第12話 議会決戦! 反対派を「物理」ではなく「論理(リフォーム)」で殴れ
「待てェェェい!! そのゴミ山を燃やすのは、このワシが許さんぞォォォ!!」
上空の空気がビリビリと震えた。
雲を裂いて現れたのは、全長100メートルを超える伝説の生物――古龍。
その巨体は鋼鉄のような鱗に覆われ、一呼吸するだけで嵐のような風圧を生み出している。
魔王城よりも巨大なその影が、俺とゴミ山を覆い隠した。
「な、なんだアレ!? ラスボス!?」
「放送事故だろこれ!」
コメント欄がパニックになる中、俺のインカムにヴォルカンの焦った声が飛び込んできた。
『も、申し訳ありませぬ魔王様! あれは俺の親戚……「古龍グラン・ド・ジイ(通称:おじいちゃん)」です!』
「お前の身内かよ!!」
俺は叫んだ。
国防大臣の親戚がテロリストとして乱入? どんな不祥事だ。
「おい、そこな若造! お主が今の魔王か!」
古龍が俺の目の前でホバリングする。その鼻息だけで俺の結界が揺らぐ。
魔力量だけなら俺に匹敵する、正真正銘の化け物だ。ここで戦えば、ゴミ山どころか魔都の半分が消し飛ぶ。
「……いかにも、私が魔王アルスだ。古龍よ、なぜ邪魔をする?」
俺は(内心ビビりながらも)マイクのスイッチを入れたまま、毅然と問いかけた。
これは配信中だ。交渉の様子も全てコンテンツにするしかない。
「なぜも何も! あのゴミ山は、ワシの『別荘』にする予定なんじゃ!」
「は?」
「知らんのか若造! 生ゴミの発酵熱はな、冬場の冷え切った腰にちょうどええんじゃ! ポカポカして気持ちいいんじゃよ!」
全視聴者がズッコケる音が聞こえた気がした。
『理由がショボいwww』
『ただの近隣トラブルで草』
『ドラゴンも腰痛あるのかよ』
「……つまり、貴公は『暖を取りたい』と、それだけのために国家事業を妨害しているのか?」
「それだけとは何じゃ! 老人にとって冷えは大敵なんじゃぞ! 最近の若いもんは物を大事にせんから困る! ワシが若い頃はのぅ……」
始まった。典型的な老害ムーブだ。
自分の都合だけで公共事業に反対し、説教を始める地権者。
ヴォルカンが通信越しに「じいちゃん、空気読んでくれよ……!」と泣いている。
俺はため息をついた。
力で排除するのは簡単だ。だが、それでは「高齢者を虐待した」と炎上するリスクがある。
ならば――やることは一つだ。
「……古龍よ。貴公の言い分は理解した」
俺は右手の魔法陣(攻撃用)を維持したまま、左手を岩山の方へ向けた。
「ゴミ山は不衛生だ。カビも生えるし、悪臭で孫も寄り付かなくなるぞ?」
「ふん! ならどうせと言うんじゃ! 新しい巣を作るのも面倒なんじゃよ!」
「ならば――私が用意しよう」
俺はニヤリと笑った。
「ゴミ山よりも快適で、暖かく、孫たちが遊びに来たくなるような『終の棲家』をな!」
「なに?」
俺はスキルを発動した。
【土魔法・創造】 + 【空間魔法・拡張】。
ズゴゴゴゴゴゴゴ……!!
近くの荒れ地にあった岩山が、まるで粘土細工のように変形し始めた。
岩が削れ、空洞ができ、表面が磨かれ、美しいアーチを描く。
「な、なんじゃ!? 岩が生きているように……!」
それは破壊ではない。
超高速の建築――いや、「匠のリフォーム」だ!
「完成だ。……見よ!」
土煙が晴れると、そこには巨大な「デザイナーズ洞窟」が出現していた。
入り口は広く、中は広大。
「なんじゃこれは。ただの穴ではないか。これでは寒いじゃろ」
「甘いな。……中に入ってみろ」
古龍は疑わしげに鼻を鳴らし、巨体を揺すって洞窟に着陸した。
そして、床に足をつけた瞬間。
「…………ん?」
古龍の目が丸くなった。
「あ、あったかい……? なぜじゃ、火もないのに、床が……岩盤浴のように暖かい!?」
「説明しよう!」
俺は実演販売士のように手を広げた。
「地下深くのマグマ脈から、特殊なミスリルパイプを通して熱だけを抽出! 床下を循環させることで実現した、魔界初・『全自動マグマ床暖房システム』だ!!」
『床暖房www』
『魔王工務店すげぇ』
『その物件、家賃いくらですか?』
コメント欄が爆速で流れる。
「さらに! 入り口の段差をなくした『完全バリアフリー設計』! これで足腰への負担もゼロだ!」
「壁材には湿気を吸い取る『珪藻土ゴーレムの粉末』を使用! カビの心配もありません!」
「お、おおお……!」
古龍が、その場にゴロリと寝転がった。
硬い岩肌のはずなのに、じんわりとした温もりが全身を包む。
「……ほぅ。……ほぅほぅ。これは……ええのぅ……」
強面だったドラゴンの顔が、温泉に浸かった猿のようにとろけていく。
「腰が……腰の痛みが消えていくようじゃ……。ゴミ山のようなジメジメ感もない……極楽じゃ……」
「どうだ、気に入ったか?」
「……うむ。気に入った! 文句なしじゃ! ゴミ山などくれてやる、ワシは今日からここに住む!」
古龍は尻尾をパタンパタンと振って(犬かよ)、完全にリラックスモードに入った。
『ドラゴンが堕ちたwww』
『魔王様、飴と鞭の使い分けが上手すぎる』
『これもう接待だろ』
シルフが興奮気味に実況する。
「出ましたー! 魔王様の神対応! クレーマーを顧客に変える魔法です!」
俺は額の汗を拭った。
ふぅ……なんとか収まったか。
ヴォルカンからも『ありがとうございます! じいちゃんを介護施設に入れる手間が省けました!』と感謝の念話が届く。
「……よし。これで邪魔者はいないな」
野党、世論(SNS)、そして地権者(古龍)。
全ての障害はクリアされた。
俺は再び、上空へと舞い上がる。
眼下には、まだ暴れまわっている廃棄物巨人。
……長かった。たかがゴミを燃やす許可を得るために、どれだけの労力を費やしたことか。
(だが、その手続き(プロセス)こそが、俺を「王」たらしめる!)
俺は展開されたままの魔法陣を見上げた。
200枚の申請書が変換された、幾何学模様の光。
それは、俺の苦労の結晶だ。
『魔王様! 全承認です! 視聴者数もピーク! いけます!』
リルの声が、GOサインを告げる。
「……ああ。もう全部、どうにでもなれ」
俺は全てのストレスと、魔力と、そして「早く帰りたい」という切実な願いを右手に込めた。
カメラに向かって、今日一番の、本気の顔を見せる。
「見せてやる。これが……法治国家の『必殺技』だ」
【現在支持率:49.9%(あと0.1%!)】
【古龍の満足度:★★★★★】




