第48話 アドリブ全開! 「絶対防御」は「やられ芸」のために 〜魔王は痛みに呻きながら、内心「セットが壊れる!」と叫んだ〜
「死ねェ! 魔王アルスッ!!」
ガインの咆哮と共に、緑色の毒液を撒き散らす魔剣が迫る。
ジュワァァァ……!
剣圧だけで、俺の足元の石畳が腐食し、紫色の煙を上げる。
(ヒィィッ! ガチすぎる! あれにかすったら即死だぞ!?)
俺は内心で悲鳴を上げながら、オートスキル【絶対防御結界】の出力を最大にした。
この結界なら、どんな物理攻撃も遮断できる。
安全策を取るなら、棒立ちで弾き返せばいい。
だが、今の俺は「戦士」ではない。「興行主」だ。
『魔王様! 何ビビって腰が引けてるんですか!』
インカムから、リルのお叱りが飛んでくる。
『コメント欄で「魔王が逃げ腰w」「塩試合」って叩かれてますよ!
攻撃を「受け止める」か、派手に「吹っ飛ぶ」かしてください! 「やられの美学」を見せるのです!』
(無茶言うな! この毒剣を受け止めたら、結界ごと溶けるかもしれないんだぞ!)
だが、リルの言うことは絶対だ(主に今後のスケジュールのために)。
俺は覚悟を決めた。
この最強の防御スキルを、身を守るためではなく――「リアクション芸」のために使う!
◇
ガインの突進。
俺はあえて回避行動を取らず、正面から受ける体勢を取った。
「ぬんッ!!」
ガインの剣が、俺の胸元(の見えない結界)に激突する。
ドゴォォン!!
凄まじい衝撃。だが、ダメージはゼロ。
(よし、今だ!)
俺は剣が当たったコンマ1秒後、自らの脚力で地面を蹴った。
後ろへ。全力で。
「ぐ、ぐわァァァァァァッ!!」
俺はわざとらしく両手を広げ、きりもみ回転しながらリングの端まで吹っ飛んだ。
ズザザザザザッ!
マントをはためかせ、無様に転がる。
「な、なんて重い一撃だ……! 骨が……骨がきしむぅぅ!」
俺は床を叩いて悔しがるフリをした。
口の中に仕込んでおいた「血糊カプセル(イチゴ味)」を噛み砕き、口元からタラリと垂らす。
「かかったな! 死ねぇ!」
ガインが追撃に来る。
しかし、実況席のエミリアがマイクで叫んだ。
「すごい! 見た今の!?
直撃した瞬間に自らバックステップして、衝撃を逃したわ!
あれぞ達人の『消力』よ!」
『なるほど!』
『吹っ飛んだように見えて、実はノーダメなのか!』
『魔王様の受け身、美しすぎる』
よし、視聴者は騙せている。
俺はよろよろと立ち上がり、ガインを睨みつけた。
「やるな、ガイン……。だが、その程度か?」
「き、貴様……!」
ガインが驚愕に目を見開く。
「なぜだ!? 確かに手応えはあったはず!
なぜ平然と立っていられる! なぜ『演技指導』のような顔をしているんだ!」
「ふっ。いいかガイン。どんなに強い技でも、『見栄え』が悪ければただの作業だ。
俺の腹筋(結界)で受け止めて、華麗に吹っ飛ぶ! これがプロの仕事だ!」
「何を訳のわからんことを……! 狂ったか!」
ガインが激昂する。
彼は剣を大上段に構え、俺の脳天を唐竹割りにしようと振り下ろした。
「今度こそ終わりだァァァッ!」
速い。避ける暇はない。
だが、結界で弾けば「無敵すぎてつまらない」と言われる。
どうする?
(……こうなったら、あれしかない!)
俺は膝から崩れ落ちるように――土下座した。
スパンッ!
ガインの剣が、俺の頭上数センチを空振りする。
俺は地面に額を擦り付けたまま、不動の姿勢。
「なっ……!?」
ガインが体勢を崩す。
会場がどよめく。
「よ、避けたぁぁぁ! 土下座で!」
「なんという低い姿勢! 重心を極限まで下げた回避行動だ!」
「奥ゆかしい! さすが魔王様!」
(……よかった。ただの命乞いに見えなくて)
俺は冷や汗を拭いながら、ガインの足元をすくって転ばせた。
ドサッ。
「おのれェェェ! チョロチョロと小賢しい!」
起き上がったガインが、今度は剣を捨てて蹴りを入れてきた。
魔力を纏った重い蹴り。
これは……避けられない!
ドガッ!!
蹴りが俺の背中に直撃する。
俺はボールのように弾き飛ばされ、リングサイドの壁に激突した。
ガッシャアアン!!
壁が崩れ、瓦礫に埋もれる。
「ぐっ……!!」
これは演技じゃない。素で痛い。
結界でダメージは軽減しているが、衝撃までは消せない。
それに何より――
(ああっ! 壁が! あの壁、特注の大理石なのに! 修理費また200万コースだ!)
物理的な痛みよりも、財布へのダメージで俺の顔が歪む。
その苦悶の表情が、カメラに大写しになる。
『魔王様ーーッ!!』
『やばい、壁に埋まったぞ!』
『立て! 立ってくれ魔王様!』
会場の空気が変わった。
圧倒的強者だった魔王が、ボロボロになりながらも立ち上がろうとしている。
その姿に、民衆の心が動いたのだ。
「アルス! アルス! アルス!」
自然発生した「魔王コール」が、会場を揺らす。
地鳴りのような声援。
それが、俺の視界にあるシステムウィンドウに干渉し始める。
【民衆の支持を確認】
【支持率上昇:68%……75%……80%……!】
【システム権限:限定解除】
カッ!
瓦礫の山から、黄金の光が溢れ出した。
俺の体に力が漲る。
痛みが消え、疲労が吹き飛び、全ステータスが跳ね上がっていく。
「……なんだ、この力は」
俺は瓦礫を押しのけて立ち上がった。
金色のオーラを纏ったその姿は、演出ではない。
正真正銘、システムが認めた「王の輝き」だ。
「馬鹿な……!」
ガインが後ずさる。
「なぜだ! なぜ倒れない!? その体には、数々の致命傷を与えたはずだ!
貴様は……何者なんだ!」
俺はマントの土埃を払い、ニヤリと笑った。
「……ふっ。この程度の痛み、社畜時代の『35連勤』に比べれば、休憩みたいなもんだ」
「!?」
ガインには意味が分からなかっただろう。
だが、俺には聞こえる。
会場中から降り注ぐ、数万人の「期待」の声が。
(……やれやれ。これじゃあ、負けてやるわけにもいかないな)
俺は右手を握りしめた。
力が溢れて止まらない。
これなら、いける。
「ガイン。お前の旧時代の恨み事も、ここでお終いだ」
俺は拳を突き出し、宣言した。
「さあ、見せてやろう。
これが『民意(支持率)』という名の、最強魔法だ!」
反撃の狼煙が上がる。
次週、感動のフィナーレへ!
【現在支持率:80.0%(ボーナス確定演出)】
【魔王の状態:無敵モード突入】
【壁の修理費:請求書に追加】




