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第46話 勇者参戦! 「空気を読まない」正義の鉄槌 〜そのビームは演出じゃなくてガチ兵器です〜

 魔界天下一武闘会、準決勝・第2試合。

 本来であれば、ここで主催者である俺――魔王アルスが登場し、決勝戦へと駒を進める手はずになっていた。


 だが、世の中は、台本通りには進まない。


「はいはーい! 選手交代!」


 実況席から、一陣の風が舞い降りた。

 金髪をなびかせ、リングの中央にスタッと着地したのは、ゲスト解説をしていたはずの勇者エミリアだ。


「魔王は決勝で待ってなさい! 露払いはこの『勇者エミリア』が務めるわよー!」


 彼女はカメラに向かってウインクし、Vサインを決める。


「うおおおおお!」「生エミリアちゃんだ!」「かわいい!」

 会場のボルテージが一気に最高潮に達する。


「おい、待て! 台本と違うぞ!」


 俺は実況席から身を乗り出した。

 だが、エミリアは聞く耳を持たない。彼女の瞳は「再生数の匂い」を嗅ぎつけて輝いている。


「だって、私が戦ったほうが盛り上がるでしょ? 運営的にも美味しいはずよ!」


「(ぐっ……否定できない!)」


 確かに、魔王と戦う前に勇者の実力を見せておくのは、ショーの構成としては悪くない。

 問題は、対戦相手だ。


 反対側のゲートから、重苦しい金属音と共に、巨大な影が現れた。

 身長3メートル。全身を黒鋼の装甲とパイプで覆い尽くした、異形の怪物。


「……ターゲット変更。魔王から勇者へ」


 機械のような合成音声が響く。

 反乱軍が送り込んだ最強の刺客、「魔導改造オーク・ジェネラル」。

 かつての同胞を改造手術で兵器に変えた、倫理観ゼロのサイボーグだ。


「排除する。……ガション」


 オークの肩口が開き、多連装ロケットランチャーが展開される。

 ガチだ。完全に殺しに来ている。


          ◇


 ズドドドドドドドッ!!


 ゴングが鳴るよりも早く、オークが発砲した。

 無数の魔導ミサイルが、煙を引いてエミリアに殺到する。


「きゃっ! いきなり!?」


 エミリアは軽やかにステップを踏み、爆風の中を蝶のように舞った。

 地面がえぐれ、破片が飛び散る。

 観客席からは悲鳴が上がるが、エミリアの表情は明るい。


「わぁ、すごい! 最新のゴーレム技術? 迫力ある〜!」


 彼女は爆発を背に、自撮り棒を伸ばした。


「見てみんな! リアル爆破よ! 特撮映画みたい!」

「はいチーズ☆ ……っと、危ない危ない」


 飛んできたミサイルを、自撮り棒で「コンッ」と弾き返す。

 余裕しゃくしゃくだ。


「バカな……。捕捉できない……!?」


 オークの電子アイが高速で点滅する。

 彼の照準システムは完璧なはずだった。だが、エミリアの動きは予測不能で、まるで物理法則を無視しているかのように当たらない。


「ふふん、当たるわけないでしょ? 私、毎日『アンチのクソリプ』を回避してるんだから!」


 どんな理屈だ。

 エミリアは一瞬で距離を詰め、聖剣を抜いた。


「接待プレイありがとう! 次はこっちの番ね!」


 彼女は手加減して(いるつもりで)、軽く剣を振るった。


「必殺! 『ライト・スラッシュ(弱)』!」


 光の軌跡が走る。

 

 ギャリィィィン!!


 不快な金属音と共に、オークの自慢の重装甲が、まるで濡れた紙のように切り裂かれた。

 火花を散らして装甲板が剥がれ落ちる。


「ガアアアアッ!?」


 オークがよろめく。

 彼の計算では「防御率99%」のはずだった装甲が、ただの素振りで両断されたのだ。


「バ、バカな……! ミスリル合金だぞ……! 紙同然だと!?」


「あれ? 意外と脆いのね。……もしかして、中身は空洞ハリボテ?」


 エミリアが首を傾げる。

 違う。お前の火力がバグっているだけだ。


 オークは悟った。

 勝てない。この少女は、生物としての格が違う。

 ならば――せめて道連れにするのみ!


