21.才能と性格
育ての親であるヒューゴは、人好きで社交的な人物だった。
魔術師の中でも珍しいタイプだったが、弟子のクリフォードも同様で、彼は生まれた時に魔力を感知されなかった世にも珍しい経歴を持っており、五歳まで親元で育てられていたことから、友人と呼べる相手すらもいたほど、擦れていなかった。
親の背中を見て子は育つ。パーシヴァルはそんな二人から家族のごとく育てられたのだ。幼い頃のパーシヴァルは、なんの疑問も抱かず人間だろうと心を開いていたし、当然のように積極的に関わってもいた。
ヒューゴやクリフォードとともに王都へ連れてこられたときも、街の子どもたちと一緒にかけっこをしたりボール遊びや読書などをして過ごすのが常だった。
ただ、親の背中を見て子は育つというのは、誰の場合にも当てはまるものである。親の価値観は子に引き継がれ、口にしたものは口にしてもいいものだと解釈してしまうのも世の常だった。
子ども心には魔術師がどういう存在であるかわからずとも、親の態度や視線、ふと漏らした言葉の端々から、パーシヴァルは自分たちとは違う存在であることをなんとなく感知してしまう。
成長するにつれ子どもたちは、パーシヴァルを区別し、果ては差別するようになり、心ない言葉をぶつけてもいい相手だと見做すようになった。
見た目は同じ人間であり、以前と何も変わらないのに──
パーシヴァルは戸惑った。友人が突如変貌したことに悲しみ、理不尽にも差別されることに苦しんだ。あげくに自己を守るため、心を閉ざす以外になかったのだ。
人から敬われても、同時に恐れられては心から喜べるものではない。
最初は、ただ純粋に特技があるとだけしか考えていなかった。強さがあるなら守ることができるし、便利な能力があるなら助けてやれると考えていた。
人を守るための存在でありながら、その庇護する対象から嫌悪されては、気持ちのやりどころを他に求めるしかない。
パーシヴァルの求めた先は、自分が高位の存在である自負と、いつでも相手の運命を変えられるという傲慢さだった。
生かすも殺すも魔術師なら自由にできる。人間は虫けらであり、魔術師の気持ちひとつで幸福にも不幸にもなれる。という、能力に対する自負しか、すがるものがなかったのだった。
「パーシヴァル?」
クリフォードから呼びかけられ、パーシヴァルははっと現実に意識を戻した。
あたりを見渡すと、パーシヴァルは五人の魔術師からの視線を集めている。そう言えば今は朝で、ここは王城内の大広間だ。
「この中じゃパーシヴァルが一番遅れているんだから、しっかりしてもらわないと困るよ」
優しげな口調にも呆れを含ませたクリフォードは、言うと四人の魔術師たちのほうへと向き直った。
昨夜クリフォードが部屋を出たあと、パーシヴァルは眠れない夜を過ごした。朝方ようやく眠りにつくことができたと思いきや、数時間と経たずに叩き起こされたのである。
まさか敵襲かと驚いたパーシヴァルだったが、クリフォードから聞いたのは、王都にいる魔術師たちを集めて攻撃魔術の訓練を行うという話だった。
午後からはそれぞれの小隊と合流して出立するため、午前のうちに可能な限りを伝授するつもりだと言って集められたのだ。
「じゃあ、まずは中距離の攻撃を教えるよ」
クリフォードは続けて魔術の呪文を口にした。
魔術には詠唱という段階がある。慣れた者は唱えずとも発動できるようになるものの、修得するためにはまず言葉を覚えて頭にイメージをつくりだす行程が必要となる。新しく覚えるときは、師によって手本を見せてもらいながら、その呪文を頭に叩き込むべくイメージをつくっていくのだ。
「いいかな? 次は実演して見せるね」
すると壁に毛皮の帽子でも当たるような音がして、クリフォードの放った術が掻き消えた。
「遠距離のは基礎で習うものだから、みんな使えるよね? 今のを覚えてもらったら最後は近距離だよ」
クリフォードは、ユージーンを筆頭とした魔術師たちの中で、次点についている存在だ。比類なき魔術の知識と外交能力の高さがゆえに尊敬を集めているからだが、しかして秀でているのは知識の深さだけであり、魔術師としては逆の意味で比較にならない面も持っていた。
クリフォードは他国の魔術師からも畏敬の念を集めていながらも、魔術の威力という点では最弱ともいえる能力しかないのである。
「じゃあ、それぞれやってみて」
パーシヴァルを含め、五人の魔術師たちは詠唱し、クリフォードのして見せた術を発動させた。
さすがの彼らは数回繰り返す程度で難なくものにできている。
「うーん。パーシヴァルはまず暗唱を完璧にしてからかな?」
パーシヴァル以外のメンバーは、である。パーシヴァルは何度試してもまったく発動できなかった。
従軍する魔術師の中で、成人したばかりのパーシヴァルは当然最年少となるが、才能という面では圧倒的なものを持っている。スロンベリー国内だけでなく、おそらくは他国も含めパーシヴァルの潜在能力に匹敵する者はいない。
当時最高の魔術師であったヒューゴが師となったのは、パーシヴァルの魔力が尋常じゃないからというのが理由だった。パーシヴァルの才能は、並の魔術師では持て余してしまう。
そのため慎重に育てられることとなり、本人には自身の尋常ではない才能を伝えられなかった。お告げをたまわるのは成人してからというのと同じ理屈で、驕りは成長を妨げるとして、特別扱いはされずに育てられたのだ。ただ、クリフォードやユージーンはもちろん、他の魔術師たちには周知のことではあった。
知らぬは当人ばかりなのである。
「パーシヴァルはそうだな……一回休憩したほうがいいかもしれない」
「休憩?」
「覚えきれないからイメージができないんだろう? 暗唱のまえには暗記だ。休憩して頭をすっきりさせたら、もう一度教えてあげるから」
クリフォードからの気遣いにパーシヴァルは項垂れ、何も言わずに広間の隅へ行ってしゃがみ込んだ。
──俺ってば、本当に才能がない。
パーシヴァルは最強でありながら欠点のほうも抜きん出て多い。知識さえも年少の者に劣るばかりか、物覚えも一番悪いのである。
パーシヴァルが怠惰極まりない生活を送っているのは、自分を無能な未熟者として卑下しているからであり、自虐的で後ろ向きな考えを持っているのも、二人の尊敬する師たちに遠く及ばぬ自分を苛んでいたからだった。




