表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/75

第33話 発明! 悪魔的集金システム『ガチャ』 〜冒険者が家賃を突っ込む音が心地よい〜

 魔王城、地下開発ラボ。

 薄暗い部屋の真ん中に、俺――魔王アルスは腕組みをして立っていた。

 目の前には、開発部のゴブリン・エンジニアたちが徹夜で組み上げた、巨大な「金色の宝箱」が鎮座している。


「……魔王様。本当に、これで稼げるのですか?」


 秘書官のリルが、疑わしげな眼差しを向けてくる。


「ダンジョンのリフォームは成功しました。入場者数は増えています。これ以上、何を?」


「甘いな、リル。入場料なんてたかが知れている」


 俺は決算書をヒラヒラと振った。


「入場料500ゴールド。飲食代で平均300ゴールド。……これじゃあ、あの莫大な借金を返すのに100年かかる計算だ」

「薄利多売には限界がある。必要なのは、『客単価の爆発的な向上』だ」


 俺はニヤリと笑い、金色の宝箱を撫でた。


「人間は『手に入れた物』よりも、『手に入りそうで入らない物』に金を払う生き物だ。……その心理バグを突く」


「はぁ……?」


「見せてやろう。前世で俺の給料の半分を吸い尽くした、人類史上最悪の発明品をな!」


          ◇


 翌日。

 『ドリーム・ラビリンス(旧・嘆きの洞窟)』の出口エリアに、異様な行列ができていた。


「なんだあれ? 新しいショップか?」

「宝箱……? でも、鍵穴がないぞ?」


 冒険者たちがザワつく中、俺は変装(黒騎士モード)して、説明役のゴブリンの横に立った。


「さあさあ、寄ってらっしゃい!

 これぞ魔界の最新テクノロジー、『運命の宝箱ルートボックス』だ!」


 システムはこうだ。

 ダンジョン内のモンスターは、装備品やアイテムを直接ドロップしない。

 代わりに「魔石トークン」を落とす。

 このトークン10個を、この箱の投入口に入れると――。


「アイテムがランダムで一つ、排出される!」


「へっ、なんだよそれ。面倒くさいな」


 一人の戦士が鼻で笑った。


「普通に店で買えばいいだろ。誰がそんな不確定なもん……」


「目玉商品は、これだ!」


 俺は看板をバッとめくった。

 そこに描かれていたのは、輝く笑顔の美少女の写真。


【SSR(0.1%):勇者エミリア直筆サイン入りブロマイド】

【効果:所持しているだけで攻撃力+5%(精神的高揚による)】


「なっ……!?」


 戦士の目の色が変わった。

 勇者エミリア。人間界のアイドル。その直筆サインなど、国宝級のレアアイテムだ。


「そ、そんなもんが本当に入ってるのか!?」


「ああ。確率は低いが、確かに入っている。……試してみるか?」


 戦士は震える手で、狩りで集めたトークンを投入口に入れた。

 チャリン。


 その瞬間。

 宝箱が激しく振動し、派手なファンファーレが鳴り響いた。


 ドゥルルルルルル……!!(ドラムロール音)


「おっ、おおお!? なんだこの音は!」


 箱の隙間から、光が漏れる。

 色は――「青」。


 ポンッ。

 排出口からコロンと出てきたのは、「薬草(枯れかけ)」だった。


「……は?」


「残念、ノーマル(N)だ。ハズレだな」


「ふ、ふざけんな! 薬草なんて道端に生えてるだろ!」


「まあまあ。次こそは出るかもしれないぞ? ほら、今の光、ちょっと赤っぽくなかったか?」


「え? そ、そうか? ……くそっ、もう一回だ!」


 チャリン。

 ドゥルルル……。

 今度は、隙間から「赤」い光が漏れる!


