はじめての・・・
ユカリ「カーミラちゃんと、ロイエさんの関係は?」
カミラ「将来の夫婦です」
ノウン「いえいえいえ。そうでなくて」
カミラ「ちっ。村で先生をしています。さらに、魔法とか、いろいろと、こちらの事を教えてもらっていました」
ユカリ「そっか。そこで恋に落ちたのね」
カミラ「(ぽっ)」
ノウン「今は、残念な人になってますけどね」
逃げるに逃げられない状況。
人生において必ず訪れる試練。人によっては受験であろう。人によっては結婚であろう。人それぞれに決断を迫られる。立ち向かう、あるいは、逃げるかを、時限付きで選択しなければならない。
保留。というのは、一番してはいけない選択肢の一つだ。状況がより悪化する。良くなることは滅多に無い。決断は早ければ早いほどいいのだ。
時間が解決してくれないのだ。こればっかりは。
まぁ、ここまで言っては何だが。選ぶことが出来る、という状況は恵まれていると思う。
世の中には、その選択肢すら表示されない事もある。
今の私たちが、まさにそれだ。
そう。「立ち向かう」しかないのだ。
我が神が、宣戦布告しちゃったんだもの。おぉ。これが本当の「聖戦」だ。
「あ、今、ユニークスキルもらっちゃった」
「当ててみましょうか? スキル名「聖戦」でしょう?」
「え? 何でわかったの?」
わからいでか。問題は、その内容か。
「えーと。スキルを発動すると・・・。死が怖くなくなります。だって。よかったね」
「ガクガクブルブル」
なんて、恐ろしいスキルだ・・・。
「何を言い合っているのかわからんが、おとなしく生け贄になるのだ」
「ロイエ様、あの者たちだけは許してあげください! 私と同じ世界の人なの!」
「ええい。うるさいうるさい。こうなったら、評価が下がるが、あの方にお願いするしか無いか・・・。契約の元、おいで下さい! ヴィック様!」
「!」
どうやら、我々のことを、過大評価して頂いているようだ。
隣で、ユカリが息をのむのがわかる。そりゃぁそうだろう。神を降臨させるのだ。かなり高位の僧侶で無ければ無理だ。しかも、呼び出す神様が義兄妹の誓いをした相手となれば、なおのことであろう。
ロイエさんが、印を結び、懐から出した瓶に人差し指を入れて、空中になにやら魔方陣を描き出す。止めたいけど、遠い。むりっぽい。
「カーミラ嬢! ロイエさんを止めて下さい! 今ならまだ、引き返せる! それに、ロイエさんを止められるのは貴女しか居ないはずだ!」
「え・・・でも・・・。どうしよう」
こういうときに限って、優柔不断なんだから☆。二律背反なのはよくわかりますけど。
そうこうしている間に、広間の空気が重くなった、気がする。若干空気が澱でんできたような・・・。
ロイエさんが描いた魔方陣が独りで動き出す。広間の中央まで飛んでいったかと思うと、地面に落ちた。そうして、ゆっくりと、垂直に登っていく。その、魔方陣が過ぎていったところから、爪が立派な獣のようなつま先が、毛むくじゃらな足が、赤黒い胴体が、丸太のようにでかい腕が、そうして、悪魔のような形相の顔が、角をもった頭が出現した。頭まで出した魔方陣は、そのまま空気へ解けるようにして消えていった。
「おぉ。ヴィック様・・・。お待ちしておりました!」
「え? ヴィック様、こいつが?」
「ん? ヴィック兄さん? あれが?」
「おや? ヴィック様ではないんでは・・・?」
「フハハハハハハ。ようやく、儂の出番か。ロイエよ、よくやった。アレなら、生け贄一千人分すらも凌駕するぞ!」
「はは! ありがたきお言葉!」
「ロイエ様・・・。そいつは・・・」
「こら! カーミラ。神様に向かって、そいつなんて。ヴィック様申し訳御座いません。後で、きつく叱っておきます」
「よいよい、気にするな。大事の前の小事である」
「寛大なご配慮、ありがたく!」
あぁ、ダメっぽいなぁ。もしかしたら、ロイエさん、洗脳か、それに近い精神汚染受けてそうだ。
それに気づいたのかカーミラ嬢、ぶつぶつと、なにやら唱え始めた。時間を稼がないと。そう思った矢先。
「そこのレッサーデーモン! 敬虔なヴィック兄さんの信徒を騙し、さらに、カーミラちゃんまで、こき使わせるなんて、ゆるさない! 私がここで成敗してやる!」
威勢がいいなぁ。かっこいい。実力が伴っていれば、なお良いのだが。
過程はどうあれ、向こうの意識はこちらに向いた。カーミラ嬢とアイコンタクトを取る。細かい連携は無理でも、何とかしてくれるだろう。
カーミラ嬢が、なにやらぶつぶつと唱えて、ロイエさんに向かって走り出す。そうして、私が受けたように、身長差をモノともせず、ロイエさんの頸・・・ではなく、頭に触る。
途端、びくっと、ロイエさんの体に、電気が流れたように痙攣をして、そのまま意識をなくしたように、膝から地面に倒れかかる。倒れる寸前、その体は小さなカーミラ嬢によって抱きかかえられ、その場を離れるように、広間の隅っこへ移動する。
その間、レッサーデーモン閣下は、にやにやしながら、私たちと、カーミラ嬢を眺めていた。余裕ですね。しゃくに障るぜ。
「まぁ、十分楽しんだしな。哀れな子羊ちゃんは、ご退場願おうか。くひひひ。人間というのは、本当に愚かで面白いなぁ。やめられん。そして、今回は、神様が生け贄だなんたなぁ。ついてるぜ。レッサーから、グレーターに昇格できんじゃね? くへっへっへっへ」
きっ! とレッサーデーモンを睨み付けるカーミラ嬢。怖い前に可愛い。
「・・・許せないわ。やっておしまい!」
「あらほらs・・・げふげふん。くはー。空気が悪いみたいだ。咳き込んでしまった」
それを見ていたレッサーデーモンさん。おもしろおかしそうに言った。
「そうだなぁ。気丈な女の子を、いたぶっていたぶって、最後に、殺して下さい! と懇願させるのもいいなぁ。見てみたい。ようし! まずは、こいつらで、あそんでやらあ!」
と、大きな無骨な指を、パチンと鳴らす。なんと、地面に十個の魔方陣が突然現れて、骸骨が召還された。
ピンチ!
