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第71話 革命の翌朝、青空に走る「致命的なバグ」 〜平和になりすぎたので、世界がサシュウ(サービス終了)するそうです〜

 魔王城、最上階。

 天井が吹き飛び、瓦礫の山と化した「元・玉座の間」に、朝の光が差し込んでいた。


「……痛ってぇ」


 俺――魔王アルスは、石礫の上で目を覚ました。

 体中が軋む。昨夜の「全会一致・即時解雇ディスミサル・スタンプ」で全魔力を使い果たした反動だ。

 周囲を見渡すと、頼れる部下(四天王)たちが、泥のように眠っていた。


 ヴォルカンは柱の残骸を抱き枕にしてイビキをかき、セレスティアは瓦礫の上でも器用にドレスを汚さず寝息を立てている。

 ゴブ三郎とシルフは、背中合わせで疲れ果てていた。


「……勝ったんだな、俺たち」


 先代魔王ガルドノヴァは消滅した。

 ブラックな旧体制は崩壊し、ホワイトな夜明けが来たのだ。


「おはようございます、魔王様」


 唯一、既に起きていた秘書官リルが、魔法で温めたコーヒーを差し出してきた。

 彼女の眼鏡にはヒビが入っているが、その表情は晴れやかだ。


「ありがとう。……被害状況は?」


「甚大です。城の修復には国家予算の3年分が必要です。ですが……」


 リルは瓦礫の隙間から見える、眼下の城下町を指差した。

 そこからは、歓声と、復興作業の槌音が聞こえてくる。


「民衆の支持率は80%を超えました。誰もが貴方を称えています。

 『平和な日常』が戻ってきたのです」


「そうか。……なら、良しとするか」


 俺はコーヒーを啜った。

 これでやっと、定時に帰ってゲームができる。週末には温泉に行ける。

 俺の戦いは終わったのだ。


 ――そう、思っていた。


「……ん?」


 ふと、見上げた空に違和感を覚えた。

 突き抜けるような青空。

 だが、その一部が、妙に「カクついて」見えたのだ。


 雲の形が不自然に四角い。

 空の色が、滑らかなグラデーションではなく、粗いドット絵のように境界線が見える。


「リル。……あの雲、おかしくないか?」


「はい? ……あら、本当ですね。まるで『画像処理落ち』したような……」


 その時。

 ブツンッ。

 世界から「音」が消えた。


 工事の音も、風の音も、仲間の寝息も。

 テレビの電源を急に切った時のように、唐突に遮断された。


「な、なんだ!?」


 俺が立ち上がると同時に、空に亀裂が走った。

 それは雷ではない。

 世界の「テクスチャ」が剥がれ落ち、その向こう側にある「無機質な白い空間」が露出し始めたのだ。


『警告(WARNING)。警告(WARNING)』


 脳内に直接、機械的なアナウンスが響き渡る。

 眠っていたヴォルカンたちが飛び起きた。


「なんだこの声は!? 敵襲か!?」

「空が……割れていますわ!?」


 アナウンスは、感情のない声で事実を告げた。


『世界ID:世界における「対立構造」の消失を確認』

『魔王軍と人間軍の敵対関係が解消され、エネルギー回収効率が「0%」に低下しました』


「エネルギー回収……?」


 俺は嫌な汗をかいた。

 前世の知識が、最悪の予想を弾き出す。

 勇者と魔王。戦いと平和。

 この世界がもし、誰かの手によって作られた「システム」だとしたら?


『本サーバーは維持コストの無駄と判断されました』

『よって、これより「サービス終了シャットダウン」プロセスへ移行します』


「サービス終了……だと……!?」


 空の亀裂が広がる。

 そこから、巨大な「カーソル」のような光の矢印と、無数の白い人型(天使)が降下してくるのが見えた。


「おいおい、冗談だろ……」


 俺は震える手で、システムウィンドウを開こうとした。

 だが、いつものステータス画面は表示されない。

 代わりに、真っ赤な文字でこう書かれていた。


【ERROR:サーバーとの接続が切れました】


「ふざけるな! 俺たちが必死に守った平和を、『コストカット』の一言で消されてたまるか!」


 俺は叫んだ。

 先代魔王というブラック上司を倒したと思ったら、今度は「親会社(運営)」からの事業撤退命令かよ!


「総員、戦闘配置!

 これは内乱じゃない! 『世界そのもの』との戦いだ!」


 瓦礫の山で、俺たちは空を見上げた。

 本当のラストバトル。

 相手は神か、システムか。

 魔王アルスの最後の「業務クエスト」が、唐突に幕を開けた。


【現在支持率:80%(ただし世界が消滅しかけている)】

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