第11話 SNS大臣エルフの「バズらせ」戦略 〜魔王様、今の攻撃は「画角」が悪いのでやり直しです〜
上空1000メートル。
俺の周囲には、法的な手続きをクリアした証である「巨大な魔法陣(元・申請書類)」が展開されている。
眼下には、ヘドロを撒き散らす廃棄物巨人。
もはや障害はない。あとは、この魔法陣に魔力を通し、浄化の炎を放つだけだ。
「よし……いくぞ!」
俺が右手を振り下ろそうとした、その時だ。
『ストォォォップ!!』
またしても、通信機からリルの絶叫が響いた。
「今度はなんだよ! 環境省の許可は取っただろ!?」
『法的にはクリアしました! ですが、「世論」がまだです!』
「世論?」
『今の魔王様を見てください! 悪臭漂うゴミ山の上空で、黒い魔法陣を展開して浮かぶ男……。はっきり言って「不審者」か「破壊神」にしか見えません!』
「ぐっ……(否定できない)」
『このまま魔法を放てば、「魔王がゴミ山を爆破して近隣住民を恐怖に陥れた」というニュースが流れます。支持率は下がるでしょう』
「じゃあどうしろってんだ!」
『これを「正義のショー」として演出するのです! ……彼女の出番です!』
リルの言葉と同時だった。
ヒュンッ! という風切り音と共に、何かが俺の横に飛んできた。
「おまたせ〜☆」
それは、巨大な一つ目玉の魔獣「イービルアイ」だった。
ただし、その背中には鞍がつけられ、一人の女性がまたがっている。
褐色肌に、長い耳。フードを目深にかぶったダークエルフの美女。
四天王の一角、【情報の大臣】シルフ・ウィスパーだ。
「魔王ちゃん、ヤッホー! 準備バンタンだよ〜!」
彼女は片手に最新型の「魔導スマホ」を持ち、もう片方の手でイービルアイ(空飛ぶドローン代わり)を操縦している。
「シルフ! 遅いぞ!」
「ごめんごめん、メイクに時間かかっちゃって。……さあ、配信始めるよ!」
シルフがスマホを掲げる。
同時に、魔界全土の若者が利用するSNSアプリ「マカイッター(Makaitter)」に通知が飛ぶ。
【緊急配信】魔王様が世紀のキャンプファイヤーするらしいよ #魔王 #ゴミ掃除 #激レア
「配信スタート! みんな〜、広報のシルフだよっ! 今日のゲストは魔王ちゃんでーす!」
『うわ、マジで始まったw』
『魔王様だ! 生魔王様だ!』
『後ろの怪獣なに? ゴミ? ウケるw』
空中にホログラムで、視聴者のコメントが滝のように流れ始める。
「……おいシルフ。俺は今、結界を維持するのに必死なんだが」
「ダメダメ、そんな怖い顔してちゃ! 魔王ちゃん、もっとアクションして!」
「アクション!?」
「棒立ちで魔法撃つだけじゃ視聴者が離脱しちゃうよ! ほら、巨人の攻撃をギリギリで避けるとか、ピンチを演出して!」
「無茶言うな! こっちは命がけなんだぞ!」
言いながらも、巨人のヘドロアームが迫る。
俺は(シルフに言われた通り)あえて結界を一部解除し、紙一重で回避する動きを見せる。
「ひえっ!(ガチで怖い)」
「ナイスリアクション! 『いいね』伸びてるよ〜!」
『おぉー! 危ねえ!』
『魔王様、動きキレキレじゃん』
『これCG? 特撮? クオリティ高すぎw』
コメント欄が盛り上がる。
どうやら視聴者たちは、これを「映画の撮影」か「アトラクション」だと思っているらしい。
「よし、次はキメ顔ね! カメラ目線で、斜め45度から……」
シルフがドローン(目玉おやじ)の位置を調整しようと近づいてきた、その時。
「グオオオオオ!!」
巨人が咆哮し、体から無数の「ヘドロ弾」を散弾のように発射した。
狙いは俺ではない。チョロチョロと飛び回る目玉――シルフだ。
「きゃっ!?」
シルフが悲鳴を上げる。
しかし、その視線は自分に迫る弾丸ではなく、手元のスマホに向いていた。
「やだ! レンズが汚れる!」
(自分の命よりスマホかよ!!)
俺は舌打ちをし、反射的に動いた。
シルフの前に割り込み、翻したマントでヘドロ弾をすべて受け止める。
バチュ、バチュチュッ!
高級な魔王マントが、汚泥まみれになる。
「……っ」
俺はマントを払い、シルフを背に庇ったまま言った。
「……撮影もいいが、下がりたまえ。怪我をするぞ」
本音は「邪魔だからどいてくれ、クリーニング代どうすんだこれ」だ。
だが、シルフが操るドローンのカメラは、その瞬間を逃さなかった。
汚泥にまみれながらも部下を庇い、クールに敵を見据える魔王の背中。
完璧な構図。
計算されたライティング(逆光)。
その映像が流れた瞬間、コメント欄が爆発した。
『!!!!!!!』
『え、今の見た!?』
『イケメンすぎワロタ』
『部下を庇った……!? 魔王様、聖人かよ!』
『尊い……無理……結婚して……』
『スパチャ(投げ銭)投げるわ!!』
チャリン、チャリン! と課金音が鳴り止まない。
「バズった……! 魔王様、今の顔、トレンド入り確定です!」
シルフが興奮して鼻血を出している(お前も大概だな)。
だが、効果は絶大だった。
最初は「魔王が何かやってるw」という冷やかしだった視線が、「頑張れ魔王様!」という応援の熱に変わっていくのを感じる。
(……なるほど。これが『支持率』の味か)
俺はニヤリと笑った。
お膳立ては整った。
同接(同時接続者数)は魔界人口の半数を超えている。
今、この瞬間、世界の中心は俺だ。
「シルフ。……フィナーレといこうか」
「了解です! 視聴者の期待に応えて、一番カッコいい魔法名(詠唱)でお願いします! エフェクト盛ります!」
リルからも通信が入る。
『環境省の最終許可、降りました! 風向きよし! 被害予測ゼロ! いつでも撃てます!』
俺は右手を高く掲げた。
展開された魔法陣が、呼応して輝きを増す。
カメラの向こうの数億人が、固唾を飲んで見守っている。
(やれやれ……。たかがゴミ掃除に、これだけの注目を集めるとはな)
俺は練習した「キメ顔(流し目)」を作り、心の中で呟いた。
(さあ、仕事の時間だ)
【現在支持率:49.9%】
【SNSトレンド:1位 #魔王のゴミ掃除】
あと0.1%。
魔法を放てば、支持率は過半数を超える。
――そう、俺が油断したその時。
雲を裂いて、「招かれざる客」が乱入してきた。
「待てぇぇぇい!! そのゴミ山を燃やすのは、このワシが許さんぞぉぉぉ!!」
空気を読まない大声と共に現れたのは、全長100メートルを超える伝説の生物。
古龍だった。
「……は?」
俺とシルフ、そして全視聴者の思考がフリーズした。
ラスボス(ゴミ)を倒そうとしたら、隠しボス(クレーマー)が乱入してきたんですけど!?




