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第41話 支持率回復の特効薬、それは「お祭り(パンとサーカス)」 〜刺客の皆様、リングの上なら殺し合いOKです〜

 魔王城、大会議室。

 カジノの大成功と特上寿司の余韻は、完全に消え失せていた。


 部屋を支配しているのは、重苦しい沈黙と、ピリピリとした緊張感だ。


「……報告します」


 シルフがタブレットを操作し、魔都の地図を投影する。

 地図上のあちこちに、赤い「×」印がついている。


「昨晩未明、第三工業地区でボヤ騒ぎ。第四居住区の壁には『軟弱な魔王に死を』という落書き。さらに、カジノへの爆破予告が届いています」


「犯行声明は?」


「はい。『憂国騎士団』。……先代魔王を信奉する地下組織です」


 俺は深くため息をついた。

 姿なきテロリスト。

 彼らの活動により、民衆の間に「今の魔王で大丈夫なのか?」「治安が悪化している」という不安が広がっている。


『ピロン……』


 視界の隅で、嫌な音がした。


【現在支持率:65.0% → 58.0%(▼DOWN)】

【要因:治安悪化への懸念】


「下がった……!」


 俺は頭を抱えた。

 カジノで稼いだ貯金(支持率)が、見る見るうちに食いつぶされていく。

 このままでは、また「死のカウントダウン」が始まってしまう。


「ええい、まどろっこしい!」


 ヴォルカンがテーブルを叩き割った(今日で3台目だ)。


「魔王様! 軍を出しましょう! 騎士団のアジトとおぼしき場所を、片っ端から焼き払えばいいのです! 怪しい奴は全員拘束しろ!」


「ダメだ、ヴォルカン」


 俺は即座に却下した。


「敵は地下に潜り、一般市民に紛れている。無理な検問や捜索を行えば、無関係な市民を巻き込むぞ」

「そうなれば、俺たちは『市民を守る軍隊』から『市民を弾圧する暴君』に成り下がる。……支持率は地に落ち、俺の首が飛ぶ」


「ぐぬぬ……! では、手をこまねいて見ていろと!?」


「いいや。……攻めるさ」


 俺は立ち上がり、ホワイトボードの前に立った。

 マジックのキャップを外す。


「民衆が不安になっているのは、なぜだ? 『楽しみ』よりも『恐怖』が勝っているからだ」

「ならば、恐怖を忘れるほどの、ド派手な『熱狂』を与えればいい」


 俺は大きく文字を書いた。


『パンとサーカス』


「パンと……サーカスですの?」


 セレスティアが首を傾げる。


「ああ。人間界の古い帝国の統治術だ。食料パン娯楽サーカスを無償で提供すれば、民衆の不満は逸らされ、政権は安定する」


「なるほど……。カジノに続く、新たな娯楽ですか」


 ゴブ三郎が頷く。


「ですが、ただのお祭りでは、テロリストへの牽制にはなりませんよ?」


「そこだ。……今回の祭りは、敵をおびき寄せる『罠』も兼ねている」


 俺は不敵に笑い(胃痛を隠して)、宣言した。


「開催するぞ。『第一回・魔界天下一武闘会』を!」


          ◇


「ぶ、武闘会……?」


 四天王たちがざわめく。


「ルールは簡単だ。無差別級トーナメント。剣、魔法、なんでもあり。最強の魔族を決める戦いだ」


「待ってください魔王様。そんな野蛮なイベント、今の『ホワイト魔界』の方針に逆行しませんか?」


 リルが心配そうに尋ねる。

 確かに、血なまぐさい殺し合いは支持率を下げるリスクがある。

 だが、俺の狙いはそこじゃない。


「ただの殴り合いではない。これは『完全演出(台本)あり』のエンターテインメント・ショーだ」


「台本……?」


「そうだ。流血は最小限。派手な魔法エフェクトと、ドラマチックな展開で観客を沸かせる。いわば『プロレス』だ」


 俺はホワイトボードに図解した。


【目的1:支持率回復】

 民衆に「最強の魔王軍」の健在を見せつけ、安心感と娯楽を提供する。


【目的2:敵の炙り出し】

 ここが重要だ。

 テロリストたちは、陰に隠れてコソコソするのが得意だ。だが、彼らの目的は「現政権の打倒」と「自分たちの正義の証明」。

 ならば、「公衆の面前で魔王を倒せるチャンス」を与えれば、彼らは必ず食いつく。


