第20話 開演! 命がけの「接待ダンジョン」 〜ドラゴンの激怒(アドリブ)は台本にありません〜
魔王城、第1エリア「嘆きの回廊」。
ここは本来、侵入者を最初にふるい落とすためのオーク族の防衛ラインだ。
だが今は、即席の「コラボ配信」のステージと化していた。
「みんな〜! 見て見て! 謎の黒騎士さんとパーティ組んじゃった!」
勇者エミリアが自撮り棒を掲げ、俺(黒騎士姿)を画角に入れる。
俺は仮面の奥で引きつった笑みを浮かべつつ、それっぽいポーズを取る。
「……フッ。我が剣技、特等席で見るがいい」
「キャー! イケボ! コメント欄も『誰だこいつw』って盛り上がってるよ!」
(誰だこいつ、で盛り上がってるのか……)
そこへ、通路の奥からオークの部隊が現れた。
彼らは昨晩、俺が直々に演技指導をした「劇団魔王軍」の精鋭たちだ。
「グガァァ! 人間め、ここを通したくば俺を倒してから行けぇぇ!(棒読み)」
「出たわね! いくよ黒騎士さん!」
エミリアが軽く聖剣を振るう。
剣圧が飛ぶ。
それはオークにかすりもしなかったが――
「グ……グワァァァァ! や、やられたァァァ!」
オークたちは「待ってました」と言わんばかりに、芸術的な後方宙返り(ムーンサルト)を決めて吹き飛んでいった。
壁に激突し、ピクリとも動かなくなる(死んだふり)。
「あれ? 私、剣振っただけなのに? 風圧で飛んじゃった?」
エミリアがキョトンとして自分の手を見る。
「……私、また強くなっちゃったのかな~?(ドヤ顔)」
(……ナイスだ、オーク達。昨日の練習通り、完璧な「過剰リアクション」だ!)
俺は心の中でサムズアップした。
順調だ。この調子なら、城の被害ゼロでカジノエリアまで誘導できる。
――そう思っていた時期が、俺にもありました。
◇
第2エリア、「焦熱の回廊」。
床からは溶岩の熱気が立ち上り、壁は赤く焼け付いている。
ここは国防大臣ヴォルカンの管轄エリアだ。
通路の中央に、腕組みをして仁王立ちする巨漢がいた。
「よ、よく来たな勇者よ! ここから先は通さんぞー!」
ヴォルカンだ。
迫力は満点だが、視線が泳いでいる。足元に置いたカンペ(台本)をチラ見しているのがバレバレだ。
「強そう……! さっきのオークとはオーラが違うわ!」
エミリアが警戒して構える。
ここまではよかった。
だが、ここで俺のインカムに、広報のシルフから通信が入った。
『魔王様、コメント欄が荒れ気味です。『ボスが棒読みw』『迫力不足』『ただのデカいトカゲじゃん』って書かれてます』
(マズいな……ヴォルカンはエゴサするタイプだぞ)
案の定、ヴォルカンのこめかみに青筋が浮かんだ。
彼の耳には、翻訳魔法でコメントがリアルタイムに届いているはずだ。
『動きがトロそう』
『爬虫類ショップにいそう』
『勇者ちゃん、こんなトカゲ瞬殺しちゃえよ』
――プツン。
何かが切れる音がした。
ヴォルカンが、足元のカンペを踏み砕く。
「……誰が、トカゲだ……?」
低い、地の底から響くような声。
空気がビリビリと振動し、室温が一気に10度くらい上がる。
「えっ? 急に雰囲気が……」
エミリアが後ずさる。
ヴォルカンの目が血走っていた。演技ではない。マジギレだ。
「俺は! 誇り高き古の竜王の血族! 紅蓮の覇者ヴォルカンぞォォォッ!!」
「トカゲ呼ばわりした貴様ら! 全員、灰にしてくれるわァァァ!!」
ヴォルカンが大きく息を吸い込む。
胸郭が膨れ上がり、口元に太陽のような光が集束していく。
それは、台本にあった「照明用の威嚇ブレス」ではない。
俺が第7話で食らった、城壁をも溶かす「戦略級・極大熱線」だ。
(馬鹿野郎!! その光は演出用じゃない! 撮影クルーごと蒸発するぞ!!)
俺は思考を加速させる。
止めなきゃならない。だが、どうやって?
力でねじ伏せれば「黒騎士=魔王」だとバレる。かといって放置すれば全滅だ。
「消えろォォォォッ!!」
ヴォルカンがブレスを解き放つ。
極太の熱線が、勇者一行を飲み込もうと迫る。
「きゃああっ!?」
エミリアが悲鳴を上げ、防御態勢を取る。だが間に合わない。
俺は――飛んだ。
「チッ、世話の焼ける共演者だ!」
俺はエミリアの前に躍り出る。
防御ではない。受け止めるフリをして、空間をねじ曲げる。
スキル発動――【次元回廊】。
俺が突き出した手のひらの先に、漆黒の「穴」が開く。
ヴォルカンの放った数千度の熱線は、俺に当たる直前でその穴に吸い込まれ――
ヒュンッ!
消えた。
そして次の瞬間。
ドォォォォォォン!!
魔王城のはるか上空。
転送された熱線が炸裂した。
さらに、俺がとっさに追加した【着色魔法】により、爆炎は赤、青、黄色に分光し、夜空に巨大な花火となって咲き誇った。
「た、たまや〜……?」
エミリアがポカンとして空を見上げる。
コメント欄が爆速で流れる。
『ファッ!?』
『ブレスが花火になった!?』
『すげええええ! どんなマジックだよ!』
『神演出キター!』
『スパチャ投げるわ!!』
(ふぅ……なんとか誤魔化せたか……!)
俺は冷や汗を拭いながら、呆然としているヴォルカンの懐に飛び込んだ。
すれ違いざま、彼の耳元で、ドスの効いた声で囁く。
「……ヴォルカン。約束通り、来期のプロテイン配給は無しだ。ジムも閉鎖な」
「!!??」
その言葉は、どんな攻撃魔法よりも深く、ヴォルカンの心をえぐった。
彼の顔色が赤から土気色に変わる。
「あ、あぁ……俺の筋肉が……分解される……」
ヴォルカンは絶望のあまり膝をつき、
「ぐ、ぐわァァァァァ!(心の叫び)」
と叫んで、白目をむいて倒れた。
ショック死寸前の気絶だ。
俺はマントを翻し、剣を鞘に納める(音だけ鳴らす)。
「……他愛ない」
「す、すごーい!!」
エミリアが目を輝かせて抱きついてきた。
「今の何!? 敵のブレスを花火に変えて、一撃で倒しちゃったの!? 黒騎士さん、カッコよすぎ!」
「……演出だ。今のは、君への『歓迎の祝砲』だよ(震え声)」
「キャー! キザ! でも好き!」
エミリアが腕に絡みついてくる。距離が近い。
コメント欄も『黒騎士推せる』『結婚して』と大盛りあがりだ。
俺は仮面の下で、胃薬を噛み砕きたい衝動に駆られていた。
なんとか乗り切ったが、ヴォルカン(防波堤)は脱落した。
この先は、さらに厄介なエリアが続く。
「さあ、行こうか。次は……『カジノエリア』だ」
「うん! 私、ギャンブルには自信あるの!」
無邪気に笑う勇者。
だが俺は知っている。次のエリアの担当者(カジノ支配人)が、今月のノルマ達成のために「全台回収モード(設定1)」にしていることを。
【現在同接数:10万人突破】
【ヴォルカン:再起不能】
【魔王の胃のライフ:残りわずか】




