第33話 発明! 悪魔的集金システム『ガチャ』 〜冒険者が家賃を突っ込む音が心地よい〜
魔王城、地下開発ラボ。
薄暗い部屋の真ん中に、俺――魔王アルスは腕組みをして立っていた。
目の前には、開発部のゴブリン・エンジニアたちが徹夜で組み上げた、巨大な「金色の宝箱」が鎮座している。
「……魔王様。本当に、これで稼げるのですか?」
秘書官のリルが、疑わしげな眼差しを向けてくる。
「ダンジョンのリフォームは成功しました。入場者数は増えています。これ以上、何を?」
「甘いな、リル。入場料なんてたかが知れている」
俺は決算書をヒラヒラと振った。
「入場料500ゴールド。飲食代で平均300ゴールド。……これじゃあ、あの莫大な借金を返すのに100年かかる計算だ」
「薄利多売には限界がある。必要なのは、『客単価の爆発的な向上』だ」
俺はニヤリと笑い、金色の宝箱を撫でた。
「人間は『手に入れた物』よりも、『手に入りそうで入らない物』に金を払う生き物だ。……その心理を突く」
「はぁ……?」
「見せてやろう。前世で俺の給料の半分を吸い尽くした、人類史上最悪の発明品をな!」
◇
翌日。
『ドリーム・ラビリンス(旧・嘆きの洞窟)』の出口エリアに、異様な行列ができていた。
「なんだあれ? 新しいショップか?」
「宝箱……? でも、鍵穴がないぞ?」
冒険者たちがザワつく中、俺は変装(黒騎士モード)して、説明役のゴブリンの横に立った。
「さあさあ、寄ってらっしゃい!
これぞ魔界の最新テクノロジー、『運命の宝箱』だ!」
システムはこうだ。
ダンジョン内のモンスターは、装備品やアイテムを直接ドロップしない。
代わりに「魔石」を落とす。
このトークン10個を、この箱の投入口に入れると――。
「アイテムがランダムで一つ、排出される!」
「へっ、なんだよそれ。面倒くさいな」
一人の戦士が鼻で笑った。
「普通に店で買えばいいだろ。誰がそんな不確定なもん……」
「目玉商品は、これだ!」
俺は看板をバッとめくった。
そこに描かれていたのは、輝く笑顔の美少女の写真。
【SSR(0.1%):勇者エミリア直筆サイン入りブロマイド】
【効果:所持しているだけで攻撃力+5%(精神的高揚による)】
「なっ……!?」
戦士の目の色が変わった。
勇者エミリア。人間界のアイドル。その直筆サインなど、国宝級のレアアイテムだ。
「そ、そんなもんが本当に入ってるのか!?」
「ああ。確率は低いが、確かに入っている。……試してみるか?」
戦士は震える手で、狩りで集めたトークンを投入口に入れた。
チャリン。
その瞬間。
宝箱が激しく振動し、派手なファンファーレが鳴り響いた。
ドゥルルルルルル……!!(ドラムロール音)
「おっ、おおお!? なんだこの音は!」
箱の隙間から、光が漏れる。
色は――「青」。
ポンッ。
排出口からコロンと出てきたのは、「薬草(枯れかけ)」だった。
「……は?」
「残念、ノーマル(N)だ。ハズレだな」
「ふ、ふざけんな! 薬草なんて道端に生えてるだろ!」
「まあまあ。次こそは出るかもしれないぞ? ほら、今の光、ちょっと赤っぽくなかったか?」
「え? そ、そうか? ……くそっ、もう一回だ!」
チャリン。
ドゥルルル……。
今度は、隙間から「赤」い光が漏れる!