「問題は『餌(賞品)』だ。名誉だけじゃ、慎重なテロリストは出てこない」


 俺はヴォルカンを見た。


「ヴォルカン。お前なら、何と言われたら命がけの大会に出る?」


「そりゃあ、『最強の称号』と……あと、『最新の筋トレ器具』があれば……」


「……お前は安上がりでいいな。だが、敵は政治犯だ。もっと生々しい『権力』を欲しがるはずだ」


 俺はペンを走らせ、優勝賞品を書き込んだ。


【優勝賞品:魔王への「願い」を一つ叶える権利】

(※予算配分の変更、法改正、人事権の行使を含む)


 会議室が凍りついた。


「ま、魔王様!? 正気ですか!?」

「そんな権利を与えたら、国が乗っ取られますわよ!?」


「だからこそ、敵は来るんだ。『優勝して、魔王に退位を命じる』……そんなシナリオを夢見てな」


 俺はニヤリと笑った。


「ネズミ捕りのコツを知っているか? 最高級のチーズを置いて、入り口を全開にしておくことだ」

「奴らがリングに上がればこっちのものだ。そこは『我々のルール』が支配する舞台。堂々と、合法的に、衆人環視の中で制圧(逮捕)できる」


「……なるほど。あえて隙を見せ、敵をリングという『檻』に誘い込むのですか」


 セレスティアが扇子を閉じた。


「悪趣味ですわね。でも、嫌いじゃありませんわ」


「よーし! ならば俺も出よう! 悪党どもをリングで粉砕してやる!」


 ヴォルカンが立ち上がる。


「ああ、頼むぞヴォルカン。セレスティアもだ。

 ただし! 忘れるなよ、これは『ショー』だ」


 俺は釘を刺した。


「勝敗は、実力だけじゃ決まらない。『観客の盛り上がり』と『魔王(俺)の採点』で決める」

「お前たちには、圧倒的な強さを見せつつ、挑戦者をギリギリまで引き立てる『ヒール(悪役)』を演じてもらうぞ」


「悪役……! くぅ〜ッ、燃えてきた!」


「ふふ、私が本気を出せば、観客全員を虜にしてしまいますわよ?」


 四天王たちはノリノリだ。

 よし、これならいける。


          ◇


 翌日。

 魔界全土に、号外がばら撒かれた。


【緊急開催! 第一回・魔界天下一武闘会!】

【優勝者は、魔王に「どんな願い」でも叶えてもらえる!?】

【求む、最強の挑戦者!】


 街は一気に沸き立った。

 「願いが叶うだと?」「税金ゼロにしてもらえるかも!」「俺も出るぞ!」

 不安な空気が吹き飛び、熱狂が支配する。


 そして――。


 魔都の地下深く、暗い下水道の一室。

 「憂国騎士団」のアジトにて。


 一人の男が、震える手で号外を握りしめていた。

 顔の半分に火傷の痕がある、歴戦の戦士。

 騎士団のリーダー、ガインだ。


「……愚かな魔王め。自ら首を差し出すか」


 ガインの口元が歪む。


「これは罠だ。だが、我らにとっては好機」

「テロなどというまどろっこしい手段ではない。公衆の面前で貴様を倒し、その口で『退位』を宣言させてやる」


 ガインは立ち上がり、愛剣を手に取った。

 その刀身には、緑色のドロリとした液体が塗られている。

 触れただけでドラゴンの皮膚をも溶かす、「神殺しの猛毒」だ。


「ルール? 知ったことか。……これは戦争だ」


          ◇


 執務室にて。

 続々と届く参加希望者のリストを見ながら、俺はほくそ笑んでいた。


「ふふふ……。『謎の覆面戦士』に『復讐の騎士』か……。釣れてる釣れてる」


「魔王様、参加枠が埋まりました。予選なしで、本戦トーナメントからスタートです」


 リルがスケジュールを調整する。


「よし。準備は整った。……さあ、最高の『茶番』を演じようぜ」


 俺はまだ知らなかった。

 敵が持ち込むのが「ゴム製の剣」でも「ハリボテ」でもなく、「ガチの殺傷兵器」であることを。

 そして、俺たちが徹夜で書いた脚本シナリオが、開幕数秒で崩壊することになる未来を。


【現在支持率:62.0%(大会への期待感でV字回復)】

【イベント準備:進行中】

【次回予告:脚本作りは修羅場です】

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