「……緊急コード入力。リミッター解除」


 オークの胸部にある「魔導炉」が、不気味な赤色に発光し始めた。

 ウィィィィン……と、高周波の唸り音が会場に響く。


「ならば道連れだ! ここで自爆して、貴様も観客もろとも吹き飛ばす!」


 自爆テロ宣言。

 会場が凍りつく……はずだったが。


「おっ! 第2形態への移行演出ね!」


 エミリアだけは、目を輝かせていた。


「赤く光るなんてベタだけど、燃えるわ! クライマックスって感じ!」

「いいわよ、私も応える! 聖剣解放(リミッター解除)!!」


 彼女の聖剣もまた、黄金の光を帯びて唸りを上げ始める。


「やめろぉぉぉぉッ!!」


 俺は実況席で絶叫した。

 オークの自爆エネルギーと、勇者の全力攻撃。

 それが衝突したらどうなる?

 リングどころか、修復したばかりの魔王城が地図から消える!


(止めなければ! だが、魔法で介入すれば観客にバレる!)

(どうする!? 自然に、かつ確実に両者を無力化する方法は……!)


 俺の視界に、照明のスイッチが映った。

 これだ。


「……放送事故アクシデントだ」


 俺は指を鳴らし、【雷魔法・過負荷オーバーロード】を照明設備に流し込んだ。


 バツンッ!!


 会場の全ての照明が落ちた。

 完全な暗闇が、コロッセオを包み込む。


「えっ!? 停電!?」

「何も見えねぇ!」


 観客がパニックになる。

 その暗闇の中、俺の時間だけが加速する。


 スキル発動――【超・思考加速】。


 俺は実況席から飛び降り、コンマ0.5秒でリングの中央へ移動した。

 目の前には、今にも爆発しそうなオークと、剣を振りかぶったエミリア。


(悪いな、二人とも。ここからは『事務処理』の時間だ)


 俺は右手をオークの胸部――発光する魔導炉へ突っ込んだ。

 スキル【超・精密分解】。


 カチャカチャカチャッ!

 指先が残像と化す。

 起爆信管を抜き取り、魔力供給ケーブルを切断し、暴走するエネルギーを霧散させる。

 ついでに、危険な武装(ミサイルやレーザー砲)もすべてネジを外してバラバラにする。


「えっ? あ? 俺の体が……?」


 オークが困惑する間に、彼はただの「動けない金属の塊」へと解体された。

 俺は彼を優しく床に寝かせる。


「(悪いな。後で元の体に戻してやるから、今は寝てろ)」


 そして、俺はエミリアの剣の軌道上に、壊れた装甲板を放り投げた。

 ザシュッ!

 剣が装甲板を切り裂く手応えを演出する。


 作業完了。所要時間1秒。

 俺は瞬時に実況席へと戻り、照明スイッチを叩いた。


「復旧しろッ!」


 パッ!

 会場に明かりが戻る。


 そこには――

 バラバラのパーツになって横たわるオークと、剣を振り抜いたポーズで静止するエミリアの姿があった。


「…………へ?」


 エミリアが瞬きをする。


「あれ? 私、暗闇の中で斬っちゃった?

 ……手応え、あんまりなかったけど……?」


 一瞬の静寂。

 そして、シルフがマイクで叫んだ。


『み、見ましたか皆さん!

 照明トラブルによる暗闇の中、勇者エミリア選手が「心眼」による一撃で、敵を粉砕しましたぁぁぁ!!』


 ワァァァァァァァッ!!

 会場が揺れるほどの大歓声。


「すげぇぇ! 神速の居合だ!」「見えなかった!」

「トラブルすら演出に変えるとは、さすが勇者!」


 エミリアは状況が飲み込めないまま、とりあえずカメラに向かってVサインをした。


「あ、あはは……! まあね! 私にかかればこんなもんよ!(汗)」


 俺は椅子に深く沈み込み、冷たい水を一気飲みした。


(……ふぅ。危なかった。心臓が止まるかと思った)


 モニターの中で、解体されたオークの頭部が、虚空を見つめながら呟いているのが見えた。


『俺は……戦っていたはずなのに……。

 気づいたら「粗大ゴミ」として分別されていた……』


 不憫すぎる。

 後で最高級のオイルでも差し入れしてやろう。


「さあ! これで決勝進出者が決まりました!」


 シルフのアナウンスが響く。


「決勝戦のカードは……【魔王アルス vs 謎の覆面戦士】!!」


 反対側の花道から、黒いマントを纏った男が歩いてくる。

 予選を全て一撃で勝ち上がってきた、謎の挑戦者「ミスター・X」。

 その正体は、先代魔王の最側近にして、最強の暗黒騎士ガインだ。


 俺は立ち上がり、マントを翻した。


「……さて、仕上げといくか」


 俺の目的は、彼を倒すことではない。

 ブラック企業に染まりきった彼の根性を叩き直し、ウチの会社(ホワイト魔王軍)に「ヘッドハンティング」することだ。


【現在支持率:65.0%(勇者人気との相乗効果)】

【オークの状態:リサイクル待ち】

【次回予告:圧迫面接(物理)】

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