表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/75

第70話 物理的解雇通知(フィジカル・ディスミサル) 〜全会一致で、貴殿を「リストラ」します〜

 魔王城、最上階。

 崩れ落ちた天井から夜空が覗く「玉座の間」は、今、禍々しい深紅の光に包まれていた。


 ウゥゥゥゥゥゥゥン……!!


 不気味な重低音。地下の魔力炉が臨界点を超えようとしている音だ。


「あと3分だ!

 3分後には、この城も、城下町も、貴様らの作った『平和』ごともろとも消し飛ぶ!」


 ガルドノヴァの亡霊が、狂ったように笑う。

 典型的な「自分が経営できないなら会社ごと潰してやる」という、暴走オーナーの末路だ。


「くそっ……!」


 俺――アルスは、視界の隅にあるシステムウィンドウを睨みつけた。

 【現在支持率:51.2%】

 過半数は超えた。だが、システム深層の「自爆プログラム」を強制停止させるには、【100%(絶対王権)】の権限が必要だ。


 演説は届いている。数字は上がり続けている。

 だが、間に合わない。あと数%足りないまま、タイムリミットが来る!


「魔王様! 方法はあります!」


 その時、リルの鋭い声が響いた。

 彼女はタブレットを操作しながら叫ぶ。


「『国民投票(全支持率)』は間に合いません!

 ですが、『閣議決定(四天王の総意)』による『緊急決裁』なら、一時的に王権代行が可能です!」


「閣議決定……!?」


「はい! 各省庁のトップ全員の承認印(魔力)を束ねれば、擬似的に100%の権限を行使できます!」


 なるほど、稟議書スタンプラリーか!

 面倒な手続きだが、今はそれが最強の武器になる!


「よし! 全員、俺に続け!

 これより『臨時国会』を開催する!!」


「「「イエッサー!!」」」


          ◇


 俺を中心に、四天王とゴブ三郎が円陣を組む。

 俺が手をかざすと、空中に巨大な光の魔法陣が出現した。

 それは、巨大な「申請書類」の形をしていた。


「小賢しい! 手続きなど待ってやるものか!」


 ガルドノヴァが黒い波動を放つ。

 だが、ヴォルカンが前に立ちふさがった。


「邪魔をするな『元』魔王! 今、大事な会議中だ!」


 ガァァァン!!

 ヴォルカンの筋肉(と防御魔法)が、攻撃を完璧に弾き返す。


「今だ! ハンコを押せぇぇぇ!」


 俺の号令に、大臣たちが次々と魔力を叩きつける。


「国防省、承認! 火力を込めろ!」


 ヴォルカンが拳を叩き込む。書類の隅に、燃え上がる【赤の印】が灯る。


「財務省、承認! 予算(魔力)は惜しみませんわ!」


 セレスティアが宝石を砕く。煌めく【金の印】が灯る。


「広報省、承認! 映えるエフェクト、盛っておきますね!」


 シルフがスマホをかざす。鮮やかな【青の印】が灯る。


「厚労省、承認! 労働者の未来のために!」


 ゴブ三郎が電卓ごと拳を突き出す。優しい【緑の印】が灯る。


 四つの承認印が揃った。

 書類(魔法陣)がまばゆい黄金の光を放ち、回転を始める。

 システムが認証を完了する。


【閣議決定:可決(APPROVED)】

【執行権限:解放】


「よし……!」


 俺は空高く跳躍した。

 右手に、あふれんばかりの全魔力を集中させる。

 光が集束し、一つの巨大な質量を持つ物体へと変わっていく。


 それは剣でも槍でもない。

 俺の背丈ほどもある、巨大な円柱形の――「決裁印ハンコ」だ。


「な、なんだそれは……!?」


 ガルドノヴァが空を見上げ、戦慄する。

 物理的な大きさではない。そのハンコに込められた「組織の重み」に、本能的な恐怖を感じているのだ。


「これは『決裁印』。王が王たる証!」


 俺はハンコを振りかぶった。

 照準は、ガルドノヴァ。

 彼を「害悪」として排除するための、正規の手続き。


「ガルドノヴァ! 貴様には退職金もやらん!

 議会の承認を得て、民意の後押しを受け、今ここに執行する!!」


 俺は叫んだ。

 これが、俺たちの答えだ!


「合体奥義・『全会一致・即時解雇ディスミサル・スタンプ』ォォォッ!!」


 ズドォォォォォォォォォンッ!!!!


 俺は全力でハンコを叩きつけた。

 ガルドノヴァの頭上に、深紅の魔力で描かれた【解雇(FIRED)】という巨大な文字のエフェクトが直撃する。


「ぐ、がぁぁぁぁッ……!?」


 物理的な衝撃と、概念的な「拒絶」の力が、亡霊の体を粉砕していく。

 もはや彼に、この場に留まる権限(資格)はない。


「バ、バカな……!

 恐怖ではなく、合意形成で……これほどの力を……!?」


 ガルドノヴァの体は崩れ、光の粒子となって空へ吹き飛ばされていく。

 消滅の間際、彼は信じられないものを見る目で俺を見た。

 そして、最後に絶叫した。


「労基署かぁぁぁぁぁぁッ!!」


 キラーン。

 ブラック企業の象徴は、夜空の彼方で星になって消えた。


          ◇


 同時に。

 城を包んでいた赤いアラートが消え、魔力炉の暴走音が、シュン……と収束していった。


【自爆シークエンス:強制停止】

【システム:正常化】


 シーン……。

 静寂が戻る。

 天井の大穴から、朝の光が差し込んできた。


「……可決、されたな」


 俺は着地し、ふらりとよろめいた。

 魔力も体力も空っぽだ。

 その場に大の字に倒れ込む。


「魔王様!!」


 リルと四天王たちが駆け寄ってくる。

 「やった!」「勝ちましたわ!」「胴上げだ!」と騒いでいるが、彼らも限界だったらしい。

 俺の周りで、次々とへたり込んでいく。


 瓦礫だらけの床で、魔王と幹部たちが仲良く寝転がっている。

 その光景がおかしくて、俺は乾いた笑い声を上げた。


「あはは……。ひどい有様だな」


「ええ、全くです」


 隣でリルが眼鏡を直しながら、天井の穴を指差した。


「魔王様。……天井の大穴と、粉砕された玉座。それに壁の補修。

 修理見積もり、出しておきますね」


「……」


 俺の笑いが止まった。

 そうだ。勝ったということは、後片付けが待っているということだ。


「……ああ。わかったよ」


 俺は目を閉じた。

 朝日が眩しい。


「今日は帰って寝よう。

 ……明日からまた、地獄の残業(復興)だ」


「はい。お供します」


 こうして、魔界を揺るがした「内乱」は鎮圧された。

 俺たちは一つになり、最強の組織へと進化した。


【現在支持率:80.0%(盤石な政権)】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