「来た! 赤だ! レアか!?」


 ポンッ。

 出てきたのは、「上級ポーション」。


「おおっ! レア(R)だ! 店で買うよりちょっと安いぞ! お得だ!」


 戦士がガッツポーズをする。

 俺は仮面の下でほくそ笑んだ。

 これだ。この「勝った感」こそが、思考を麻痺させる麻薬なのだ。


「よし、次は虹色(SSR)だ! まだトークンはあるぞ!」


 戦士は取り憑かれたようにコインを投入し始めた。

 周りの冒険者たちも、その様子を固唾を飲んで見守っている。


 青。青。青。赤。青。青。


「くそっ! 出ない! なんでだ!」


 手持ちのトークンが尽きた。

 だが、彼の脳内には、さっき見た「赤い光」の興奮が焼き付いている。

 あと一回。次は出るはず。そういう思考回路バグが出来上がっている。


「……おい。トークンは『現金』でも買えるのか?」


 かかった。

 俺は静かに頷いた。


「ああ。10連分で3000ゴールドだ」


「くれ! あり金全部だ!」


          ◇


 数時間後。

 ダンジョンの出口は、異様な熱気に包まれていた。


「虹だああああ! SSRキターーーッ!!」

「うおおお! おめでとう!」

「チクショー! 俺は爆死だ! 来月の家賃がねぇ!」


 歓喜の絶叫と、絶望の悲鳴が交差する。

 ある者は剣を売り払い、ある者は借用書を書いてトークンを買っていた。


 その光景を影から見ていたリルが、青ざめた顔で震えていた。


「魔王様……。これは、剣や魔法よりも恐ろしい……」


「ああ」


「人間が、自ら進んで破産していく……。確率という名の悪魔に、魂を食われています」


「その通りだ。人間は『手に入れた物』の価値よりも、『手に入りそうで入らない物』への執着に金を払うんだ」


 俺は積み上がった金貨の山を見た。

 わずか数時間で、過去一ヶ月分の売上を超えている。

 ボロ儲けだ。

 SSRの原価(紙切れ一枚)を考えれば、利益率はほぼ100%。


 だが。

 一人の若手冒険者が、ガックリと膝をついて泣き崩れているのが目に入った。


「うぅ……出ない……。なけなしの装備も売ったのに……。もう、死ぬしか……」


 ……さすがに、心が痛んだ。

 俺も前世では、給料日直後のガチャ爆死で何度「もやし生活」を強いられたことか。

 搾り取るのはいいが、客を殺してしまっては元も子もない。


「……リル。システムを緊急アップデートしろ」


「えっ? 排出率を上げますか?」


「いや、確率はそのままだ。『天井』を設ける」


「テンジョウ……?」


「トークンを300回分投入してもSSRが出なかった場合、『好きなSSRを一つプレゼント』する救済措置だ」


 リルが計算機を叩く。


「300回……金額にして約9万ゴールドですね。……魔王様、それは『救済』と言うのでしょうか? ただの『高額定価販売』では?」


「バカ者! 沼にハマった人間にとって、それは『出口』という名の慈悲なんだよ!」


 俺は泣いている冒険者に歩み寄り、肩を叩いた。


「若者よ。……神(運営)からの啓示があった。あと10回回せば、必ず願いは叶う(天井到達)そうだ」


「えっ……ほんとですか!?」


「ああ。魔王軍は、努力した者を裏切らない(金さえ払えば)」


 彼は震える手で最後の金を出し、そして――天井到達により、ブロマイドを手に入れた。


「やったぁぁぁ! ありがとう! ありがとう魔王様!」


 彼はブロマイドを抱きしめ、涙を流して感謝した。

 周りの冒険者たちも、「300回回せばタダ(実質無料)でもらえるのか!」「良心的だ!」と拍手喝采だ。


 リルが遠い目をしている。


「……搾取されているのに感謝している。狂っています」


「これが『ガチャ文明』だ。……さて、回収した資金で借金を返すぞ」


 俺は罪悪感を胃薬で押し流し、金貨の山を抱えた。

 国庫は潤った。

 ダンジョン経営は軌道に乗った。


 だが、この「射幸心を煽るビジネス」が、魔界議会の保守派(頑固ジジイたち)の逆鱗に触れることになる。


「賭博は魔族の風紀を乱す!」

「カジノ法案、絶対反対!」


 次なる戦場は、議会議事堂。

 物理攻撃無効の「老人たち」との、泥沼の法案審議が待っていた。


【現在国庫:黒字転換(大幅プラス!)】

【冒険者の貯金:壊滅】

【獲得称号:悪徳運営】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