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30歳まで童貞を貫いた結果、魔法使いになった  作者: 小雨


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ep.5

「——吸血鬼です。」


……は?


吸血鬼って、どういうことだ?


もしかして、この子——

頭がお花畑なタイプの人なんじゃないか。


そんな失礼な考えが、一瞬よぎる。


だが、彼女の表情を見るとそうは思えない。

いたって真剣だ。冗談や悪ふざけには、とても見えない。


(……いや、待て)


そもそも、だ。


僕自身が、現に魔法を使えている。

今さら吸血鬼が存在していたとしても、不思議ではないのでは?


「信じられない、という顔をしていますね」


彼女は静かにそう言うと、少しだけ距離を取った。


「……では、見ていてください」


次の瞬間。


バサッ——。


重たい音とともに、空気が揺れた。


彼女の背中から現れたのは、

光をほとんど反射しない、漆黒の翼だった。


部屋の明かりを遮るほどの大きさで、

羽ばたくたびに、ひんやりとした風が流れ込んでくる。


「どうですか?」


彼女はそう言って、こちらを振り返る。


その口元から、わずかに覗く歯は——

人間のものより、明らかに鋭く尖っていた。


「これで、私が吸血鬼だと信じていただけましたか?」


(……まじかよ)


あまりの出来事に、驚きすぎて声も出なかった。


(この世に、本当に吸血鬼なんて存在したんだな……)


「ふふ、そんな可愛い顔するんですね」


彼女は僕の顔を見ると、楽しそうに微笑んだ。


どうやら、相当とんでもないアホ面を晒していたらしい。


それなのに——

その笑顔に、不覚にも胸がドキッとしてしまった。


(……あれ?これ、セクハラじゃないよな?

いや、向こうが言ってきたんだし……)


内心で必死に言い訳していると、


「それでは、本題に入りたいと思うのですが……大丈夫ですか?」


不意に、空気が引き締まる。


「は、はい!」


反射的に、少し大きめの声で返事をしてしまった。


その間に、彼女は背中の翼をすっと消し、

何事もなかったかのように、人間の姿へと戻っていた。



「では、有村さん。

あなたは昨日の夜、なにか――

()()()()()()()が起きませんでしたか?」


やはり、そう来たか。


彼女はおそらく、僕が魔法を使えるようになったことを知っている。


だが、なぜだ?


一体いつ、バレた?


車を避けたあの瞬間か?

それとも、別の何か……。


考えれば考えるほど、背中に嫌な汗がにじむ。


(……ここは、正直に話すべきか?)


笹本さんは、初対面の僕に自分が吸血鬼だと明かした。


それはきっと、相当な覚悟とリスクを背負ったはずだ。


——なら、僕だけが隠し続けるのもフェアじゃない。


短く息を吸い、覚悟を決める。


「はい」


自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。


「笹本さんの言うとおりです。

昨日、僕は異様な出来事に巻き込まれて……

魔法が使えるようになりました」


僕がそう言うと、笹本さんの目がぱっと輝いた。


「やっぱり!」


彼女は嬉しそうに、その場で小さく飛び跳ねる。


これまで落ち着いた印象しかなかっただけに、その年相応な反応がどこか新鮮で、思わずこちらの頬も緩んでしまった。


「あ……すみません」


笹本さんは、はっとしたように口元を押さえ、軽く咳払いをする。


「私と同じ能力者に会うのが久しぶりで……つい、はしゃいでしまいました」


そう言って背筋を伸ばす姿は、先ほどまでとは打って変わって、また落ち着いた雰囲気を取り戻していた。


「笹本さん、こっちからも質問していいかな?」


彼女はコクン、と小さく頷いた。


聞きたいことは山ほどある。

だが、今いちばん気になっているのは——。


「僕が能力者かどうかを確かめに来ただけ、ってわけじゃないよね?

……他にも理由があるんじゃないかな。僕のところに来た理由が」


そう言った瞬間、

笹本さんの表情から、さっきまでののほほんとした雰囲気が消えた。


代わりに浮かんだのは、はっきりとした覚悟の色。


「はい。その通りです、有村さん」


一拍置いて、彼女は真っ直ぐに僕を見つめる。


「あなたには——私と一緒に、世界を救ってほしいんです」













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