↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
73/75

第73話 魔王と勇者の合同記者会見 〜全世界同時配信「神様(運営)に凸してみた」〜

 魔王城、転移の間。

 幾何学模様の光が収束すると、そこには一人の少女と、撮影クルー(パーティメンバー)が立っていた。


「来たわよ魔王! ……って、ひっどい顔ね」


 勇者エミリアが、開口一番に言った。

 俺――アルスは苦笑する。瓦礫に埋もれ、魔力を使い果たし、徹夜明けの顔だ。ひどくて当然だ。


「お互い様な。目の下のクマ、コンシーラーで隠しきれてないぞ」


「うっさい! 誰のせいで寝不足だと思ってるのよ!

 『サービス終了まであと4日』なんて通知が来たら、装備のスクショ保存とか、フレンドへの挨拶とかで大忙しだったんだから!」


 エミリアはプリプリと怒りながらも、その目は笑っていなかった。

 彼女は本気で怒っている。

 自分の積み上げた努力(レベル)と、思い出(セーブデータ)を、運営の都合で勝手に消されようとしていることに。


「……やるわよ、アルス。

 私の『勇者アカウント』と、あんたの『魔王権限』。どっちが上か、神様に教えてあげましょ」


「ああ。商談成立だ」


 俺たちはガッチリと握手を交わした。

 かつて殺し合った手が、今は世界を救うために繋がれている。


          ◇


 場所を移して、半壊した玉座の間。

 天井がないため、青空(というかバグった空)が丸見えのこの場所を、俺たちは「特設スタジオ」に改造した。


 広報大臣シルフと、勇者パーティの魔法使いが、機材をセッティングする。

 魔界の放送網と、人間界の通信網を強制的にリンクさせる、前代未聞のバイパス工事だ。


「準備完了です! 全世界の水晶玉、スクリーン、スマホに割り込めます!」


「よし。……始めようか」


 俺とエミリアは、カメラの前に並んで立った。

 背後には、空に浮かぶ無機質なカウントダウンタイマー。

 そして、それを見下ろすシステム管理者ガブリエル。


『……理解不能。敵対ユニット同士が並列しています。バグですか?』


 ガブリエルが首を傾げる。

 俺はニヤリと笑い、マイクのスイッチを入れた。


「バグじゃない。『業務提携(コラボ)』だ」


 【ON AIR】


 ランプが点灯した瞬間、エミリアが「勇者の顔(アイドルモード)」に切り替わる。


「はーい、人間のみんな! 魔族のみんな! 聞こえてるー!?

 勇者エミリアだよっ☆ 今日はなんと、魔王城から緊急生配信でお届けしまーす!」


 世界中がどよめく気配がした。

 滅びの危機に瀕した世界で、勇者が魔王の隣で笑っている。

 そのインパクトは絶大だ。


「単刀直入に言うわ。

 空にいるあの『白い巨人』……あれが、私たちを消そうとしてる『運営』よ!」


 エミリアが指差す。

 続いて、俺が前に出る。


「魔王アルスだ。

 奴らの言い分はこうだ。『平和すぎてエネルギーが回収できないから、世界をリセットする』。

 ……ふざけるな。俺たちが汗水垂らして築いた『日常』を、コストカットの一言で奪われてたまるか!」


 俺はカメラを睨みつけた。


「俺は戦う。魔王の座も、勇者の誇りも関係ない。

 ただ、明日の『休日』を守るために! 美味い飯と、ふかふかのベッドを守るために!」


 崇高な理念などない。

 あるのは、生存本能と、理不尽な上司(神)への怒りだけだ。


「みんな、力を貸してくれ!

 剣を取れとは言わない。ただ、手元の端末で、俺たちに『支持(いいね)』を送ってくれ!」


          ◇


 システム理論はこうだ。

 この世界の魔力(エネルギー)の源は、知的生命体の「感情」である。

 神は「争い(負の感情)」をエネルギー源として設計していた。


 だが、俺たちは証明しなければならない。

 「熱狂(正の感情)」こそが、争いよりも強大なエネルギーを生むことを。


『……警告。システムへの過負荷(オーバーロード)を検知』


 ガブリエルの声色が少し変わった。

 空に浮かぶウィンドウの数値が、跳ね上がり始める。


【支持率(エネルギー充填率):51% …… 65% …… 80% ……!】


 人間界からも、魔界からも、猛烈な勢いで「意思」が流れ込んでくる。

 「死にたくない」「エミリアちゃん頑張れ」「魔王頼むぞ!」

 その想いが、物理的な魔力となって俺とエミリアに集束していく。


『無意味です。ユーザー如きが、管理者に逆らえるとでも?』


 ガブリエルが手を振るう。

 空から、数千の天使(ボット)が急降下を開始した。

 物理攻撃無効の削除プログラムたちだ。


「させるかァァァッ!!」


 迎撃に出たのは、四天王たちだった。

 ヴォルカンが炎を吐き、セレスティアが氷の壁を作る。


「物理が効かないなら、足止めだけでいい!」

「放送を止めてはなりませんわ! ここが最前線です!」


 彼らは知っている。

 天使を倒す必要はない。

 俺たちの配信を続けさせ、支持率を【100%(管理者権限)】まで押し上げれば、俺たちが「新運営」となって命令を書き換えられることを。


「みんな……!」


 エミリアが聖剣を抜く。

 その刀身は、集まった支持率(魔力)を吸って、太陽のように輝き始めていた。


「アルス! 私は雑魚を散らすわ!

 アンタは『神』の懐に飛び込んで、システムをハッキングして!」


「ああ。……任せろ」


 俺は、黄金に輝くシステムウィンドウを見上げた。

 そこには、かつて見たことのないコマンドラインが表示されていた。


【Admin Login... (管理者ログイン準備中)】

【Progress: 98%】


 あと2%。

 あと少しで、神の喉元に届く。


 だが、ガブリエルもただ見ていただけではなかった。

 巨人の胸部が開き、世界を消去するための「リセットボタン(極大消滅砲)」の砲口が、魔王城に向けられたのだ。


『強制終了(シャットダウン)を実行します』


 閃光が走る。

 残り時間、あとわずか。

 俺は、最大の賭けに出るために空へと飛び出した。


【残り時間:あと1分】

【次回予告:神殺しのアップデート】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。