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第21話 謎の黒騎士と、コラボ配信のオファー 〜その壺を割るな! 鑑定額5億だぞ!〜

 国防大臣ヴォルカン(プロテイン欠乏のショックで気絶中)の巨体がスタッフ――もとい、オークたちによって搬出されていく。

 その光景を見送りながら、俺は「黒騎士」としての仮面の下で、胃薬を嚙み砕きたい衝動と戦っていた。


「ねえねえ、黒騎士さん!」


 不意に、視界に自撮り棒が割り込んでくる。

 勇者エミリアだ。彼女はカメラに向かって、あざとい上目遣いをキメていた。


「助けてくれてありがと! あなた強すぎ! 一撃でドラゴンを倒しちゃうなんて!」


「……フッ。通りすがりの騎士に過ぎん。礼には及ばない(早く帰ってくれ)」


「そんなこと言わずにさ! 私のチャンネルでコラボしない? 今日のダンジョン攻略、最後まで付き合ってよ! 登録者数100万人記念のスペシャルゲストってことで!」


 エミリアが俺の腕にガシッと絡みつく。

 コメント欄が滝のように流れる。

『黒騎士ルート入った!』『謎のイケメンw』『コラボktkr!』


(……断りたい。切実に断りたい)


 だが、ここで俺が離脱したらどうなる?

 次は「カジノエリア」。その次は「国宝庫」。

 この破壊神(勇者)を野放しにすれば、被害総額が国家予算を超えるのは確実だ。


(……やるしかない。俺が現場監督マネージャーとして同行し、彼女の暴走を未然に防ぐんだ!)


「……よかろう。この城は危険だ。か弱きレディを一人にはしておけん」


「やったー! 決定! みんな、スクショタイムだよ〜☆」


 こうして、勇者パーティ+魔王(変装)という、呉越同舟の即席コラボパーティが結成された。


          ◇


 第2エリアを抜け、城の深部へと続く長い回廊。

 ここには、先代魔王が収集した美術品や、魔界の歴史を記した壁画などが飾られている。いわば「魔王城の博物館」的なエリアだ。


 俺たちはそこを歩いていた。


「へぇ〜、なんか雰囲気あるね。お化け屋敷みたい」


 エミリアは興味なさそうに周囲を見回している。

 だが、ある一点で彼女の目がピクリと動いた。


「あ! 怪しい壺ハッケン!」


 廊下の隅に飾られた、青磁の壺。

 東方の島国から取り寄せた、人間国宝級の逸品である。


「RPGの鉄則! 『壺を見たら割れ』! 中に「ちいさなメダル」とか入ってるかも!」


 エミリアが躊躇なく聖剣の柄を振り上げる。

 迷いがない。完全に「壺=アイテムボックス」という認識だ。


(やめろぉぉぉぉッ!!)


 俺の脳内で警報が鳴り響く。

 それは財務諸表上の「固定資産」だ! 鑑定額5億ゴールドだぞ! 割ったらカジノの売上が吹っ飛ぶ!


 俺は思考するより早く動いた。

 スキル【縮地】。

 音速でエミリアと壺の間に割り込む。


 ガキンッ!!


 聖剣の柄が、俺の漆黒のガントレットに受け止められ、火花を散らす。


「えっ!?」


 エミリアが目を丸くする。

 俺は冷や汗をダラダラ流しながら(仮面で見えないが)、低音ボイスで囁いた。


「……待て。その壺には触れるな」


「え、なんで? ただの壺でしょ?」


「ただの壺ではない。……これには、強力な『爆破の呪い』がかけられている」


「ば、爆破!?」


「ああ。割った瞬間、半径10メートルを吹き飛ばすトラップだ。……危ないところだったな、お嬢さん」


 大嘘である。

 だが、俺の必死さが迫真の演技(というか本気)として伝わったらしい。

 エミリアの頬がポッと染まる。


「そ、そうだったの……。私を庇って……?」


『イケメンすぎワロタ』

『ナイトの鑑だわ』

『壺にまで罠とか魔王軍えげつないな』


 コメント欄も称賛の嵐だ。

 よし、誤魔化せた。

 俺は安堵の息を吐き、そっと壺を撫でた。(無事でよかった……あとで倉庫にしまおう……)


