第29話 シナリオ崩壊!? ガチの暴走と、夜空を焦がす「接待花火」
ジュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!
視界が深紅に染まる。
勇者エミリアが放った『禁断の奥義』――自身の寿命を魔力に変換して放つ極太のレーザーが、俺の目の前まで迫っていた。
熱い。
オートスキルの『絶対防御結界』越しでも、肌が焼けるような熱気を感じる。
これは、演出ではない。
触れた物質を原子レベルで分解する、真正の「破壊の光」だ。
『魔王様! 直撃コースです! 避けてください!』
リルの絶叫がインカムから響く。
避ける?
できるわけがない。俺が避ければ、背後にある玉座が消し飛び、その先の城下町まで火の海になる。
かといって、力任せに弾き返せば、消耗しきったエミリアは衝撃波だけで消し飛ぶだろう。
(詰んだ……!? 何もしなければバッドエンドだ!)
脳内時計がスローモーションになる。
俺は、剣を捨てた。
こんな棒きれでは、このエネルギーの奔流は止められない。
(……演技は終了だ。ここからは、最高難易度の「あやとり」の時間だ!)
俺は両足を大きく開き、腰を落とした。
右手を前に、左手を腰に。
迫りくる破滅の光に向かって、素手を突き出す。
「ぬんッ!!」
バチチチチチッ!!
俺の手のひらとレーザーが接触した。
衝撃が骨を伝い、全身を駆け巡る。
俺は魔力を「膜」のように展開し、レーザーを包み込んだ。
「ぐっ……! 重い……!」
物理的な質量ではない。
これは、彼女の「認められたい」「愛されたい」という、渇望の重さだ。
承認欲求という名のエネルギーは、これほどまでに重く、熱いのか。
「嘘……私の全力、受け止めてる!?」
光の向こうで、エミリアが驚愕の声を上げる。
俺は歯を食いしばった。
受け止めるだけではダメだ。この膨大なエネルギーを、どこかへ逃がさなければならない。
(相殺はしない。弾きもしない。……「誘導」する!)
俺は、掌の中で暴れまわるエネルギーのベクトルを感じ取った。
真っ直ぐ進もうとする力を、螺旋の回転力へと変換する。
柔よく剛を制す。その超規模版だ。
「おおおおおおッ!!」
俺は全身のバネを使い、受け止めた光の塊を、強引にねじ曲げた。
水平方向から、垂直方向へ。
狙うは、頭上――天井のドームガラス!
「いけぇぇぇぇぇぇッ!!」
ズバァァァァン!!
俺の手から放たれたレーザーは、軌道を90度変え、天井を突き破って夜空へと昇っていった。
粉々に砕け散る特注ガラス。
キラキラと降ってくる破片の中で、光の柱は雲を貫き、成層圏まで到達する。
だが、これで終わりではない。
俺は、天に放たれた光に向けて、最後の「仕上げ」の魔法を追撃した。
(ただの爆発じゃ芸がない。……もっと、客が喜ぶやつに変えてやる!)
追加スキル発動――【変質魔法・七色】。
◇
魔王城の上空。
成層圏で炸裂した破壊のエネルギーは、俺の魔法と混ざり合い、化学反応を起こした。
カッ……!
一瞬、夜空が真昼のように明るくなり。
次の瞬間、空一面に巨大なオーロラが出現した。
赤、青、翠、黄金。
極彩色の光のカーテンが、魔界の暗い空を覆い尽くし、ゆらゆらと揺らめきながら降り注ぐ。
殺意の塊だった技が、世界で一番美しい光景に変わったのだ。
「……え?」
エミリアが、呆然と空を見上げる。
その瞳に、七色の光が映り込む。
「きれい……。これが、私の技……?」
城下町で怯えていた民衆も、モニターを見ていた視聴者も、全員が言葉を失った。
そして、爆発的な歓声が世界を揺らした。
『うおおおおおおお!!』
『何この演出!? 神がかってる!』
『破壊光線がオーロラになったぞ!』
『美しい……』
『スクショ祭りじゃあああ!』
コメント欄が光の速さで流れていく。
恐怖は感動へ、戦慄は熱狂へと上書きされた。
◇
玉座の間。
降り注ぐオーロラの下で、エミリアがよろめいた。
全魔力、全精力を使い果たした反動だ。
「あっ……」
彼女の膝が折れ、床に崩れ落ちそうになる。
俺は【縮地】で瞬時に移動し、彼女の体を支えた。
いわゆる、お姫様抱っこの形だ。
「……っと。大丈夫か?」
「く、黒騎士……さん……?」
エミリアが薄く目を開ける。
俺は、ここが正念場だと腹を括った。
このまま俺が立っていては、勇者の顔が立たない。
俺は、エミリアを抱えたまま、ゆっくりと膝をついた。
そして、わざとらしく荒い息を吐く。
「はぁ、はぁ……。ぐっ……!」
口元(仮面の下)を押さえ、苦痛を演じる。
「み、見事だ……勇者よ。あの技……受け流すのが精一杯だったぞ……」
「えっ……?」
「あと一歩、踏み込みが深ければ……私が消し飛んでいた。……私の、負けだ」
大嘘である。
実際はMPが1割減った程度だ。
だが、俺の言葉を聞いたエミリアの瞳に、涙が滲んだ。
「勝った……の? 私、魔王に……勝てたの……?」
「ああ。完勝だ。……誇っていい」
俺は彼女の頭を、鎧の手で不器用に撫でた。
「……よかったぁ……」
エミリアは安堵の息を漏らし、そのまま俺の腕の中で脱力した。
気絶だ。いや、安心しきっての熟睡に近い。
寝顔は、年相応の少女のそれだった。
――カーン! カーン! カーン!
シルフが鳴らすゴングの音が響き渡る。
『勝負ありぃぃぃっ!
勇者エミリアの超必殺技により、魔王アルス、ダウン!
よって、勝者、勇者エミリアーーッ!!』
ワァァァァァァァッ!!
割れんばかりの拍手と歓声。
俺はエミリアを抱いたまま、天井に空いた大穴を見上げた。
オーロラの光が、優しく俺たちを照らしている。
(……ふぅ。終わった)
俺は仮面の下で、長い長い息を吐いた。
勝負には負けた(ことにした)。
だが、俺の目的――「城を守り、勇者を満足させ、支持率を上げる」ことは、120%達成された。
(……にしても、あの天井の特注ガラス、修理費いくら掛かるんだろうなぁ……)
美しすぎるオーロラの向こうに、請求書の山を幻視しながら。
俺は、完全なる「戦略的勝利」を噛み締めていた。
【現在支持率:65.0%(カリスマ爆発)】
【勇者エミリア:攻略完了(好感度MAX)】
【修理費見積もり:算出中……】




