愛を込めて青い花を、キラリ⭐︎
吉岡先生はササを抱えてハヤミと一緒に崖の上に移動した。
すでに陽は落ちた。夜を迎えたニノ村のこの海岸には、ハクボザキの花だけが青く輝き、砂浜を照らしている。
だかそれも長くは続かないはずだ。ハクボザキはゆっくりと花弁を畳み始めている。
私だけは木の下で待機(崖に登る体力がない)この位置からは三人の姿は見えないが、ハヤミが私に準備ができた事だけを声で伝えてくれた。
「行くよ!光源魔法!火炎魔法!」
崖の上がパァーッと明るく光る。
この村に来る途中でハヤミが使った魔法を利用するのだ。ただし、明るくしただけでは意味はない。私は前もってハヤミに光源魔法は光の色を変化させることごできるかを確認していた。
ハヤミは光源魔法と火の魔法を同時に使用すれば可能だと答えた。
それを今、ぶっつけ本番でやろうとしている。
「ハヤミ!もっと赤味と黄色を強くできる!?」
私は崖下からハヤミに指示を出す。
「わっかんない!こうかな!?ううう〜!」
どちらの魔法も単体使用なら、さほど魔力は消費しないが、同時使用となると消耗が激しくなるとあらかじめハヤミ予想はしていた。
「ハヤミ!しんどいけど!頑張って!」
ハヤミの光源魔法がどんどん橙色に変化してゆく。
近い!かなり夕日に近い色になった!ハヤミは見事崖の上に夕陽を再現させたのだ。
私たちはハヤミの魔法で『擬似夕陽』をつくった。ハクボザキが夕陽に反応するタイプの草花なら、これであの花は崖の方を向くはずだ。
「お願い!ハクボザキ!夕陽はあっちよ!」
私は両手を胸の前で組んで祈っていると。浜辺を歩いて私へ近づいてくる二つの人影に気づいた。
「アンタ達、すごいことしてるじゃないか!」
酒場のおばさんと、ササのお母さんだった。
「妹にさ、息子の勇姿をみせてやろうと思って無理矢理連れてきたんだ」
おばさんは私はにウィンクした。ササのお母さんはおばさんの後ろに立って伏目がちな表情をしている。
崖の上から三人が叫ぶ声が聞こえた。
「良い子だからこっちを見てぇ!」
「ハクボザキよ!お前の好きな夕陽だぞぉ!」
「こっちを向けぇぇ!俺を見ろぉぉ!!」
ササの声に反応して母親が崖の上に視線を向けた。
するとハクボザキの花は、オレンジ色を放つ崖の方へゆっくりと振り向きはじめた。
「いける!落として!」
ビュン!
崖の上から射出された円盤は回転により速度を早めながら花へ向かって一直線に飛んだ……そして
ザシュッ!
ササの投げた円盤はハクボザキの花、本体よりやや下の花柄の部分を撃ち抜いた。
木から切り離された花は、一瞬宙を舞い、砂金のように輝く花粉を散らしながら砂浜へ落ちてゆく
息を呑むほどにその美しい光景が、私にはスローモーションのように見えた。
やった、ササがやってのけたんだ!
おばさんは信じられないと言った顔で両手を口に当てている。
刈り取られた花は砂浜へ音もなく落ちた。するとササのお母さんがゆっくりとハクボザキの花の所へ歩いてゆく。
崖の上では三人にが一同に歓喜している声が聞こえると、ササが崖から顔を覗かせた。
「母ちゃん!?」
ササは母親の姿を見るや、そこからゆっくり崖を降り始める。
ササのお母さんは砂浜で青く輝くハクボザキを両手で優しく拾い上げ、人と比べて見ると随分と大きな花だ。それを胸の高さまで持ち上げた。
花は母親の顔を照らし、彼女の頬を伝って流れる涙を光らせた。
突然ハクボザキの花が強く光り、母親の周辺に、さっきより強くキラキラと輝く花粉を放出した。
その一粒一粒は輝きを放ち、やわらかな海風で砂浜を舞い踊る。
まるで空からたくさんの星が落ちてきたような幻想的な風景が私達の目の前に広がった。
「母ちゃん!」
崖を直接降りてきたササが母親の前に立った。
両手にハクボザキを持つ彼女の瞳には、ササとあの日のタンクが重なって見えているのだろうか。
「ササ……」
ササは息を整えた後、母親にこう言った。
「おれに父ちゃんのかわりはできない!でも、これからはおれが母ちゃんを守るから!だから…いますぐにじゃなくていいから……元気出してくれよ!」
「ササ……ありがとう……」
母親はササをそっと抱きしめて泣いた。
おばさんも涙を拭っている。
「いつの間に成長したんだい、あの子は……」
吉岡先生がハヤミをおんぶして崖を遠回りして降りてきた。
「凄い……まるで宇宙の中にいるみたいだ」
この煌めく砂浜におりたつ人は、誰しもが感動するであろう景色だ。
吉岡先生とて例外ではない。
「きらりぃぃ〜、やったねぇぇえ〜……へへへ」
魔力が尽きてヘロヘロになってしまっているハヤミが力無い笑顔で私にタッチしてきた。
「ハヤミごめん!無理させちゃったね!ごめんね!」
先生はどうせ泣いてるんだろうなと、顔を覗き込むと、少し悲しそうな顔しいた。
……珍しいな
まぁ、いいか。
かくして十歳の少年の願いは叶った。
ニノ村の砂浜をハクボザキの輝く花粉が乱舞している。
二人の親子のこれからの未来を祝福するように。
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私は彼らの様子を黙って見守っていた。
大切な人を守ると決意するササの姿は、幼い時の吉岡先生にそっくりだった。
ただ、貴方は、それを叶えられなかった……




