第73話 魔王と勇者の合同記者会見 〜全世界同時配信「神様(運営)に凸してみた」〜
魔王城、転移の間。
幾何学模様の光が収束すると、そこには一人の少女と、撮影クルー(パーティメンバー)が立っていた。
「来たわよ魔王! ……って、ひっどい顔ね」
勇者エミリアが、開口一番に言った。
俺――アルスは苦笑する。瓦礫に埋もれ、魔力を使い果たし、徹夜明けの顔だ。ひどくて当然だ。
「お互い様な。目の下のクマ、コンシーラーで隠しきれてないぞ」
「うっさい! 誰のせいで寝不足だと思ってるのよ!
『サービス終了まであと4日』なんて通知が来たら、装備のスクショ保存とか、フレンドへの挨拶とかで大忙しだったんだから!」
エミリアはプリプリと怒りながらも、その目は笑っていなかった。
彼女は本気で怒っている。
自分の積み上げた努力と、思い出を、運営の都合で勝手に消されようとしていることに。
「……やるわよ、アルス。
私の『勇者アカウント』と、あんたの『魔王権限』。どっちが上か、神様に教えてあげましょ」
「ああ。商談成立だ」
俺たちはガッチリと握手を交わした。
かつて殺し合った手が、今は世界を救うために繋がれている。
◇
場所を移して、半壊した玉座の間。
天井がないため、青空(というかバグった空)が丸見えのこの場所を、俺たちは「特設スタジオ」に改造した。
広報大臣シルフと、勇者パーティの魔法使いが、機材をセッティングする。
魔界の放送網と、人間界の通信網を強制的にリンクさせる、前代未聞のバイパス工事だ。
「準備完了です! 全世界の水晶玉、スクリーン、スマホに割り込めます!」
「よし。……始めようか」
俺とエミリアは、カメラの前に並んで立った。
背後には、空に浮かぶ無機質なカウントダウンタイマー。
そして、それを見下ろすシステム管理者ガブリエル。
『……理解不能。敵対ユニット同士が並列しています。バグですか?』
ガブリエルが首を傾げる。
俺はニヤリと笑い、マイクのスイッチを入れた。
「バグじゃない。『業務提携』だ」
【ON AIR】
ランプが点灯した瞬間、エミリアが「勇者の顔」に切り替わる。
「はーい、人間のみんな! 魔族のみんな! 聞こえてるー!?
勇者エミリアだよっ☆ 今日はなんと、魔王城から緊急生配信でお届けしまーす!」
世界中がどよめく気配がした。
滅びの危機に瀕した世界で、勇者が魔王の隣で笑っている。
そのインパクトは絶大だ。
「単刀直入に言うわ。
空にいるあの『白い巨人』……あれが、私たちを消そうとしてる『運営』よ!」
エミリアが指差す。
続いて、俺が前に出る。
「魔王アルスだ。
奴らの言い分はこうだ。『平和すぎてエネルギーが回収できないから、世界をリセットする』。
……ふざけるな。俺たちが汗水垂らして築いた『日常』を、コストカットの一言で奪われてたまるか!」
俺はカメラを睨みつけた。
「俺は戦う。魔王の座も、勇者の誇りも関係ない。
ただ、明日の『休日』を守るために! 美味い飯と、ふかふかのベッドを守るために!」
崇高な理念などない。
あるのは、生存本能と、理不尽な上司(神)への怒りだけだ。
「みんな、力を貸してくれ!
剣を取れとは言わない。ただ、手元の端末で、俺たちに『支持』を送ってくれ!」
◇
システム理論はこうだ。
この世界の魔力の源は、知的生命体の「感情」である。
神は「争い(負の感情)」をエネルギー源として設計していた。
だが、俺たちは証明しなければならない。
「熱狂(正の感情)」こそが、争いよりも強大なエネルギーを生むことを。
『……警告。システムへの過負荷を検知』
ガブリエルの声色が少し変わった。
空に浮かぶウィンドウの数値が、跳ね上がり始める。
【支持率(エネルギー充填率):51% …… 65% …… 80% ……!】
人間界からも、魔界からも、猛烈な勢いで「意思」が流れ込んでくる。
「死にたくない」「エミリアちゃん頑張れ」「魔王頼むぞ!」
その想いが、物理的な魔力となって俺とエミリアに集束していく。
『無意味です。ユーザー如きが、管理者に逆らえるとでも?』
ガブリエルが手を振るう。
空から、数千の天使が急降下を開始した。
物理攻撃無効の削除プログラムたちだ。
「させるかァァァッ!!」
迎撃に出たのは、四天王たちだった。
ヴォルカンが炎を吐き、セレスティアが氷の壁を作る。
「物理が効かないなら、足止めだけでいい!」
「放送を止めてはなりませんわ! ここが最前線です!」
彼らは知っている。
天使を倒す必要はない。
俺たちの配信を続けさせ、支持率を【100%(管理者権限)】まで押し上げれば、俺たちが「新運営」となって命令を書き換えられることを。
「みんな……!」
エミリアが聖剣を抜く。
その刀身は、集まった支持率(魔力)を吸って、太陽のように輝き始めていた。
「アルス! 私は雑魚を散らすわ!
アンタは『神』の懐に飛び込んで、システムをハッキングして!」
「ああ。……任せろ」
俺は、黄金に輝くシステムウィンドウを見上げた。
そこには、かつて見たことのないコマンドラインが表示されていた。
【Admin Login... (管理者ログイン準備中)】
【Progress: 98%】
あと2%。
あと少しで、神の喉元に届く。
だが、ガブリエルもただ見ていただけではなかった。
巨人の胸部が開き、世界を消去するための「リセットボタン(極大消滅砲)」の砲口が、魔王城に向けられたのだ。
『強制終了を実行します』
閃光が走る。
残り時間、あとわずか。
俺は、最大の賭けに出るために空へと飛び出した。
【残り時間:あと1分】
【次回予告:神殺しのアップデート】




