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第51話 祭りの後は、地獄の書類整理(デフラグ) 〜支持率75%でも、俺の睡眠時間は0秒です〜

 魔王城、執務室。

 かつて天井が吹き飛び、青空が見えていたこの部屋も、今は修復されて元の荘厳さを取り戻していた。


 だが、今の俺――魔王アルスが見ている景色は、青空よりも遥かに絶望的だった。


「……減らない」


 目の前には、白い山脈。

 いや、書類の塔だ。

 天井まで届きそうな紙の束が、部屋中に林立している。


「報告します」


 秘書官のリルが、目の下にどす黒いクマを作りながら、機械のような声で読み上げる。


「武闘会とカジノの大成功により、魔界の知名度が爆上がりしました。

 その結果、人間界からの『移住希望者』および『観光客』が、前月比500%増。

 現在、国境の入国管理局はパンクし、すべての決裁が魔王様の元へ回ってきています」


 窓の外を見る。

 城の正門から地平線の彼方まで、入国審査を待つ長蛇の列が伸びていた。


「嬉しい悲鳴……と言いたいところだが、悲鳴を上げてるのは俺の肉体だぞ!?」


 俺は叫んだ。

 ステータスウィンドウを確認する。


【現在支持率:75.0%(歴代最高)】

【魔王の疲労度:99.0%(過労死寸前)】


「おかしい……。俺は平和なスローライフのために、世界を救ったはずだ。

 なのになぜ、前世(社畜時代)より忙しくなっているんだ!?」


          ◇


「四天王! 手伝ってくれ! 猫の手も借りたい!」


 俺はなりふり構わず救援を要請した。

 だが、現実は非情だった。


「任せろ魔王! この書類を処理すればいいのだな!」


 ヴォルカンが意気揚々と紙束を掴む。

 ビリッ。

 太すぎる指と強すぎる握力が、繊細な羊皮紙を粉砕した。


「あ」

「……帰れ」


「臭いですわ。インクの匂いがドレスに移ります」


 セレスティアは窓際で優雅に紅茶を飲んでいた。

 彼女に事務作業を期待した俺が馬鹿だった。


「くそっ、どいつもこいつも戦うことしか能がないのか!

 ゴブ三郎は!?」


「彼は現場(入国ゲート)で、クレーム対応の最前線に立っています。戻れません」


「シルフは!?」


「『映えスポット』の案内で手一杯です」


「……詰んだ」


 俺はペンを握りしめた。

 頼れるのは己のみ。

 やるしかない。最強の魔王の力を、ここで使う時だ!


「スキル発動……【千手観音サウザンド・アームズ】!!」


 ボボボボボッ!

 俺の背中から、魔力でできた「10本の腕」が出現する。

 本来は、あらゆる角度から剣撃を叩き込み、敵をミンチにするための戦闘スキル。

 だが今は――


「うおおおおおッ! 商業登記! 入国許可! 道路使用申請! 却下! 承認! 承認!」


 シュバババババッ!!

 12本の手(本体含む)が、それぞれ別のペンを持ち、別の書類にサインしていく。

 ペン先が音速を超え、摩擦熱で紙が発火しかけるのを、左端の腕が【氷魔法】で冷却する。


「は、速い……! さすが魔王様!」


 リルが新しい書類の山を運んでくる。

 彼女も限界だ。カフェイン錠剤をラムネのようにバリバリと噛み砕き、目が血走っている。


「魔王様、次のスケジュール……3秒後に……国境警備隊との定時連絡……その後、5秒の休憩を挟んで……」


 グラリ、とリルの体が揺れた。


「おいリル! もういい、休め! お前が倒れたら俺の心が折れる!」


「いけません……私が休んだら、誰が……」


「これは業務命令だ! 帰れ! 即刻帰宅して泥のように眠れ!」


 俺はリルを【転移魔法】で強制的に自室へ送り返した。

 そして、広い執務室に、俺一人で限界の中仕事を続けた。

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