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第15話 支持率55%と、迫りくる「勇者」の足音 〜祝勝会のメインディッシュは胃薬でした〜

 魔王城、大広間。

 そこは今、魔界始まって以来の「異文化交流パーティー」の会場と化していた。


「乾杯だぁぁぁッ!!」


 ヴォルカン将軍の野太い声と共に、無数のジョッキがぶつかり合う。

 こぼれ落ちるのは、ドワーフの火酒か、あるいは――


「シュワシュワしますわ! これが人間界の『コーラ』ですのね!」


 セレスティアが目を輝かせて、黒い炭酸飲料をあおっている。

 テーブルの上には、魔界の珍味(ドラゴンの尻尾ステーキなど)と並んで、異様な存在感を放つ料理が鎮座していた。

 極彩色のネタが乗った「特上寿司」。

 チーズがとろける「Lサイズピザ」。

 そして山盛りの「フライドポテト」。


 ゴミ問題解決の功績により、人間界との密貿易ルートを持つ商人(闇のブローカー)から差し入れられた、祝いの品々だ。


「うめぇ! この『マグロ』とかいう魚、口の中で溶けるぞ!」

「ピザ最高! チーズは飲み物だ!」


 オークやゴブリンたちが貪り食う。

 かつては敵対していた四天王の部下たちが、今は肩を組んで笑い合っている。

 それは、俺が目指した「平和」の縮図だった。


「……ふぅ」


 俺は玉座(宴会用に特別席が設けられている)で、ほうじ茶をすすった。

 視界の端にあるシステムウィンドウを確認する。


【現在支持率:55.2%(↑安定政権)】

【状態:国民の熱狂】


 過半数越え。安全圏だ。

 もう、朝起きたら死んでいるかもしれないという恐怖に怯える必要はない。


『ピロリン♪』


 さらに、心地よい通知音が鳴る。


【クエスト「ゴミ問題」達成ボーナス】

【アイテム『世界樹の胃薬(SSR)』×10を獲得しました】


「(……エクスカリバーより嬉しい)」


 俺はアイテムボックスに収納された、金色の箱に入った胃薬を見て涙ぐんだ。

 即効性、副作用なし、ストレスによる胃壁の荒れを瞬時に修復する神の薬。

 これさえあれば、あと10年は戦える。


「魔王様、お疲れ様でした」


 リルが隣に来て、新しいお茶を注いでくれた。

 彼女も少し顔が赤い。微量のアルコールが入っているようだ。


「ああ。……なんとか乗り切ったな」


「はい。一時はどうなることかと思いましたが……。今の魔王軍は、歴代で最も強固な結束を誇っていますよ」


 リルの視線の先では、幹部たちが盛り上がっていた。


「おいコラ国防大臣! 俺のポテト取っただろ! ストライキするぞ!」

「ガハハ! 減るもんじゃなし、プロテインやるから許せゴブ三郎!」

「あら、ポテトにはケチャップが必須ですわよ。……トマト成分が足りませんわ!」

「あ、魔王様こっち見てる! みんな手振って〜! 配信に乗せるよ〜!」


 ヴォルカン、ゴブ三郎、セレスティア、シルフ。

 バラバラだった四天王が、今は一つのテーブルを囲んでいる。

 カオスだが、悪くない光景だ。


「平和だ……」


 俺は椅子の背もたれに深く体を預けた。

 魔王に転生してから数週間。

 書類と格闘し、ドラゴンに殴られかけ、ゴミ山で計算し続けた日々。

 それがようやく報われたのだ。


「明日は……有給を取ろう」


 俺はポツリと呟いた。


「一日中、布団から出ないぞ。誰とも会わない。漫画を読んで、ポテチを食って、二度寝するんだ」


「ふふ、いいですね。今の支持率なら、数日は何もしなくても暴動は起きません。……私も、久々にエステに行こうかしら」


 リルも微笑む。

 ああ、素晴らしい。

 明日からはバラ色のスローライフが待っている――。


 ――ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!


 その時。

 宴会のBGMを切り裂くように、耳をつんざくサイレン音が鳴り響いた。

 楽しげだった照明が落ち、禍々しい赤色の回転灯が明滅する。


【敵襲警報! 敵襲警報!】

【第一級警戒態勢へ移行してください】


「なっ、なんだ!?」


 ヴォルカンがピザを喉に詰まらせかけながら立ち上がる。

 会場が騒然となる中、シルフが素早く空中にモニターを投影した。


「国境の検問所(料金所)からです! 監視カメラの映像出します!」


 映し出されたのは、荒野に立つ魔王軍の砦。

 そこには、強固な城壁と、警備兵であるゴーレム部隊が配置されていたはずだった。


 だが、映像の中のゴーレムは、既に粉々になっていた。

 瓦礫の山の上に、誰かが立っている。


 軍隊ではない。

 たった4人。

 先頭に立つのは――輝く金髪と、碧眼を持つ、十代後半くらいの少女。

 白銀の軽鎧に、身の丈ほどもある聖剣を背負っている。


「……人間?」


 俺が呟いた直後、少女が動いた。

 彼女は瓦礫を軽やかに飛び越えると、閉ざされた城門の前で立ち止まった。

 そして、にっこりと笑い――。


 ドガァァァァンッ!!


 右足の一蹴りで、鋼鉄の城門を紙細工のように吹き飛ばした。


「ば、馬鹿な!? あの門は魔法耐性SSのミスリル製だぞ!?」


 ヴォルカンが悲鳴を上げる。

 少女は土煙の中を悠然と歩きながら、片手に持っていた「棒」を掲げた。

 武器ではない。

 先端に魔導カメラを取り付けた、自撮り棒だ。


『はーい、みんな見てる〜?』


 モニター越しに、少女の鈴を転がすような声が響く。


『ついに国境突破! ここが魔王領の入り口だよ〜!

 門番さん強かったけど(ワンパン)、無事にクリアしましたっ☆

 今日の配信は「魔王城に突撃して、魔王の顔を拝んでみた!」をお送りしまーす!

 高評価とチャンネル登録、よろしくね!』


 彼女はカメラに向かってピースサインをし、ウインクを決めた。

 背景には、燃え上がる砦と、気絶した兵士たち。

 そのあまりに非日常的な光景と、日常的なノリのギャップに、大広間の全員が凍りついた。


「こ、個体識別反応……出ました!」


 リルが震える声で告げる。

 その名前を聞いた瞬間、俺の胃袋がギュッと縮み上がった。


「人間界の勇者、エミリアです!!」

「アポイントメントはありません! 完全な不法侵入、および器物損壊です!」


「…………」


 俺は無言で、懐から「世界樹の胃薬」を取り出した。

 封を切り、水もなしで一気に飲み込む。

 苦い味が口に広がるが、今の俺の気分の苦さに比べれば甘いものだ。


「魔王様……?」


「……宴会は中止だ」


 俺は立ち上がり、マントを翻した。


「直ちに『最高安全保障会議』を開くぞ。ピザとコーラは会議室に運べ。……長丁場になるぞ」


 モニターの中では、勇者エミリアが「あ、あっちに強そうなモンスターいる! 映えるかな?」と楽しそうに走っていく姿が映っていた。


 最強の魔王軍vs最強の勇者。

 世界の命運をかけた戦い(という名の、胃の痛くなる外交トラブル)の幕が、今上がった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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