ep.6
世界を救う?
それはまた、随分とスケールが大きい話だ。
だが今日はもう、驚き疲れていたせいか、不思議とすんなり受け入れている自分がいた。
「その……正直、あまり理解が追いついていないので。
できれば、順を追って説明してもらえませんか?」
僕がそう言うと、
笹本さんは「あ、いきなり過ぎましたね」と、少しだけ慌てた様子で苦笑する。
「すみません。
まずは――私たちが“授かった能力”について、説明しないといけませんね」
笹本さんは一度、小さく息を整えてから口を開いた。
「私たちが使っている力は、一般的には“異能”と呼ばれています」
異能、か。
漫画やゲームでしか聞いたことのない言葉だが、今日一日を思い返せば、否定できる材料は何一つなかった。
「魔法、超能力、血統能力……呼び方は様々ですが、本質は同じです。
人間という枠から、ほんの少しだけ外れた力」
「……それって、誰でも使えるものなんですか?」
僕がそう尋ねると、笹本さんは首を横に振った。
「いいえ。ほとんどの人は、一生その力に触れることなく生きていきます。
発現するのは、ほんの一握りです」
やっぱり、そう簡単な話じゃないらしい。
「そ、その発現条件って、わかってたりするんですか?」
僕は恐る恐る聞いてみた。
「いいえ。現在調査中です。ただ、発言する確率が非常に低い、ということだけはわかっています」
「そ、そうなんですね」
(よ、よかった!)
発現条件を知られたら、恥ずかしさで死にそうになってしまう。
「ところでいつ吸血鬼として覚醒したんですか?」
気を紛らわすために、別の質問を投げる。
「有村さんは、女性に年齢を問うんですか?」
なんだろう、この感じ。
どことなく、姉に「もう三十路だね」と言ったときの、あの威圧感に似ている。
そうか。笹本さんは吸血鬼だった。
つまり年齢は――
「ん?」
無言の圧がすごい。
これ以上踏み込んだら、殺されそうだ
と、とにかく、能力についてはわかりました。次は、世界を救うってことについて教えてもらえますか?」
ゴホン、と笹本さんは咳払いをしてから、本題に入った。
「まず、どうして私があなたを能力者だと判断したのか。その理由を説明します」
そう前置きして、笹本さんは語ってくれた。
能力者を探して、各地を飛び回っていること。
能力者の存在を感知できる、レーダーのような装置を持っていること。
そして、その結果として僕を見つけ出したこと。
疑問点は色々と浮かんだが、そういうことなら一応、納得はできる。
笹本さんによると、能力者を発見したのは実に十年ぶりらしい。
さらに、能力者は五十年に一度生まれるかどうか、というほどの希少な存在なのだという。
なるほど。
この能力は、やはり相当に貴重なものらしい。
三十歳まで童貞だったこと。
それが、僕の能力のトリガーなのだと思っていた。
しかし、よくよく考えてみれば、そんな人は日本中、いや世界中にごまんといるだろう。
その中で、なぜ僕だけが能力者として覚醒したのか。
一体、何が違ったのだろうか。
(今考えても答えは出ない。このことは、また今度考えることにしよう)
「では次に、“世界を救う”という点について話そうと思います。これからお話しする内容は、決して他言無用だということをご理解ください」
ゴクリ、と唾を飲み込む。
先ほどとは違い、笹本さんの声色は真剣で、どこか低くなったように感じられた。
ゴクリ、と唾を飲み込む。
先ほどとは違い、笹本さんの声色は真剣で、どこか低くなったように感じられた。
「私たちが所有している能力ですが――この能力は、悪用が可能です。少なくとも私は、そのようなことはしませんけど」
悪用できる、か。
笹本さんの口ぶりからして、この能力を使って“やばいこと”に利用した者たちがいるのだろう、という想像は容易だった。
確かに、この力は強大だ。
持つ者が、もし凶悪な犯罪者だったとしたら――百パーセント、悪用されるだろう。
「そして、私たちの敵は――その能力を犯罪行為に使う者たち。人は彼らを、“メフィスト”と呼んでいます」
そう言って、笹本さんはきっぱりと言い切った。




