19.それ、どういう意味?
パーシヴァルは頭を抱えた。隣には力尽きて眠っているリアムがいる。
一人用の狭い寝台のうえで、成人した男が二人。まるで愛し合う者同士が寄り添い合っているかのようである。いや、口づけなんて行為で言えばまさしくのことだが、目的が違う。愛し合うためではなく、魔力のためなのだから。
しかし、魔力のためと言いながら、充填されたあともパーシヴァルはもう一度と何度も求めてしてしまった。終えてもさらにもう一度と言って求めて、リアムを部屋へ帰らせなかったのである。
リアムは朝から晩まで休みなく奔走していた。疲弊してしまうのも無理はない。疲れ果てたとばかりにベッドに寝転んで、寝息を立て始めてしまった。
その横でパーシヴァルは目が冴えて眠れなくなってしまった。体力や魔力が、これまでにないほど満ち満ちていていては眠れるはずがない。
そう。パーシヴァルは以前にも増して力がみなぎっていた。
今もし敵が目の前にいたら、未来の雷雲さえも前借りできるのではないかとすら思うほど力に満ちており、クリフォードやヒューゴが見せてくれた攻撃魔法も、見様見真似で発動できる気さえした。
瀕死の状態からわずか二時間で、不可能も可能にできると思えるほどに元気いっぱいなのである。
リアムの力はどういったものなのか。
魔力を与えた分、リアムの体力が減っている様子はない。単に疲労といった様子である。
横ですやすやと眠るリアムを見ながら、パーシヴァルは思い出して頬に熱をためた。
口内に満ちた甘みと、深く浸透してきた濃厚な魔力。何度味わっても尽くせないほどの甘美さだった。
パーシヴァルはごくりと唾を飲み、眠っているリアムのうえにかがみこんで、その口に自身のを重ねた。
「なっ……ふざけんな!」
さすが騎士の感覚は鋭敏だ。触れてすぐに覚醒し剣を手にかけたが、パーシヴァルであることに気づくと「信じられねえ」と言って脱力した。
「俺はおまえの餌じゃない」
刃を向けられず安堵したパーシヴァルだったが、見透かされたような言葉を吐かれて、顔を強張らせた。
「そ、そんなことわかってる」
恥ずかしい。考えなしにも程がある。羞恥に耐えきれずパーシヴァルがうつむくと、リアムはやおら寝台から下り、床に落ちていた衣服を身につけ始めた。
「……事実、俺は餌だな。毎日必死になって鍛錬を積んでもなんの意味もなかった」
シャツを羽織りながらリアムは言い、はっと鼻を鳴らした。
「魔族の前では虫けらでしかない。強くなるため……国民を守れるだけの力をつけるために努力してきたのに……」
苦々しげに言うリアムの目は虚ろに揺れ、窓から差す鈍い月の光を反射させている様は悲壮感すら漂わせている。
「そんなことない……魔族を何人も倒していたじゃないか」
だからだろうか。そのつもりはなかったのに、なぜかパーシヴァルの口から反論の言葉がまろび出た。
パーシヴァルは確かにリアムを見下していた。足掻きもがく姿を見て、鼻で笑うほどではなくても、無駄なことをと呆れた目を向けていたはずだった。
ただ、リアムの剣技を見て感心したのも事実であり、リアムのお陰で自分の心臓は止まらなかったという現実もしかとある。そのせいか、リアムに対して自らを貶めて欲しくないという想いが胸のうちに芽生えていたらしい。
「はっ」
しかしそんなパーシヴァルの反応を無下に、リアム当人がまるで自分を卑下するように鼻で笑った。
「……俺は俺自身の手で守りたかった。敵わずとも、この腕で国民を守りたかった。それがどうだ? 俺にできることはおまえに魔力を与えることだけだ。まるで家畜のようにな」
「家畜?」
「……餌ってのつまり、家畜と同義だ」
リアムは言って、苦痛でも受けたように顔を憎々しげに歪めた。
「必要なときに求めるものを差し出す、つまり奉仕だ。いかに屈辱極まることでも、耐える以外にできることはない」
奉仕、屈辱、耐える。
リアムの並べた単語を聞いて、パーシヴァルは目の中にチカチカとした星を見た。
何度も求めたあげくに、またも恥ずかしげもなく欲してしまった。まさについさっきの出来事である。
痛みはないのに、強く頭を殴られたかのようだ。
「お告げなんて信じる必要はないし、その通りに行動する義務もない。が、俺の行動如何で生命が左右されるというなら、選択する権利はないだろ……忠誠を誓った身にあるのは義務だけなんだから」
声を震わせ、消え入りそうに言ったリアムの言葉を、パーシヴァルはよく飲み込めなかった。
「……それ、どういう意味?」
聞くもリアムは答えてくれず、しばしぼうっと宙を見ていたかと思えば、残りの服をぐしゃっと丸めて手で掴み、部屋のドアに手をかけた。
すると、リアムが開ける直前にドアが開き、クリフォードが顔をのぞかせた。




