24.掘り下げたくない本音
リアムはパーシヴァルに対して特別意地悪ではあるが、魔術師であるという理由から、頭ごなしに差別していているようには感じられない。
当てこすりはすれど、内容は正論ばかりであるし、陰でこそこそ揶揄することもなく、堂々と本音を言ってくれる。
「どこか、立ち止まれる場所に行きたいんだけど」
「いきなり、どうした?」
「……ちょっと、試したいことがあって」
リアムは不服そうにしながらも頷き返し、スタンリーたちに声をかけて進行方向を変えてくれた。
数分ほど走って細路地へと入った一向は、行き止まりへとたどり着いた。四方を囲むは民家のようで、避難しているのか人の気配は感じられない。
魔族が攻撃するにしても上方と前方さえ見張っていれば済むような狭さだ。
パーシヴァルは目をつむって集中力を高めたのちに、付近にある木くずを召喚させた。
突如空中に木片が現れて首をひねったリアムたちを尻目に、パーシヴァルは魔術を使って木片を割って切断した。
二分ほどのことだった。整えられた木片は組み合わされ、簡易的な箱のようなものができあがった。作業の途中に魔族が現れたが、幸いにも数は少なく邪魔にはならなかった。
「いったいなんの真似だ?」
「これに乗って」
パーシヴァルは乗り込みながら大真面目にも三人を促した。大の男が四人も乗ればぎちぎちと言ったサイズではあるものの、狭い路地でつくるにはこれが精一杯だった。
「人を運ぶ飛翔の術はできないって言ってただろ?」
訝しげに見やってきたリアムに、パーシヴァルは笑みで答えた。
──できるかどうかじゃなくて、すべき場面だろ?
「行くぞ」
全員が乗り込んだのを確認したパーシヴァルは、飛翔の術で箱を浮遊させた。
がくんと傾ぎながらも、箱は浮かび上がり、上昇を始めた。
「やるな」
落ちたら大怪我では済まないという高度にまで至ったとき、リアムが感心の声を出した。パーシヴァルは思わず口元をほころばせたが、隠すように咳払いをひとつした。
感心させるためではなく、自負でやったことである。魔術師が人間のお荷物でいることに耐えられなかったから。だからと考えあぐね、大広間で得た知見から思いついたことを実行してみたのだ。
クリフォードから習った中距離魔法は、基礎魔術をかけ合わせた応用技だった。そこから、大勢を運ぶというのはつまり飛翔と物体移動の応用なのではないかという気づきを得たのだ。
極めつけは魔法陣である。
これまでのパーシヴァルは、術を発動するときに、絵や音なんかの概念ではなく、形容のできないぼんやりとしたものでイメージを練っていた。霧や雲が数秒として留まらないように、捉えどころのないものを明確に意識することは難しい。
しかし、魔法陣という術の形体を理解したパーシヴァルは、とたんに習ってもいないこれまで修得してきた術の輪郭が明瞭となったのである。
習得済みの基礎魔術を組み合わせて例の文様をつくりだせば可能なのではないか。考えて、パーシヴァルは見事実現させた。
誰も知らぬところで、本人さえも無自覚ながらに、天才は天才たらしめる奇跡を起こしていたのだった。
「宙にいるやつらはみんな姿を消しているな」
飛翔しているさなかにも、リアムとスタンリーは互いに背を向け合って敵を打ち倒してくれていた。
「どこへ向かう?」
中央でポーションを手に目を光らせていたルーファスがパーシヴァルに声をかけた。
「ひらけたどこか……避難者のいない場所はないでしょうか?」
「そうだな。モロショフ高原はどうだろう?」
ルーファスの提案にリアムたちも同意の声をあげ、南西へという指示のもと、パーシヴァルは舵をきった。
空中を進むパーシヴァルたちはかくも目立っている。
魔族たちは狙いを定めたかのように群がってくるため、あえて透過の術をかけず、的となるようにして待ち構えた。
「このくらい離れたら、非戦闘民はいないよね?」
しばらくして、パーシヴァルはリアムに問いかけた。
「ああ。派手にやれ」
説明するまでもなく理解してくれたリアムはにやりと笑みを浮かべ、パーシヴァルも微笑み返して術を発動させた。
直後にあたりは目を覆うほどの光に包まれた。
もし、注視していた人がいたら、箱そのものが自爆したものと驚いたことだろう。
突然箱から放射状に光が放たれ、雷鳴のごとくの音が響き渡ったのだ。
音と光が余韻をさらって掻き消えたころ、地面にはおびただしい数の魔族が倒れていた。その数、何千という規模である。
「どんだけの力持ってんだ」
ぴゅうと、スタンリーが口笛を吹いた。横にいるルーファスは絶句という様相で口をぽかんと開けている。
「どれくらい減った?」
リアムはといえば、鋭いといえるまでの視線でパーシヴァルを見据えていた。主語がなくともなにを知りたいのかはわかる。
「三割もいかないくらい」
パーシヴァルはざっくりとだが計算して、消費した魔力量を伝えた。
「……今ので?」
驚いた顔を見て、自分も同様であると言いたかったが、パーシヴァルは口をつぐんでおいた。
放ったばかりの魔術は、前日魔族に対抗して放った攻撃魔法と等しいほどの規模だった。リアムは魔力に関して門外漢だが、騎士としての鋭敏な感覚から察知できたのだろう。
わずか一日で魔力の総量が三割ほど増えていた。なぜと考えるなら、リアムから供給されたから以外にないが、方法が方法だけに深く説明するのを避けた。
「おい、あそこにもいるぞ」
スタンリーの声を聞き、パーシヴァルは反射的にそこへも攻撃魔法を放った。
「あんな威力じゃなくてもいいんじゃないか?」
「あ……うん」
「狙えないから威力でカバーするしかないんだ」
口を挟んできたリアムの解説にムッとするも、事実である。彼のお陰で限界というものがないも同然という状況で抗議するのは大人げない気がした。
そう。パーシヴァルは無敵ではない。しかし、リアムの存在があれば違う。
リアムがいるから、無尽蔵に魔力を消費しても回復してもらえる。まるで魔法のように。
もし、リアムの存在がなければ、率先して攻撃しようなどとは夢にも思わなかっただろう。クリフォードと合流するまで王族の護衛に徹し、未熟だからと言い訳をして、人や魔族が死んでいく様をただ眺めていただけに違いない。
リアムがいるから、底なしに魔力を使うことができるのである。
だからとパーシヴァルは思考を止め、深く掘り下げてまで考えないようにしていた。
逃亡を願っていたはずの人類に手を貸し、応援していたはずの魔族を攻撃している。以前の自分からは考えられない行動を取る理由を、追求しないように努めていた。
──あの美貌は、悲しみに陰るよりも、喜びに輝くほうが映える。
しかし、パーシヴァルの奥深くにある想いは、無自覚ながらに行動として現れ始めていたのだった。