こういう時こそ祈ろう! 助けて神様!
「うーん。そう言われても」
く。神が隣に居るのに。
「ごめんなさい。まだ、力が弱い神様で」
いえ。そんなことは・・・あるけど、しょうが無い。
しかし、僧侶なら、アレをもっていてもいいのでは無いか。そう、アンデット系に、よく効く、例のアレ。実に欲しい。神様おねがい!
じりじりと、骸骨どもが近づいてくる。スキル「聖戦」中なので死ぬのは怖くないけど、それとは別に、ホラーとして怖い。
このままだと、ユカリを守れずに死んでしまう。それが一番怖い。なんとしても避けたい。なにか方法は無いものか。アレさえ手に入れば!
ピコン。
【ユニークスキル:ターンアンデット を入手しました。
スキル説明:死者属性のモンスターを退散させる。】
来た! 待ってました!
ここで、使わないでいつ使う!
「死者どもよ! えーと・・・。ターンアンデット!」
いい言葉が思い浮かばなかった。ちゃんと、考えておこう。
両手をかざす。柔らかな光が、骸骨たちにふりそそず。そうして・・・。
くるっ。くるっ。くるっ。
と、方向転換をして、通路の方へ進み、そのまま退場していった・・・。
「あぁ、こっちのターンか・・・」
つまり。地面へ還るではなく、方向転換の方か・・・。昔のTRPGにはあったんですよね。通称赤箱に入っているソロシナリオで、愕然とした記憶がありますよ。
「うわっ! こいつらなんだっ!」
「くっ。隠れているのがばれたのか! やっちまえ!」
おや? 通路の奥から声が聞こえるぞ? さらに、剣劇が聞こえ始めた。
ふと、カーミラ嬢と視線が合った。にっこり笑って、かわいらしい右手をぎゅっと握って、小さな親指を立ててから、首をかききる仕草をして、親指を上向きから下向きへと、くいっと・・・。あぁ、ごめんなさい。そんな、ロイエさんの精神汚染を解除中にも関わらず、そんなことするなんて。
「ああ! もう! せっかく、冒険者に小芝居打ってもらって、こっそりきてもらったのに!」
色々とごめんなさい。「受難の日々」クエストは、どうやら、私も駒の一員のようです。
「おやおや。遊んでいる時間はなさそうだなぁ? 仕方が無い。終わらせるか」
ずしん。ずしん。と一歩一歩近づいてくる。
ユカリの前に立って、せめて盾にでもならないと。
「ユカリに指一本だって、触れさせるもんか!」
ずしん。とうとう、目の前まで来た。私の後にはユカリ。ユカリの後ろは壁。カーミラ嬢も何か呪文を唱えているが、どうやったって間に合わない。それに、多分MPがない。ロイエさんの回復で手一杯だったはずだ。期待はできまい。
「ユカリ。すぐに逃げて下さい。おそらく、通路の奥に冒険者がいますから」
返事を聞く前に、レッサーデーモンに飛びかかるが。
「はいはい。雑魚はさっさと、死んでくれ」
頭を、その大きな手で、わしずかみにされた。片手だけで。
足が地面から離れた。ミシミシと、頭が押しつぶされる感覚を味わう。
「こら! ノウンを離しなさい!」
「ユカリ・・・逃げて・・・」
「ノウンをおいて逃げられるわけないでしょ! そんな事をする神がどこにいるのよ!」
涙がでる。感謝ではない。
悔しくて。自分自身に。
悲しくて。護ってあげられない事に。
苦しくて。何も出来ないこんな自分に。
怒りで。護ることも出来ない存在意義の無い自分に。
ピコン。
【ユニークスキル:聖騎士化 を入手しました。
スキル説明:戦闘中聖騎士になる。
スキル説明補足:戦闘終了後、聖騎士化の時間に応じて成功判定をする。
スキル説明補足:100分以上は100%即死(判定不可能)。それ以下の時間であれば、一分(端数切り捨て)ごとに1%づつ減少していく。一分未満であれば0%。】
私は迷わない。神を護るのだ。
カミラ「ノウンさん、漢ですね!」
ノウン「いやー。あっはっは。照れます」
ユカリ「途中が残念ではあるけどね」
ノウン「でも、次回戦闘入るでしょうけど。戦闘って苦手なんですよね。描写が」
ユカリ「大丈夫よ。戦闘以外も苦手でしょ?」
ノウン「ごもっとも」
がんばります。