26.リアムの本音
リアムから言われたとおり、パーシヴァルは魔族が見えたそばから攻撃魔術を撃ちまくった。リアムは最中にも声をかけ、狙いを修正してくれたため、パーシヴァルは考える必要すらなかった。
リアムはパーシヴァルの狙いを確認しつつ後方からの攻撃への反撃も忘れず、二人は着実に死体の山を積み上げていった。
魔力が減ればリアムが供給してくれる。
人の目がないのをいいことに遠慮はばかることもなく、減っては注ぐを繰り返して何千という魔族を全滅させた。
「……もう、いいだろう。殿下たちのところへ戻ろう」
リアムはパーシヴァルへの供給を終えると後ろへと回り、頷いたパーシヴァルはリアムを背負って飛翔の術を発動させた。
互いに疲れた様子は微塵もない。パーシヴァルは何度となく魔力を枯渇させたが、そのたびにリアムから魔力を得て、今はたっぷりと睡眠をとったあとのように元気である。
誰が信じられようか。
まるで天災のごとく、何千という魔族が瞬時に命を散らしたのだ。遠目から見ていた人たちは、何が起きていたのか、まったく理解できなかったことであろう。
おそらく間近で見ていたとしても、納得はいくまい。個人で持つには畏怖をも超える力である。
魔族がどれだけ襲い来ようと、たった二人だけで無に帰すことができる。まさに無敵とも言える力だったのだから。
「いたぞ!」
パーシヴァルたちが飛び立ってしばらくしたとき、真下のほうから声が聞こえてきた。見ると森の中にうん百人という大勢の姿があった。怪我をしている者や倒れて動かない者、彼らを治療するためか走り回っている者などがごった返している。
「パーシヴァルだ!」
続いて呼びかけられた声に驚き、パーシヴァルは飛翔を止めて空中に停止した。
「あいつがやったんだ」
「すべての元凶だ」
そのとき、かつんっと、パーシヴァルのすぐ近くで何かがぶつかり、目の前で跳ねて、落ちた。
しかも一度で終わらず、バラバラと続いていく。
「どういうことだ?」
リアムの不思議そうな声がする。しかし、パーシヴァルはわけがわからず困惑し、答えることができないでいた。
「魔術師のくせに人間を苦しめたんだ」
「違う、あんな魔力を持つ人間なんているはずがない」
「あいつは魔族だ」
「魔族のくせに人間の振りをしていたんだ」
次々と浴びせられる怒号に重なって、石や木くず、ナイフや瓦礫までもが振り注いだ。パーシヴァルにまで届かず手前で落ちていくものもあったが、次々とひっきりなしに何かが投げられてくる。
「避難した王都の者たちかもしれないな……しかし、なにを誤解しているのやら」
リアムはまるで相手にしていない様子だ。
「……おい。あんなもの無視しておけ。とりあえず、殿下たちの元へ急ごう」
リアムは止まったまま呆然としているパーシヴァルを気遣ってか、優しげな声音でささやいてくれている。
恐ろしくてたまらなくなっていたパーシヴァルは、リアムから案ずるように撫でられてはっとし、逃げるように再び上昇した。
どれほど重いものをぶつけられようと、怪我まではしない。防衛魔術は堅固で、常時まとっている。
ただ、これまでに聞いたことのないような言葉が、パーシヴァルの精神を傷つけていた。
国防は義務である。いくらなんでも魔族の味方はしない。心の中で応援したとはいえ、現実には魔族を攻撃して多くを殺傷した。
それなのに、である。元凶だ人間を苦しめたなどと言われるとは。そんな筋合いはないのに、しかも魔族であるとまで言われる意味がわからず、パーシヴァルは狼狽えた。
「あんなの気にするな。おまえの術が凄まじかったせいで、混乱しているだけだ」
わかっている。だけど、わからない。
助けたのに、なぜ非難されなければならないのか。
動揺のせいかスピードは出せず、散歩をするような速度で飛んでいたパーシヴァルたちに、またも何かがぶつけられたようだった。防衛魔術によって跳ね返されたまのの、ひどく重いものだったらしく、地面に落ちたときに大きな音を立てた。
驚きつつ見ると、一人で抱えるにはぎりぎりというサイズの岩だった。投石機のようなものでぶつけてきたらしい。
敵に使うものを味方に、しかもたった今彼らを窮地から救ったばかりの英雄たちに向けるとは、さすがに唖然とする他ない。
絶句していた二人のところへ、今度は遅れて矢の雨が降り注いできた。
「待て! アーシュウェン公爵の子息が一緒だぞ」
「なに? リアムが? リアムは英雄だ。攻撃してはならない」
「人質に取られたらしい」
「アーシュウェン卿が寝返るはずがない」
「召使みたいに奉仕させられてるんだ」
「屈辱だろうよ」
奉仕、屈辱、耐える。
リアムから聞いたことのある言葉だ。
リアムはあのとき、まるで血反吐とともに吐き出したのごとく苦々しげに、屈辱を噛み締めた顔でそれらの言葉を放った。
パーシヴァルは全身の血が抜け出たように感じて、ふっと地面に落下した。そこまで危険な高さでなかったため、リアムは軽やかに着地し、パーシヴァルは防衛魔術によって衝撃を緩和しつつも無様な姿で地面にぶつかった。
「なにやってんだよ」
駆け寄ってくるリアムを見て、パーシヴァルは目を逸らしながら立ち上がった。
なんたることか。恥ずかしくてたまらない。
頭がずきずきとして痛み、目の前が真っ暗で何も見えない。とにかくリアムから離れたいとの思いで、パーシヴァルはひとり空へと飛び立った。
「……って、いったいどこに行くんだ?」
なぜリアムの本心を忘れてしまっていたのか。
彼はパーシヴァルを憎み、自身の異能力を呪っていた。
自分の手で敵を打ち倒したかったのに、できないばかりか、魔術師の餌になるだけの存在だと言って卑下していた。
自己犠牲の精神で魔力を供給してくれていただけで、本音ではパーシヴァルのことを憎悪していた。はっきりと口にしていたではないか。
なぜ勘違いしていたのだろう。リアムもパーシヴァルと同じ感覚を共有していたなどと考え、あまつさえ感情をも互いに向け合っていたなどと、なぜ期待してしまっていたのだろう。
パーシヴァルは最初に己を恥ずかしく思い、次に絶望し、最後にこの世界から消えてなくなりたいと強く願った。




