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第47話 決勝戦、魔王 vs 謎の覆面戦士 〜その殺意、面接(バトル)でアピールしてください〜

 魔界天下一武闘会、決勝戦。

 会場のボルテージは最高潮に達していた。


「レディース・エンド・ジェントルメン!

 いよいよ最後の戦いです! お待たせしました、我らが最強の主催者……魔王アルスの入場ですッ!!」


 シルフの実況と共に、会場の照明が一斉に落ちる。

 重厚なパイプオルガンの音色が響き渡り、無数のレーザー光線が虚空を切り裂いた。

 花火が上がり、スモークが焚かれる中、俺はゆっくりと花道を歩き出した。


 身にまとうのは、リルが徹夜で用意した「儀礼用・魔王マント(金糸刺繍入り)」。

 頭にはダイヤの王冠。手には装飾過多な杖。


(……派手すぎる。動きにくいことこの上ない)


 俺は仮面の奥でため息をついた。

 こんなパレード衣装でガチ戦闘なんて正気の沙汰ではない。早く終わらせて、執務室のパイプ椅子に戻りたい。


「対する挑戦者! 予選から決勝まで、全ての敵を一撃で葬り去ってきた謎の男!

 ミスター・X選手の入場です!」


 反対側のゲートから、漆黒の男が現れた。

 ボロボロの黒マント。顔を覆う鉄仮面。

 BGMも演出もない。ただ、歩くたびに周囲の空気が凍りつくような、本物の殺気だけを纏っている。


「いい雰囲気持ってるわねー! 歴戦の戦士って感じ!」


 ゲスト席のエミリアが無邪気にコメントする。

 だが、俺にはわかる。あれは演出ではない。

 俺に対する、純度100%の殺意だ。


          ◇


 リングの中央。俺とミスター・Xが対峙する。

 レフェリーが離れると同時に、男は静かに手を伸ばし、自らの仮面を剥ぎ取った。


 カラン……。

 鉄仮面が床に転がる。

 現れたのは、顔の半分に醜い火傷の痕がある、壮年の男の素顔だった。

 その瞳は、深淵のように暗く、燃えるように熱い。


「……我が名はガイン。かつて先代魔王ガルドノヴァ様に仕えし『暗黒騎士』なり!」


 男が名乗りを上げると、会場がざわついた。


「ガインだって?」「誰だ?」「おじいちゃん世代の有名人じゃん!」

 若者はキョトンとしているが、古参の魔族たちは「おお! 生きていたのか!」とどよめいている。


 ガインは観客席を睨みつけ、そして俺を指差した。


「現魔王アルスよ! 貴様のような、人間に媚び、金を数えるだけの商人が王とは片腹痛い!

 魔族の誇りはどこへ行った! 闘争本能はどうした!」


 朗々たる演説。

 彼は本気だ。本気で俺を軽蔑し、魔界の現状を憂いている。


「ここは神聖な決闘の場! 貴様の首を刎ね、その血で魔界の誇りを浄化してやる!」


 殺害予告。

 普通なら、ここで会場が凍りつき、警備兵が飛んでくるところだ。

 だが――


 ドッッ!!!!


 返ってきたのは、悲鳴ではなく、地鳴りのような「大歓声」だった。


「言ったぁぁぁぁ!」「最高のヒール(悪役)だ!」「殺せ! 殺せ!」

「そこまで言われると逆に清々しいぞ!」


 観客たちは、ガインの怨嗟を「完成度の高いマイクパフォーマンス」として受け取ったのだ。

 平和ボケした今の魔界において、これほど古風で、これほど殺意に満ちたキャラクターは、逆に新鮮なエンタメとして消費されてしまう。


「な、なんだ……?」


 ガインがたじろぐ。

 なぜ怒らない? なぜ恐れない?

 彼の悲劇的な決意が、空回りして熱狂に変わっていく。残酷なすれ違いだ。


          ◇


(……かわいそうに。時代が違うんだよ、ガイン)


 俺は同情しつつ、スキル【深淵鑑定】で彼の能力をスキャンした。


【名前】ガイン

【職業】暗黒騎士(元・近衛隊長)

【戦闘力】S(ヴォルカンと互角)

【忠誠心】SSS(ただし先代魔王へ)

【実務経験】軍事指導50年、隠密行動30年


(……欲しい)


 俺の目が、経営者の目になる。

 強い。しかも経験豊富だ。

 脳筋のヴォルカンより戦術眼があり、引きこもりのセレスティアより現場を知っている。

 彼がいれば、「警備部長」や「特攻隊長」、あるいは「クレーム処理係」として即戦力になる!


「……ガインよ」


 俺は一歩前に出た。

 ガインが剣を抜く。

 その刀身から、ドロリとした緑色の液体が滴り落ちた。


 ジュワァァァ……!


 液体が触れた石畳が、嫌な音を立てて溶解し、紫色の煙を上げる。


「ッ!?」


 俺は思わず足を止めた。

 あれは演出用スモークじゃない。ガチのやつだ。


(おいおい、あれは『神殺しの猛毒ヒュドラ・ベノム』か!? 労基法違反の危険物だぞ!)


 かすっただけでアウト。防御結界ごと溶かされるレベルの劇物だ。

 さすがに冷や汗が出る。


「その剣……危険手当はついているのか?」


「問答無用!!」


 ガインは会話を拒否し、神速で踏み込んできた。

 速い。

 殺意の塊が、俺の首めがけて直進する。


 ヒュンッ!


 俺は紙一重でかわした。

 鼻先を猛毒の刃が掠める。

 その際、俺はこっそりとカッターナイフ(文房具)を取り出し、自分の頬を小さく切った。


 ポタリ。


 魔王の頬から、一筋の血が流れる。


「……ッ!」


 会場が静まり返った。

 無敵と思われた魔王が、初撃で傷を負った。

 これは演技ではない、本物の血だ。


「魔王様が……血を!?」

「マジだ! あいつマジで強いぞ!」

「面白い……! これこそ決勝戦だ!」


 エミリアがマイクで叫ぶ。

「初手からクライマックスね! さすが決勝戦、相手も本気だわ!」


 会場の空気が、「お祭り」から「死闘」へと変わる。

 よし、これでいい。

 俺は指で頬の血を拭い、それを舐めた。

 そして、ニヤリと不敵に笑って見せる(内心はビビリまくりだが)。


「……いいだろう」


 俺はマントを脱ぎ捨て、ファイティングポーズをとった。


「その『熱意(殺意)』、しかと受け取った。

 ガインよ。これより『採用面接バトル』を開始する!」


「面接だと……? 愚弄するか!」


「私の期待を超えてみせろ。合格すれば、貴様の望む『居場所(職場)』を与えてやる!」


 俺の目的は、彼を殺すことではない。

 心を折り、その忠誠心のベクトルを「過去」から「現在(俺)」へと書き換えること。

 すなわち、圧迫面接ならぬ「物理面接」だ。


「吠えるな若造! その首、貰い受ける!」


 ガインが再び剣を構える。

 毒の雫が床を溶かす音と共に、最終決戦のゴングが鳴った。


【現在支持率:64.0%(強敵出現により期待値上昇)】

【面接官:魔王アルス】

【志望者:暗黒騎士ガイン(※本人は殺す気満々)】

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