「来た! 赤だ! レアか!?」
ポンッ。
出てきたのは、「上級ポーション」。
「おおっ! レア(R)だ! 店で買うよりちょっと安いぞ! お得だ!」
戦士がガッツポーズをする。
俺は仮面の下でほくそ笑んだ。
これだ。この「勝った感」こそが、思考を麻痺させる麻薬なのだ。
「よし、次は虹色(SSR)だ! まだトークンはあるぞ!」
戦士は取り憑かれたようにコインを投入し始めた。
周りの冒険者たちも、その様子を固唾を飲んで見守っている。
青。青。青。赤。青。青。
「くそっ! 出ない! なんでだ!」
手持ちのトークンが尽きた。
だが、彼の脳内には、さっき見た「赤い光」の興奮が焼き付いている。
あと一回。次は出るはず。そういう思考回路が出来上がっている。
「……おい。トークンは『現金』でも買えるのか?」
かかった。
俺は静かに頷いた。
「ああ。10連分で3000ゴールドだ」
「くれ! あり金全部だ!」
◇
数時間後。
ダンジョンの出口は、異様な熱気に包まれていた。
「虹だああああ! SSRキターーーッ!!」
「うおおお! おめでとう!」
「チクショー! 俺は爆死だ! 来月の家賃がねぇ!」
歓喜の絶叫と、絶望の悲鳴が交差する。
ある者は剣を売り払い、ある者は借用書を書いてトークンを買っていた。
その光景を影から見ていたリルが、青ざめた顔で震えていた。
「魔王様……。これは、剣や魔法よりも恐ろしい……」
「ああ」
「人間が、自ら進んで破産していく……。確率という名の悪魔に、魂を食われています」
「その通りだ。人間は『手に入れた物』の価値よりも、『手に入りそうで入らない物』への執着に金を払うんだ」
俺は積み上がった金貨の山を見た。
わずか数時間で、過去一ヶ月分の売上を超えている。
ボロ儲けだ。
SSRの原価(紙切れ一枚)を考えれば、利益率はほぼ100%。
だが。
一人の若手冒険者が、ガックリと膝をついて泣き崩れているのが目に入った。
「うぅ……出ない……。なけなしの装備も売ったのに……。もう、死ぬしか……」
……さすがに、心が痛んだ。
俺も前世では、給料日直後のガチャ爆死で何度「もやし生活」を強いられたことか。
搾り取るのはいいが、客を殺してしまっては元も子もない。
「……リル。システムを緊急アップデートしろ」
「えっ? 排出率を上げますか?」
「いや、確率はそのままだ。『天井』を設ける」
「テンジョウ……?」
「トークンを300回分投入してもSSRが出なかった場合、『好きなSSRを一つプレゼント』する救済措置だ」
リルが計算機を叩く。
「300回……金額にして約9万ゴールドですね。……魔王様、それは『救済』と言うのでしょうか? ただの『高額定価販売』では?」
「バカ者! 沼にハマった人間にとって、それは『出口』という名の慈悲なんだよ!」
俺は泣いている冒険者に歩み寄り、肩を叩いた。
「若者よ。……神(運営)からの啓示があった。あと10回回せば、必ず願いは叶う(天井到達)そうだ」
「えっ……ほんとですか!?」
「ああ。魔王軍は、努力した者を裏切らない(金さえ払えば)」
彼は震える手で最後の金を出し、そして――天井到達により、ブロマイドを手に入れた。
「やったぁぁぁ! ありがとう! ありがとう魔王様!」
彼はブロマイドを抱きしめ、涙を流して感謝した。
周りの冒険者たちも、「300回回せばタダ(実質無料)でもらえるのか!」「良心的だ!」と拍手喝采だ。
リルが遠い目をしている。
「……搾取されているのに感謝している。狂っています」
「これが『ガチャ文明』だ。……さて、回収した資金で借金を返すぞ」
俺は罪悪感を胃薬で押し流し、金貨の山を抱えた。
国庫は潤った。
ダンジョン経営は軌道に乗った。
だが、この「射幸心を煽るビジネス」が、魔界議会の保守派(頑固ジジイたち)の逆鱗に触れることになる。
「賭博は魔族の風紀を乱す!」
「カジノ法案、絶対反対!」
次なる戦場は、議会議事堂。
物理攻撃無効の「老人たち」との、泥沼の法案審議が待っていた。
【現在国庫:黒字転換(大幅プラス!)】
【冒険者の貯金:壊滅】
【獲得称号:悪徳運営】