          ◇


「ふぅ……ちょっと休憩しよっか」


 回廊のベンチで、エミリアが配信を一時停止ミュートにした。

 カメラのバッテリー交換タイムだ。


 その瞬間、彼女の纏っていたキラキラしたオーラが霧散した。

 ドサッ、と重そうに聖剣を置き、肩を回す。


「あー、肩凝った。今のリアクション、ちょっと大げさすぎたかな? アンチ湧いてない?」


 スマホを取り出し、真顔でSNSの反応をチェックし始める。

 さっきまでの「キャピキャピした勇者」はどこへやら。そこにいるのは、数字に追われる「仕事人」の顔だった。


「……大変だな」


 俺は思わず、素の声で労ってしまった。


「ん? まあね。期待されてる『勇者像』を演じるのも楽じゃないのよ」


 彼女はため息をつき、ミネラルウォーターをあおる。

 その姿に、俺は奇妙なシンパシーを感じていた。

 立場は違えど、俺たちはお互い「キャラ作り」に必死な中間管理職みたいなものかもしれない。


 だが、そんな感傷に浸っている場合ではなかった。

 勇者パーティの一員、魔法使いの少女(眼鏡っ子・インテリ枠)が、俺に詰め寄ってきたのだ。


「……ねえ、黒騎士さん」


 彼女は杖を俺に向け、疑いの眼差しを向けている。


「さっきの防御速度、それに身体から漏れ出る魔力の波長……。どこかで感じたことがあるわ」


 ギクリ。

 俺は心臓が止まりそうになった。

 彼女はパーティの分析担当。勘が鋭い。


「測定したデータによると、今の魔王――アルス・ヴォルゴートの魔力波長と98%一致しているのよ。……貴方、何者?」


「ッ……!?」


 バレた!?

 いや、まだだ。ここで正体を明かせば、その場で戦闘になり、城が壊れる。

 俺は必死に脳を回転させた。言い訳を考えろ。魔王と同じ魔力を持つ理由……!


「……クックック」


 俺はあえて不敵に笑い、マントで口元を隠した。


「鋭いな、魔法使いの娘よ。だが、少し違う」


「違う?」


「私が魔王と同じ波長を持つ理由……それは、私が魔王の『熱狂的ファン(古参オタク)』だからだ!」


「は?」


 魔法使いが口を開けた。


「私は魔王アルス様を崇拝するあまり、彼と同じ魔力波長になるよう、自らを改造し、呼吸法まで真似ているのだ! この鎧も、魔王様のコスプレだ!」


「コ、コスプレ……?」


「そうだ! 故に魔力が似ているのは当然! いわば『推し』への愛の深さが、数値として表れているに過ぎん!」


 苦しい。あまりにも苦しい言い訳だ。

 だが、常識では測れない「オタクの情熱」という未知の概念に、魔法使いは混乱したようだ。


「そ、そう……。魔界にはそんなディープな文化が……。ごめんなさい、変な疑いをかけて」


「いや、構わん。(推しへの愛は世界共通だからな……)」


 なんとか誤魔化せた(ことにする)。

 冷や汗で鎧の中がびしょ濡れだ。


「おまたせ〜! 配信再開するよ〜!」


 エミリアが再びアイドルモードに戻り、カメラを起動した。


「次は第3エリア! 噂の『娯楽エリア』だよ!」


 次なる目的地は、リベラル派が運営する「魔界カジノ・ラスベガス」。

 そこは、魔王軍の貴重な外貨獲得源であり、同時に「絶対に客が勝てない設定」になっている魔窟だ。


「私、ギャンブルには自信あるの! 視聴者プレゼント代、ここで稼いじゃうから!」


 エミリアが自信満々に宣言する。

 俺は仮面の下で顔を覆った。


(やめろ……! そのカジノは今、回収モード(設定1)なんだ! 泥沼にハマって放送事故になる未来しか見えない!)


 最強の魔王の胃痛の旅は、まだまだ続く。


【現在支持率:56.0%】

【守った壺の価値:5億G】

【黒騎士の正体:魔王ガチ勢(という設定)】

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