第69話 玉座の間ふたたび。ステータスの復旧率50% 〜過半数を握ったので、貴様の攻撃は「否決」します〜
魔王城、最上階。
長い階段を登りきった先に、その扉はあった。
かつて俺が座っていた場所。
そして今は、亡霊が支配する孤独な玉座。
「……行くぞ」
俺は仲間たち――リル、四天王、そしてゴブ三郎たちレジスタンスに頷き、重厚な扉を押し開いた。
ギギギギ……。
蝶番が錆びたような音を立てて、扉が開く。
中は暗かった。
電気が止まっているため、窓から差し込む青白い月明かりだけが光源だ。
その闇の奥。
玉座の残骸の上に、半透明の巨体が座り込んでいた。
「……来たか。我が城を『休日のような空気』で汚染した張本人め」
先代魔王ガルドノヴァ。
彼の眼光は鋭く、殺気は依然として肌を刺すほど重い。
だが、その威厳は以前とはどこか違っていた。
グゥ〜〜〜……。
静寂な広間に、間抜けな音が響き渡った。
腹の虫だ。
「……腹が減っているようだな、先代」
俺は一歩前に出た。
ストライキによる厨房の停止。給仕の悪魔たちのボイコット。
最強の魔王といえど、飯を作ってくれる部下がいなければ、ただの空腹な老人だ。
「夜食(引導)を持ってきてやったぞ。……少し重たいがな」
「減らず口を……!」
ガルドノヴァが立ち上がる。
空腹だろうが、腐っても最強の魔王。その身から溢れ出る魔力は、城を震わせるほどだ。
「貴様らごとき、数に頼ろうがミンチにしてくれるわ!」
◇
「消えろ! 『極大魔弾』!!」
挨拶代わりの即死魔法。
ガルドノヴァの掌から、城郭をも吹き飛ばす大きさの「黒い魔力の塊」が放たれた。
回避不能。防御不能。当たれば原子分解。
「魔王様! 危ない!」
ゴブ三郎が悲鳴を上げる。
だが、俺は動かなかった。
防御結界も張らず、避ける素振りも見せず、ただ真っ直ぐに迫りくる死の塊を見つめる。
視界の隅にある、システムウィンドウ。
そこには、輝く数字が表示されている。
【現在支持率:51.0%】
「……その攻撃は、議会の承認を得ていない」
俺は静かに告げた。
「よって――『否決』する」
ブォンッ。
俺の鼻先数センチまで迫っていた極大魔弾が、唐突に霧散した。
爆発したのではない。
まるでパソコンの画面上で「削除」ボタンを押したかのように、存在そのものがキャンセルされたのだ。
【System: Motion Rejected(動議否決)】
「な、なにっ!?」
ガルドノヴァが目を見開く。
「魔法を相殺したのではない……無効化しただと!? 防御魔法もなしに!?」
「言っただろ。今の俺は『過半数』を持っている」
俺は自分の掌を見せた。
「支持率とは、ただのHPじゃない。この世界の『議決権』だ。
過半数の株主(国民)を味方につけた俺が『NO』と言えば、お前の攻撃は物理法則ごと却下されるんだよ」
「おのれ……! 小賢しい理屈を!」
ガルドノヴァが激昂し、さらなる魔力を練り上げる。
防御は完璧だ。だが、今の俺(Lv.1)の攻撃力では、奴にダメージを与えられない。
「みんな、力を貸してくれ。……ここからは『組織戦』だ!」
俺の号令に、四天王たちが即座に呼応した。
「おうよ! 俺の筋肉(耐久力)をすべて持っていけぇ!」
ヴォルカンが俺の前に立ち、闘気を俺に譲渡する。
【物理防御力:SSSへ上昇】
「予算(魔力)なら惜しみませんわ! 私の資産、好きに使ってよくってよ!」
セレスティアが最高級の宝石を握りつぶし、膨大な魔力を俺に注入する。
【魔法攻撃力:測定不能へ上昇】
「ターゲット、ロック! 弱点解析完了、データを共有します!」
シルフがスマホでガルドノヴァを解析し、回避ルートを俺の脳内に直接送信する。
【命中率・回避率:100%へ固定】
「スケジュールを最適化します! 業務効率化魔法、最大出力!」
リルが俺の身体能力を極限まで加速させる。
【速度:音速領域へ突入】
四色のオーラが俺の体に集まり、黄金の輝きとなって爆ぜた。
かつては俺を苦しめた強敵たちが、今は最強の「バフ(福利厚生)」となって俺を支えている。
「くっ……なんだ、その力は……!」
ガルドノヴァが後ずさる。
「これが『組織』の力だ。お前のようなワンマン社長には出せない火力だぞ!」
俺は地面を蹴った。
音速の踏み込み。ガルドノヴァの防御が間に合わない。
「はぁぁぁぁッ!!」
俺の拳が、亡霊の顔面を捉えた。
ドゴォッ!!
「がはっ……!?」
ガルドノヴァが吹き飛ぶ。
玉座の残骸に叩きつけられ、壁にヒビが入る。
「……馬鹿な。わしが……個の頂点であるわしが、群れた弱者に後れを取るとは……」
ガルドノヴァはよろめきながら立ち上がる。
その体はノイズのように明滅し、崩壊しかけている。
勝負あったか。
そう思った、その時だった。
「……認めん」
ガルドノヴァが、狂ったように笑い出した。
「認めんぞ……! 力なき正義など! 恐怖なき支配など!
わしが否定されるくらいなら……こんな世界、消えてしまえばいい!!」
彼は玉座の肘掛けに隠されていた、赤いコンソール(魔導盤)を叩き割った。
ウゥゥゥゥゥン……!!
不気味な重低音が響き、城全体が赤く明滅し始める。
地下の魔力炉が暴走を始めた音だ。
【警告:自爆シークエンス起動】
【爆発まで:あと10分】
「なっ!?」
俺は息を呑んだ。
典型的な「自分が負けるなら道連れにしてやる」という、独裁者の最期っ屁だ。
「止められるものなら止めてみろ!
だが、この自爆システムは『管理者権限』の最上位にある。
キャンセルするには、『支持率100%以上(絶対王権)』による強制命令しかないぞ!」
「100%だと!?」
俺は慌ててウィンドウを確認する。
【現在支持率:51.2%】
過半数は超えた。だが、圧倒的多数には程遠い。
人間界の浮動票や、まだ迷っている保守派の層が、投票をためらっているのだ。
「ククク……。貴様に全人類の心を一つにすることなど不可能だ!
絶望しながら果てるがいい!」
ガルドノヴァが高笑いし、自爆のカウントダウンが進む。
(くそっ……! どうすれば……!)
武力では勝った。だが、システムで負けている。
あと10分で、支持率を倍にしなければならない。
そんな奇跡、どうやって起こせばいい?
その時。
俺の脳裏に、シルフの声が響いた。
『魔王様! まだ手はあります!』
『回線は繋がっています! 全魔族に向けて、最後の「演説」を!』
「演説……?」
『はい! カッコつけなくていいんです。魔王様の「本音」をぶつけてください!
それが、最後の1ピースになります!』
俺は覚悟を決めた。
こうなったら、なりふり構っていられない。
俺は泥だらけの顔を上げ、放送用のカメラを睨みつけた。
「……わかった。やってやる」
これが最後の大博打だ。
俺は、全世界に向けて叫ぶ準備をした。
【現在支持率:51.2%(頭打ち)】
【タイムリミット:あと10分】
【ミッション:支持率を限界突破させろ】




