパンが買えるのに・・・。一食分にと考えれば、パンとワインだって・・・。く。何も言うまい。登録が完了したら、日雇いのクエストをしよう。まかないが付けば儲けものだ。ふふ。しばらくは、復活の女神さまの神殿に厄介になれば、野宿は避けられる。あぁ、聖職者というのはいいm・・・。
「申し訳ありません。検索の結果が出ませんでした。どうやらあなた様は登録されておりません。大変申し訳ございませんが、冒険者として登録するわけにはまいりません。登録料をお返しいたします。お引き取りをお願いいたします」
丁寧な対応ではあるが、はっきりと、登録は出来ないから帰ってくれ、と言われた。
「ちょ、ちょっと待ってください。どういうわけですか? 検索出来ないって? たしか、この世に生を受けた瞬間に、登録される仕組みですよねっ!」
そう。私たち世界の人間は、生を受けたら、神様が自動的に、戸籍を登録するのだ。なんて恐ろしい。間違えた、なんて便利な。そうして、日々、確実に、戸籍情報が蓄えられていくのである。ちなみに、あらゆる行動も自動的に記録されます。悪行も然り。善行も然り。
しかし、確かに私はつい先ほど作られたキャラクターではあるが・・・。登録されているはず。突然、この年齢で産まれるわけでは無いのだし。キャラクターとしては生後数時間だが、私の人生としたら、20年以上はたっているはず。
「後存知かと思いますが、聖職者の方は登録から抹消されます。それであっても、たしかに、抹消済みとして、痕跡があるはずなのですが、それすらも御座いませんでした。おそらく、神から直接抹消されたのではないでしょうか?」
抹消・・・。抹消か・・・。あぁ、思いあたりがある。私は、「削除」ではなく、「抹消」だった・・・。あぁ、そうだったそうだった。そう思うと・・・、私の生まれ故郷の名前すら、覚えてないや・・・。へへ。おかしいなぁ・・・。
その後、私はどうなったのか。記憶が不鮮明だ。
受付の女性に、お礼を言って、銀貨1枚を受け取り、酒場の喧噪を、どこか遠くに聞いて、扉を開けて、目の前の広場に向かう。噴水があり、6人ぐらいが座れるベンチがある。
露天商の客引きも、どこか、遠いテレビの音声のようだ・・・。
誰も座っていないベンチを発見。いつもなら、他の人が座れるように隅っこに座るであろう私の性格。でも今だけは、真ん中に、どかっと座る。他の人に座ってほしくない。
背もたれに背中を預け、空を見上げる。憎たらしい程に綺麗だ。あぁ、青い空が目にしみる。
今度は、なんか、目から汗が出てきそうなので、イスに腰を深くかけて、顔を誰にも見られないように、前屈みの体勢になる。視線の先は、もちろん、石畳。
「はぁ・・・。やってられない。と言うか、まいったなぁ」
「聖職者」がこんなにきつい職業だとは・・・。いや、きついわけではないが。制約的に、という意味で。
「はぁ・・・。くぅ。これは参った。まさか、冒険者になれないとは・・・。はぁ・・・」
ため息ひとつで幸せ逃す。
私の幸せは、もう、残ってはいないだろう。
つまり、ようやく、今に至る。
銅貨1枚=青銅貨40枚=銀貨300枚=金貨600枚=白金貨7200枚
銅貨1枚100円ぐらいを予定しております。
ノウン「って書いていたけどさっ! おかしいよねっ! 反対だよねっ! これだと銅貨が一番高価な硬貨だよ! 反対だからねっ! あえてこのまま残すけどさっ!
あぁ! 恥ずかしいっ!」